わいせつ物頒布等の罪・公然わいせつ罪わいせつぶつはんぷとうのつみこうぜんわいせつざい
わいせつ物頒布等の罪とは、わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体などを頒布し、公然と陳列し、又は有償で頒布する目的で所持する罪をいいます。公然わいせつ罪とは、公然とわいせつな行為をする罪をいいます。
性に関する表現や行為は、見たい人だけが見るのであれば、だれかの権利を直接傷つけるわけではありません。それでも刑法は、わいせつな行為を人前でしたり、わいせつな物を広く配ったり並べたりする行為を処罰しています。社会の健全な性的風俗を守るためです。守られているのが特定の個人ではなく社会の風俗なので、相手が同意していても罪になります。反対に、広く出回るおそれのない渡し方や、国内に出回らない目的での所持は、処罰の範囲から外れます。

わいせつとは、徒らに性欲を興奮又は刺激させ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいい、芸術性や思想性があっても否定されるとは限りません
最大判昭和32年3月13日(チャタレイ事件)は、わいせつ文書とは「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」をいうとし、わいせつ性は裁判所が社会通念を基準に判断するとしました。芸術性とわいせつ性は別の次元の概念で、両立し得るとされています。その後、最大判昭和44年10月15日(悪徳の栄え事件)と最判昭和55年11月28日(四畳半襖の下張事件)は、性に関する描写の程度と手法、その描写が文書全体に占める比重、表現された思想との関連性、芸術性・思想性による性的刺激の緩和の程度などを見て、文書を全体として判断するとしています。芸術性や思想性は性的刺激を和らげる事情として考慮されますが、それがあるだけでわいせつ性が否定されるわけではありません。また、わいせつ性は文書そのものについて客観的に判断され、著者や販売者の意図は判断の基準に入りません。作品の文芸的・思想的価値を社会に主張する目的で販売したとしても、わいせつ文書頒布罪の成立は否定されません。
故意には、わいせつな記載や映像があることの認識があれば足り、刑法上のわいせつに当たるという認識までは必要ありません
チャタレイ事件判決は、175条の罪の故意について、問題となる記載の存在の認識と、これを頒布・販売することの認識があれば足り、その文書が同条のわいせつ性を備えているかどうかの認識までは必要としないとしました。内容を理解したうえで、主観的には刑法上のわいせつな文書に当たらないと信じていたとしても、法律の錯誤であって故意は否定されません。「Aは、文書に客観的にわいせつと評価される記載が存在することについては認識していたが、わいせつ文書頒布罪におけるわいせつ文書には当たらないと思ってその文書を頒布販売した。この場合、Aには、わいせつ文書頒布罪が成立する」という肢(R7 問24 オ)は正しいです。平成23年の改正で、175条の「販売」は「頒布」に改められています。
公然とは、不特定又は多数の人が認識できる状態をいい、実際にだれかが認識したことは必要ありません
174条・175条の「公然」とは、不特定又は多数の人が認識することのできる状態をいいます(最決昭和32年5月22日)。認識できる状態があれば足りるので、実際に気付いた人がいなくても公然わいせつ罪が成立します。外部との出入りを遮断した部屋の中であっても、不特定多数の人を勧誘して集めた客に見せれば、客が少数でも、不特定の人が認識できる状態といえます。判例は、こうした方法でわいせつな映画を5名の客に見せた事案で公然陳列を認めています(最決昭和33年9月5日)。公然わいせつ罪の保護法益は健全な性的風俗ですから、行為者や相手の承諾があっても違法性は阻却されません。不特定多数の人の面前で人にわいせつな行為を強いた場合は、個人の性的自由に対する罪と公然わいせつ罪の両方が成立し、観念的競合になります。

頒布とは、不特定又は多数の者に交付することをいい、有償か無償かを問いませんが、相手方に現実に届くことが必要です
175条1項前段の頒布は、わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体などを、不特定又は多数の者に交付することです。有償の販売や貸与だけでなく、無償の交付も含みます。不特定又は多数の者に向けた交付であれば、実際に受け取った者が1人でも頒布に当たります。これに対し、特定の友人1人に礼として渡す行為は、不特定又は多数の者への交付ではありません。頒布は相手方に現実に交付されたことが必要で、175条には未遂の処罰規定がありません。1項後段は、電気通信の送信によるわいせつな電磁的記録の頒布を処罰します。最決平成26年11月25日は、この頒布を「不特定又は多数の者の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を存在するに至らしめること」と定義し、顧客のダウンロード操作に応じて自動的にデータを送信する機能を備えたサイトでは、顧客の操作は送信の契機にすぎず、運営者が送信して頒布したことになるとしました。不特定多数の者に対する販売業として行っていれば、申し込んだ客が1人だけでも、送信頒布罪が成立します。頒布を受ける側の行為は、頒布という犯罪に欠かせない関与なのに処罰規定が置かれていません。そのため、買ったり借りたりしただけの者に頒布罪の共犯は成立しないと解されています。

公然と陳列するとは、わいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい、閲覧に簡単な操作が必要でも当たります
最決平成13年7月16日は、パソコンネットのホストコンピュータのハードディスクにわいせつな画像データを記憶・蔵置させ、不特定多数の会員がダウンロードして閲覧できる状態に置いた事案で、公然と陳列したとは、その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい、特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要しないとしました。動画の投稿サイトを運営する者が、わいせつな動画が投稿されることを見込んで投稿者を勧誘し、投稿された動画を不特定多数の者が閲覧できる状態にして利益を得ていた場合について、判例は、運営者と投稿者との間に黙示の意思連絡を認め、運営者に公然陳列罪の共同正犯が成立するとしています(最決令和3年2月1日)。自ら投稿していないことを理由に、運営者の公然陳列罪の共同正犯が否定されることはありません。
有償頒布目的所持罪は、日本国内で有償で頒布する目的がある場合に限って成立します
175条2項は、有償で頒布する目的で、わいせつ物を所持し、又はわいせつな電磁的記録を保管する行為を処罰します。無償で配る目的で所持しても、この罪にはなりません。また、175条は日本国内の健全な性的風俗を守る規定ですから、最判昭和52年12月22日は、販売の目的とは日本国内で販売する目的をいい、国外で販売する目的で国内で所持していたにすぎない場合には成立しないとしました。所持している物そのものを販売する目的でなくても、その内容を複写した物を販売する目的があれば足ります。判例は、販売用のCDを作るために画像データを保存した光磁気ディスクを所持した事案で、有償で頒布する目的での所持を認めています(最決平成18年5月16日)。

- 公然わいせつ罪(174条)公然とわいせつな行為をする。6月以下の拘禁刑(拘禁刑は令和7年6月から。それ以前は懲役・禁錮)若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料
- わいせつ物頒布・公然陳列(175条1項前段)わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列する
- わいせつ電磁的記録等送信頒布(175条1項後段)電気通信の送信により、わいせつな電磁的記録その他の記録を頒布する
- 有償頒布目的所持・保管(175条2項)有償で頒布する目的で、1項の物を所持し、又は電磁的記録を保管する
- 175条の刑2年以下の拘禁刑若しくは250万円以下の罰金若しくは科料、又は拘禁刑と罰金の併科。未遂の処罰規定はない
刑法 第175条第1項わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の拘禁刑若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は拘禁刑及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
最大判昭和32年3月13日徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの
試験ではこう問われる
- 作品の文芸的・思想的価値を主張する目的で販売しても、わいせつ文書頒布罪が成立し得る
- 内容を認識していれば、刑法上のわいせつ物に当たらないと考えていても、わいせつ物頒布罪の故意がある(最大判昭和32年3月13日。R7 問24 オ ○)
- 人通りの多い場所で性器を露出すれば、だれも気付かなくても公然わいせつ罪が成立する
- 相手の承諾があっても公然わいせつ罪の違法性は阻却されない
- 友人1人に礼としてDVD1枚を渡しても頒布に当たらず、発送したDVDが客に届かなければ頒布罪は成立しない
- 顧客のダウンロード操作に応じてわいせつな動画データを自動的に送信し、顧客の機器に記録・保存させれば、送信頒布罪が成立する(最決平成26年11月25日)
- 日本国外で販売する目的でわいせつ物を国内で所持しても、有償頒布目的所持罪は成立しない(最判昭和52年12月22日)

