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故意の意義と種類(未必の故意・概括的故意・意味の認識)こいのいぎとしゅるい

刑法 第3章 故意・錯誤・過失 過去問で1肢

故意とは、罪を犯す意思のことで、犯罪事実を認識し、その実現を認容することをいいます。結果の発生を確定的なものとして認識していなくても、発生するかもしれないと認識しつつそれでも構わないと認容していれば、未必の故意として故意が認められます。

夜道で車を飛ばす人が「人が飛び出してきたらひいてしまうかもしれないが、それでも構わない」と思って走るのと、「自分の腕なら避けられるから大丈夫だ」と思って走るのとでは、同じ事故を起こしても責められ方が違います。刑法は、犯罪になる事実を分かったうえであえて行為に出た人を、うっかりの人よりも重く非難します。そこで、行為者が何を認識し、結果をどう受け止めていたかによって、故意と過失を分けています。

リサイクル店のカウンターの場面。先生が店主役(札「買い受ける人」)でカウンターの内側に立ち、向かいに男性の客(札「売りに来た人」)が腕時計や指輪を詰めた紙袋を差し出している。先生の頭の上に考えごとの吹き出し「盗品かもしれない。それでも構わな

故意は、犯罪事実を認識し、その実現を認容したときに認められます

刑法38条1項は「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」と定め、故意犯の処罰を原則としています。故意があるというためには、構成要件に該当する客観的事実を認識・予見していることが必要です。そのうえで、結果の発生を不確実なものとして認識しているにとどまる場合に、どこまでを故意とするかについて見解が分かれます。認容説は、結果が発生しても構わないと認容した場合が未必の故意で、結果発生の可能性を認識しつつ大丈夫だろうと打ち消した場合が認識のある過失だとします。蓋然性説は、結果発生の蓋然性が高いと認識したかどうかで分けます。動機説は、行為を思いとどまる動機とすべき事実を認識しながら行為に出たかどうかで分けます。判例は、故意を認めるときに「あえて」という表現を用いることが多く、認容説に親和的であるといわれています。認容を欠く場合を認識のない過失、認容がある場合を認識のある過失とする整理は誤りです。認容がある場合は故意であって過失ではなく、認識のない過失と認識のある過失は、犯罪事実の認識があるかどうかで分かれるからです。

  • 確定的故意犯罪事実の実現を確定的なものとして認識している場合です
  • 未必の故意結果の発生を不確実なものとして認識しつつ、発生しても構わないと認容している場合です
  • 認識のある過失結果発生の可能性は認識したが、認容を欠く場合です
  • 認識のない過失犯罪事実の認識そのものを欠く場合です
教室の場面。先生が教師役で黒板の前に立ち、指示棒で黒板を指している。黒板には上から4段の表が書かれ、1段目「確定的故意:結果を確定的なものとして認識」、2段目「未必の故意:結果が発生するかもしれないと認識し、発生しても構わないと認容」、3段

盗品かもしれないと思いながらあえて譲り受ければ、未必の故意が認められます

最判昭和23年3月16日は、盗品を買い受ける罪の故意について、買い受ける物が盗品であることを確定的に知っている必要はなく、盗品であるかもしれないと思いながらしかもあえてこれを買い受ける意思、すなわち未必の故意があれば足りるとしました。盗品かもしれないと認識していたが、値段が安いのでそれでも構わないと思って有償で譲り受けた場合には、盗品等有償譲受け罪が成立します。盗品かもしれないという認識と、それでも構わないという認容がそろっているからです。故意は行為の時点にあれば足ります。盗品かもしれないと思いながらあえて有償で譲り受けた後、刻まれたイニシャルに気付いて盗品ではないと確信するに至った場合も、盗品等有償譲受け罪が成立します。譲り受けた時点で未必の故意があった以上、その後に盗品ではないと確信しても、既に成立した罪は左右されません。逆に、盗品と知らずに保管を始めた者が途中で盗品と知り、その後も保管を続けた場合について、「Aは,Bから頼まれて盗品とは知らずに自動車を保管することとし,保管を始めて数か月間が経過した時点で,当該自動車はBが窃取した盗品であると知るに至ったが,Bによる窃盗の犯行の発覚を防ごうと考え,その後もBのためにその保管を継続した。この場合において,Aには,盗品等保管罪は成立しない」という肢(R3 問26 オ)は誤りです。

覚醒剤を含む違法な薬物類という認識があれば、覚醒剤所持罪の故意に欠けるところはありません

最決平成2年2月9日は、被告人に「覚醒剤を含む身体に有害で違法な薬物類である」との認識があった事案で、覚醒剤かもしれないし、その他の身体に有害で違法な薬物かもしれないとの認識はあったことに帰するとして、覚醒剤輸入罪と同所持罪の故意を認めました。対象物が覚醒剤であると確定的に認識している必要はなく、認識していた薬物類の範囲に覚醒剤が含まれていれば足りるということです。「Aは,覚醒剤を所持していたが,これについて,覚醒剤であるとは知らなかったものの,覚醒剤などの身体に有害で違法な薬物かもしれないが,それでも構わないと考えていた。この場合,Aには,覚醒剤所持罪の故意が認められる」という肢(R3 問24 ウ)は正しいです。これに対し、身体に有害で違法な薬物類であるとの認識はあっても、覚醒剤や麻薬類ではないと認識していた場合には、覚醒剤所持罪の故意は認められません。覚醒剤であることを認識から排除している以上、覚醒剤かもしれないという認識があったとはいえないからです。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座り、証言台に男性(札「被告人」)が立つ。証言台の横の机に小さな包み(札「覚醒剤を含む結晶」)。被告人の吹き出し「覚醒剤だとは確定的には知らなかった。身体に有害で違法な薬物類だとは思っていた

結果の生じる客体が不特定でも、実行を一定の事態にかからせていても、故意は認められます

一定範囲の客体のどれかに結果が発生することは確実だが、その客体や個数が不特定である場合を概括的故意といいます。複数の客体のいずれか一方に結果が生じることは確実だが、どちらに生じるかが不確定である場合を択一的故意といいます。いずれも故意の一種であり、故意が否定されることはありません。「Aは,Bを殺害する意図で,B及びその同居の家族が利用するポットであることを知りながら,これに毒物を投入したところ,B並びにその同居の家族であるC及びDがそのポットに入った湯を飲み,それぞれその毒物が原因で死亡した。この場合,Bの同居の家族がC及びDの 2 名であることをAが知らなかったとしても,Aには,B,C及びDに対する殺人罪の故意が認められる」という肢(R3 問24 ア)は正しいです。ポットの湯を飲む家族のだれかが死亡することを認識しながら毒物を入れているからです。犯罪の実行を一定の条件の発生にかからせる場合を条件付き故意といいます。最判昭和59年3月6日は、謀議の内容では被害者の殺害を一定の事態の発生にかからせていたとしても、殺害計画を遂行しようとする意思が確定的であったときは、殺人の故意の成立に欠けるところはないとしました。「もしAが要求を聞き入れなかったら殺してこい」と指示して拳銃を渡した場合にも、殺人罪の故意が認められます。実際に殺害するかを実行者の判断に任せて拳銃を渡した場合でも、もめごとが起きることがあり得ると認識していれば、殺人罪の故意が認められます。最決昭和56年12月21日も、実行に着手すべき事態の判断を現場に赴く者に委ねた事案で、計画を遂行しようとする意思そのものは確定的であったとして故意を認めています。

わいせつ性のような規範的構成要件要素は、意味の認識があれば故意が認められます

「わいせつ」のように、裁判官の評価を経てはじめて当てはまるかどうかが決まる要素を、規範的構成要件要素といいます。この要素については、条文の文言に当たるという認識までは不要で、その物が社会的にどのような意味をもつかという意味の認識があれば足りると解されています。最大判昭和32年3月13日(チャタレイ事件)は、刑法175条の罪の犯意は、問題となる記載の存在の認識とこれを頒布販売することの認識があれば足り、わいせつ性を具備するかどうかの認識までは必要でないとしました。主観的にわいせつ文書に当たらないと信じていても、それは法律の錯誤であって犯意を阻却しないとしています。「Aは、文書に客観的にわいせつと評価される記載が存在することについては認識していたが、わいせつ文書頒布罪におけるわいせつ文書には当たらないと思ってその文書を頒布販売した。この場合、Aには、わいせつ文書頒布罪が成立する」という肢(R7 問24 オ)は正しいです。DVDの映像を再生して内容を認識していたが、この程度ではわいせつ図画に当たらないと考えていた場合も、わいせつ図画販売罪が成立します。いずれも内容を認識したうえで販売しており、条文に当たらないと考えたことは故意を左右しないからです。

故意の対象は構成要件に該当する客観的事実であり、判例は公共の危険の発生の認識を不要としています

故意があるというために認識していなければならないのは、構成要件に該当する客観的事実です。どこまでがその対象に含まれるかは、罪ごとに問題になります。最判昭和60年3月28日は、刑法110条1項の放火罪が成立するためには、火を放って同条所定の物を焼損する認識が必要であるが、公共の危険を発生させることまでを認識する必要はないとしました。他人の自動車に放火した者が、公共の危険が発生するとは認識していなかったとしても、建造物等以外放火罪の故意は否定されません。他人の自動車に放火して焼損する認識がある以上、判例の立場では故意に欠けるところはないからです。なお、認識した事実と発生した事実が食い違う場合に故意が認められるかは、事実の錯誤の問題として別に扱われます。

刑法 第38条第1項

罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

刑法 第38条第3項

法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

試験ではこう問われる

  1. 覚醒剤とは知らなくても、身体に有害で違法な薬物かもしれないと認識し、それでも構わないと考えていれば、覚醒剤所持罪の故意が認められる(最決平成2年2月9日、R3 問24 ウ ○)
  2. 家族が使うポットに毒物を入れた場合、家族の人数を知らなくても、死亡した全員に対する殺人罪の故意が認められる(R3 問24 ア ○)
  3. わいせつと評価される記載の存在を認識していれば、わいせつ文書に当たらないと思っても、わいせつ文書頒布罪が成立する(最大判昭和32年3月13日、R7 問24 オ ○)
  4. 盗品と知らずに保管を始めても、盗品と知った後に保管を続ければ、盗品等保管罪が成立する(R3 問26 オ ×)
  5. 盗品かもしれないと思いながらあえて譲り受ければ、盗品等有償譲受け罪の故意が認められる(最判昭和23年3月16日)
  6. 認容があれば未必の故意であり、認識のある過失と認識のない過失は、犯罪事実の認識の有無で分かれる
  7. 建造物等以外放火罪の故意に、公共の危険が発生することの認識は要らない(最判昭和60年3月28日)

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