電磁的記録・支払用カードに関する罪でんじてききろくしはらいようかーどにかんするつみ
電磁的記録・支払用カードに関する罪とは、人の事務処理に使われる電磁的記録を不正に作る罪(電磁的記録不正作出罪)と、クレジットカードやキャッシュカードを構成する電磁的記録を不正に作り、供用し、そのカードを譲り渡し、所持するなどの罪(支払用カード電磁的記録に関する罪)をいいます。
銀行の預金残高も、クレジットカードの会員情報も、いまは紙の帳簿ではなくコンピュータの中のデータとして記録されています。データは人が読む文書ではないので、文書偽造の罪ではとらえきれません。そこで刑法は、事務処理に使われるデータを不正に作る行為を、文書偽造とは別の罪として定めています。とくにクレジットカードやキャッシュカードは、磁気情報を盗み取ってにせのカードを作る手口で大きな被害が出るので、作る前の情報の取得から、作ったカードを持っているだけの段階まで、広く処罰されます。

電磁的記録不正作出罪は、人の事務処理を誤らせる目的で、権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作る罪です
161条の2第1項の客体は、人の事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録で、銀行の預金元帳ファイルや会社の会計帳簿ファイルがこれに当たります。公務所又は公務員により作られるべき電磁的記録については、2項で刑が重くなります。「不正に作った」とは、権限がないのに、又は権限を濫用して電磁的記録を作ることをいいます。データを入力する権限のある者でも、システムを設置・運営する者の意思に反して虚偽のデータを入力すれば、不正に作ったことになります。会社の経理担当者が、横領を隠すために会計帳簿ファイルに虚偽のデータを入力して記憶させた場合も、入力権限があることを理由に私電磁的記録不正作出罪が否定されることはありません。不正に作られた電磁的記録を、人の事務処理を誤らせる目的で事務処理の用に供すれば、3項の供用罪になり、供用罪は未遂も処罰されます。
支払用カード電磁的記録に関する罪は、カードを構成する電磁的記録を不正に作る行為のほか、供用、譲渡し、所持、情報の取得まで処罰します
163条の2以下は、クレジットカードなどの支払用のカードと、キャッシュカードなどの預貯金の引出用のカードを使った支払・決済の仕組みに対する信用を守る規定です。人の財産上の事務処理を誤らせる目的で、カードを構成する電磁的記録を不正に作る行為(不正作出)、不正に作られた電磁的記録を事務処理の用に供する行為(供用)、不正に作られた電磁的記録を構成部分とするカードを譲り渡し、貸し渡し、輸入する行為、そのカードを所持する行為が処罰されます。さらに、不正作出に使う目的でカードの電磁的記録の情報を取得する行為、情を知って提供する行為、不正に取得された情報を保管する行為、器械又は原料を準備する行為も、不正作出の準備として処罰されます。

- 電磁的記録不正作出・供用(161条の2第1項・3項)5年以下の拘禁刑(拘禁刑は令和7年6月から。それ以前は懲役・禁錮)又は50万円以下の罰金。公務所・公務員により作られるべき電磁的記録は10年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(2項)。供用の未遂を処罰
- 支払用カード電磁的記録不正作出・供用(163条の2第1項・2項)10年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金
- 不正電磁的記録カードの譲渡し・貸渡し・輸入(163条の2第3項)10年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金
- 不正電磁的記録カード所持(163条の3)5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
- 不正作出準備(163条の4)情報の取得・提供、情報の保管、器械・原料の準備。3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
- 未遂(163条の5)163条の2の罪と、163条の4第1項の情報の取得・提供の未遂を処罰。所持、情報の保管、器械・原料の準備には未遂の処罰がない
不正作出の対象は電磁的記録ですから、カードの外観が真正な支払用カードに見える必要はありません
文書偽造や有価証券偽造では、一般人が真正なものと誤信する外観があることが必要です。これに対し、支払用カード電磁的記録不正作出罪の客体は、カードを構成する電磁的記録です。電磁的記録は機械に読み取らせて使うものですから、機械が真正な記録として処理する電磁的記録がカードに作られれば足り、カードの表面に印刷がなくても成立します。権限がないのに、信販会社の会員名義のクレジットカードの電磁的記録を白地のカード板の磁気部分に印磁すれば、この罪が成立します。
客体はカードを構成する電磁的記録に限られ、カードの形をとらない電子マネーの記録は客体になりません
163条の2第1項は、客体を、支払用のカード又は預貯金の引出用のカードを「構成する」電磁的記録に限っています。窃取したクレジットカードの番号などの情報を決済代行業者のコンピュータに送信して、名義人が電子マネーを購入した旨の電磁的記録を作った事例では、作られたのはコンピュータ内の記録であって、カードを構成する電磁的記録ではありません。この場合、支払用カード電磁的記録不正作出罪は成立しません。この事例は、電子計算機使用詐欺罪や私電磁的記録不正作出罪の問題になります。詐取した携帯電話機に保存された電子マネーを使って商品を購入し、残高を減少させた場合も、支払用カード電磁的記録不正作出罪は成立しません。携帯電話機はカードではありません。

所持罪や貸渡し罪は、人の財産上の事務処理を誤らせる目的がなければ成立しません
不正電磁的記録カード所持罪(163条の3)は、163条の2第1項の目的、つまり人の財産上の事務処理を誤らせる目的で、不正に作られた電磁的記録を構成部分とするカードを所持した場合に成立します。他人のクレジットカードの磁気情報をコピーして不正に作成された白色カードであると認識し、後日これを使うつもりで保管していた場合には、不正電磁的記録カード所持罪が成立します。これに対し、盗んだ財布に入っていた不正なカードを、使用するつもりはなく、機会があれば友人に見せようと考えて持ち歩いていた場合には、不正電磁的記録カード所持罪は成立しません。カードを機械に読み取らせて事務処理を誤らせる目的がないからです。貸渡しは、相手方にカードの使用だけを許して引き渡すことをいい、不正に作られたものであることを告げずに真正なカードとして貸し渡す場合も含みます。自ら不正に作成した自己名義の偽造クレジットカードを、真正なカードとして友人に貸し渡した事例では、不正電磁的記録カード貸渡し罪が成立します。
不正に作出したキャッシュカードで現金自動預払機から現金を引き出せば、供用罪のほかに窃盗罪が成立します
電磁的記録部分を偽造したキャッシュカードを現金自動預払機に挿入して現金を引き出した場合、機械に電磁的記録を読み取らせる行為は不正電磁的記録カード供用罪に当たります。引き出した現金は財物ですから、財産犯としては、財産上の利益を客体とする電子計算機使用詐欺罪ではなく、銀行の意思に反して現金の占有を取得したことによる窃盗罪が成立します。機械は錯誤に陥らないので、詐欺罪にもなりません。
刑法 第163条の2第1項人の財産上の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する電磁的記録であって、クレジットカードその他の代金又は料金の支払用のカードを構成するものを不正に作った者は、十年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。預貯金の引出用のカードを構成する電磁的記録を不正に作った者も、同様とする。
刑法 第163条の3(不正電磁的記録カード所持)
前条第一項の目的で、同条第三項のカードを所持した者は、五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
試験ではこう問われる
- データの入力権限がある経理担当者でも、会計帳簿ファイルに虚偽のデータを入力すれば私電磁的記録不正作出罪が成立する
- 支払用カード電磁的記録不正作出罪は、カードの外観が真正な支払用カードに見えなくても成立する
- クレジットカードの番号を冒用してコンピュータ上に電子マネー購入の記録を作っても、カードを構成する電磁的記録ではないので支払用カード電磁的記録不正作出罪は成立しない
- 携帯電話機に保存された電子マネーの残高を減少させても、支払用カード電磁的記録不正作出罪は成立しない
- 不正に作成されたカードを使うつもりで保管すれば不正電磁的記録カード所持罪が成立し、使用するつもりがなく友人に見せるだけの目的なら成立しない
- 不正に作出したキャッシュカードで現金自動預払機から現金を引き出した行為は、電子計算機使用詐欺罪ではなく窃盗罪になる

