虚偽公文書作成罪と間接正犯きょぎこうぶんしょさくせいざいとかんせつせいはん
虚偽公文書作成罪とは、公文書の作成権限を持つ公務員が、その職務に関し、行使の目的で、内容の虚偽な公文書を作成する罪をいいます。作成権限のない者が、情を知らない作成権限者を利用して内容の虚偽な公文書を作らせた場合に、この罪の間接正犯が成立するかが問題になります。
役所の証明書は、窓口の人が申請の内容を信じて作ります。申請した人がうそを書いていれば、できあがった証明書の中身もうそになります。このとき、証明書を作った職員はだまされただけです。そこで、うその申請をした人がうその公文書を作った罪に問われるかが問題になります。刑法は、うその公文書を作る罪を、作る権限を持つ公務員の罪として定めています。そして、申請した側の罪は、登記簿や戸籍簿のような特に重要な文書に限って別に定めています。

虚偽公文書作成罪は、その文書の作成権限を持つ公務員だけが主体になります
156条は、公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書等を作成したときに成立します。主体は、その文書を作成する権限を持つ公務員に限られます。私文書では、内容の虚偽な文書を作成権限のある者が作る行為は原則として処罰されませんが、公文書は信用が高いので、こうした虚偽作成も処罰されます。医師が公務所に提出すべき診断書に虚偽の記載をすれば虚偽診断書等作成罪(160条)ですが、医師が公務員であって、職務として作成する診断書に虚偽の記載をした場合は、より重い虚偽公文書作成罪が成立します。
公務員でない者が情を知らない公務員に虚偽の申立てをして虚偽の公文書を作らせても、157条に当たる場合を除いて、虚偽公文書作成罪の間接正犯は成立しません
最判昭和27年12月25日は、公務員でない者が虚偽の公文書作成の間接正犯であるときは、157条の場合のほかは処罰しない趣旨であるとしました。理由は、刑法が、156条とは別に、公務員に虚偽の申立てをして権利義務に関する公正証書の原本や免状、鑑札、旅券に不実の記載をさせた場合に限って157条を設け、しかも156条よりも著しく軽い刑で処罰している点にあります。157条に挙げられていない公文書について156条の間接正犯を認めると、重要な文書について軽く処罰し、それ以外の文書について重く処罰することになってしまいます。公務員でない者が虚偽の内容の証明願を提出して、村長名義の虚偽の証明書を作成させても、虚偽公文書作成罪の間接正犯は成立しません。登記簿に不実の記載をさせた場合や、公証人に公正証書の原本に虚偽の記載をさせた場合は、157条1項の公正証書原本不実記載罪が成立し、虚偽公文書作成罪の間接正犯にはなりません。

作成権限のない者が作成権限者を利用した場合について、学説では否定説と肯定説が対立しています
学説では、作成権限のない者が作成権限者を利用した場合について、二つの見解が並びます。否定説は、157条が156条の間接正犯に当たる行為のうち一定の文書についてだけ、刑を大幅に軽くして処罰しているのだから、それ以外の文書について156条の間接正犯は成立しないと考えます。肯定説は、156条の間接正犯は一般的に成立し、157条に当たるときは157条だけが成立すると考えます。肯定説に対しては、157条に挙げられていない文書のほうが重く処罰されることになり、刑の均衡を欠くという批判が向けられます。判例は、公務員でない者については否定説と同じ結論をとっています。
作成権限者を補佐して起案を担当する公務員が、情を知らない上司に署名させて内容虚偽の公文書を作らせれば、虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立します
最判昭和32年10月4日は、県の地方事務所の建築係が、着工していない住宅について工事が進んでいる旨の虚偽の報告を記載し、情を知らない地方事務所長に記名・捺印させて内容虚偽の現場審査合格書を作らせた事案です。最高裁は、虚偽公文書作成罪は作成権限者である公務員を主体とする身分犯であるとしつつ、作成権限者たる公務員の職務を補佐して公文書の起案を担当する職員が、その地位を利用し、行使の目的で、職務上起案を担当する文書について内容虚偽のものを起案し、情を知らない上司に真実と誤信させて署名もしくは記名・捺印させた場合も、虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立するとしました。起案を担当する公務員は、文書の作成に職務として関わっているので、私人が窓口で虚偽の申立てをする場合とは扱いが異なります。

- 公務員でない者が、情を知らない公務員に虚偽の申立てをした157条の文書(登記簿・戸籍簿・免状・鑑札・旅券など)なら157条の罪。それ以外の公文書は不可罰
- 起案を担当する補助公務員が、情を知らない作成権限者に署名させた虚偽公文書作成罪の間接正犯
- 作成権限のある公務員が、情を知らない部下に作成させた虚偽公文書作成罪の間接正犯
- 公務員でない者が、作成権限のある公務員と共謀した公務員に虚偽公文書作成罪、公務員でない者も65条1項により共犯
供述をそのまま録取した調書は、供述の内容が事実と違っていても、虚偽の文書には当たりません
供述調書は、供述者がどのように述べたかを記録する文書です。虚偽かどうかは、供述そのものと調書の記載が合っているかで決まります。供述の内容が客観的事実と異なっていても、述べられたとおりに録取していれば、内容虚偽の文書を作成したことにはなりません。司法警察員が、参考人の供述が客観的事実と異なると分かったうえで、その供述をそのまま録取した供述調書を作成して署名押印しても、虚偽公文書作成罪は成立しません。
虚偽公文書作成の教唆を共謀した者の一人が公文書偽造を教唆した場合、他の共謀者には公文書偽造罪の教唆犯が成立します
最判昭和23年10月23日は、公務員に虚偽の公文書を作成させることを共謀した者の一人が、買収に失敗したため、他の共謀者に無断で第三者に公文書の偽造を教唆した事案で、両罪は構成要件を異にするものの罪質を同じくし法定刑も同じであるとして、公文書偽造教唆について故意を阻却しないとしました。成立するのは、実際に行われた公文書偽造罪の教唆犯です。県立病院の医師に内容虚偽の診断書を作成させる旨を共謀した後、共謀者の一人が自ら医師名義で診断書を作成した場合も、行われたのは公文書偽造ですから、虚偽診断書作成罪の共同正犯は成立しません。共謀した内容と実際に行われた犯罪がずれた場合の考え方は、総論の共犯と錯誤で扱います。
刑法 第156条(虚偽公文書作成等)
公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書等若しくは電磁的記録文書等を作成し、又は文書等若しくは電磁的記録文書等を変造したときは、印章等又は電磁的記録印章等の有無により区別して、前二条の例による。
最判昭和32年10月4日作成権限者たる公務員の職務を補佐して公文書の起案を担当する職員が、その地位を利用し行使の目的をもつて
試験ではこう問われる
- 公務員でない者が情を知らない係員に虚偽の申立てをして村長名義の虚偽の証明書を作らせても、虚偽公文書作成罪の間接正犯は成立しない(最判昭和27年12月25日)
- 公務員でない者が虚偽の申立てをして登記簿や公正証書の原本に不実の記載をさせた場合は、虚偽公文書作成罪の間接正犯ではなく公正証書原本不実記載罪が成立する
- 起案を担当する公務員が情を知らない上司に署名押印させて内容虚偽の公文書を作らせれば、虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立する(最判昭和32年10月4日)
- 司法警察員が、事実と異なると分かっている参考人の供述をそのまま録取した供述調書を作成しても、虚偽公文書作成罪は成立しない
- 公務員である医師が職務上作成する診断書に虚偽の病名を記載すれば、虚偽診断書等作成罪ではなく虚偽公文書作成罪が成立する
- 虚偽公文書作成の教唆を共謀した者の一人が公文書偽造を教唆した場合、他の共謀者に成立するのは公文書偽造罪の教唆犯である(最判昭和23年10月23日)

