必要的共犯(対向犯・片面的対向犯)ひつようてききょうはん
必要的共犯とは、構成要件が初めから二人以上の者の関与を予定している犯罪のことです。向かい合う立場の者の行為があって成り立つ犯罪を対向犯といい、そのうち一方だけに処罰規定があるものを片面的対向犯といいます。
売る人がいれば、必ず買う人がいます。法律が「売ってはならない」とだけ定めて、買う側については何も定めていないとき、買った人を「売るようにそそのかした」として処罰してよいかが問題になります。買う人がいることは、売る罪を定めた時点で分かりきっています。それでも買う側を処罰する規定を置かなかったのですから、買う側は処罰しないというのが法律の考えだと受け取るのが自然です。

必要的共犯には、同じ方向に向かう集団犯と、向かい合う立場の者が関与する対向犯があります
刑法の罪の多くは一人でも犯せますが、構成要件が初めから複数の者の関与を予定しているものがあります。これを必要的共犯といい、総則の共犯規定によって初めて共犯になる場合と区別されます。必要的共犯は、次のように分けられます。対向犯の中で、双方の行為が処罰されるものについては、それぞれが各則の規定で処罰されるので、互いに相手方の罪の共犯になることはありません。問題になるのは、一方にだけ処罰規定がある片面的対向犯です。
- 集団犯内乱罪や騒乱罪のように、多数の者が同じ目的に向かって関与する犯罪です。関与の仕方に応じた刑が各則に定められています
- 対向犯(双方に同じ刑)重婚罪のように、向かい合う双方が同じ刑で処罰される犯罪です
- 対向犯(双方に異なる刑)収賄罪と贈賄罪のように、向かい合う双方が別の規定で処罰される犯罪です
- 片面的対向犯わいせつ物頒布等罪のように、頒布する側だけが処罰され、相手方を処罰する規定がない犯罪です
犯罪の成立に当然予想される関与行為に処罰規定がないときは、教唆・幇助としても処罰しないのが原則です
最判昭和43年12月24日は、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことを処罰する弁護士法の罪について判断しました。この罪は、事件の解決を依頼して報酬を与える者がいて初めて成立しますが、依頼した者を処罰する規定はありません。判決は、ある犯罪が成立するについて当然予想され、むしろそのために欠くことができない関与行為について、これを処罰する規定がない以上、関与を受けた側の可罰的な行為の教唆もしくは幇助として処罰することは、原則として法の意図しないところであるとしました。同じ考え方から、わいせつな動画が収録されたDVDを貸してほしいと申し込んで借り受けた者に、わいせつ電磁的記録記録媒体頒布罪の教唆犯は成立しません。借りる側の申込みは、頒布する罪が成立するのに当然予想される行為だからです。
関与が当然予想される範囲を超えたときは、相手方にも共犯が成立し得ます
処罰されないのは、その犯罪が成立するのに通常伴う範囲の関与にとどまる場合です。相手方が、通常の取引の範囲を超えて、犯罪の実現に積極的に加担したときは、総則の共犯規定によって共犯になり得ます。背任罪は、任務に背く取引の相手方がいて成り立つことが多い罪ですが、相手方が一律に不可罰になるわけではありません。債権が既に譲渡済みであることを確実に知りながら、転売して利益を得る目的で、譲渡人に強く働き掛けて二重に譲り受けた者について、必要的共犯の関係を理由に背任罪の共同正犯が否定されることはありません。強く働き掛けて背任行為を実現させた者は、単なる取引の相手方にとどまらないからです。
収賄罪と贈賄罪は対向犯ですが、賄賂の要求は相手方が応じなくても収賄罪になります
賄賂の収受と供与、約束は、公務員と相手方の双方の行為があって成り立ちます。この意味で、収賄罪と贈賄罪は対向犯です。しかし、197条1項は、賄賂の収受と約束のほかに、賄賂の要求も処罰しています。要求は、公務員が賄賂を求める意思を相手方に示すことで成立し、相手方が応じることを必要としません。要求する行為それ自体が、職務の公正とそれに対する社会の信頼を害するからです。公務員が時価を超える価格で土地を購入するよう依頼したが相手方が拒否した場合でも、収賄罪と贈賄罪が対向犯であることを理由に収賄罪(要求)が否定されることはありません。贈賄罪の側でも、賄賂の申込みは、公務員が応じなくても成立します。

犯人隠避罪は必要的共犯ではなく、犯人が他人に自己の隠避を教唆した場合は教唆犯の成否が問題になります
犯人隠避罪は、犯人以外の者が犯人を隠避させる罪であり、犯人が働き掛けなくても成立します。犯人の働き掛けが構成要件上予定されているわけではないので、必要的共犯ではありません。犯人が他人を唆して自分を隠避させた場合に教唆犯が成立するかについては、犯人隠避は犯人が働き掛けることによって行われるのが通常だから本来は必要的共犯と理解すべきである、という論拠が示されることがあります。この論拠は、処罰規定のない犯人の側は教唆犯としても処罰されないという結論に結び付くので、教唆犯の成立を否定する見解の根拠になります。成立を認める見解の根拠にはなりません。判例は、教唆犯の成立を認めています(最決昭和35年7月18日)。罪を犯した者自身について、「他人に自らを蔵匿・隠避するよう教唆する行為には犯人蔵匿等罪の教唆が成立する」という肢(R7 問25 エ)は正しいです。
刑法 第197条第1項公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の拘禁刑に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の拘禁刑に処する。
試験ではこう問われる
- 罪を犯した者が他人に自らを蔵匿・隠避するよう教唆すれば、犯人蔵匿等罪の教唆が成立する(最決昭和35年7月18日、R7 問25 エ ○)
- 犯罪の成立に当然予想される関与行為に処罰規定がないときは、教唆・幇助としても処罰しないのが原則である(最判昭和43年12月24日)
- 関与が当然予想される範囲を超えて積極的に加担すれば、相手方にも共犯が成立し得る
- 賄賂の要求は、相手方が応じなくても収賄罪になる(197条1項)
- 収賄罪と贈賄罪のように、向かい合う立場の者が関与して成り立つ罪を対向犯という

