共犯と身分きょうはんとみぶん
共犯と身分とは、公務員や他人の物の占有者のように一定の身分がなければ成立しない犯罪や、身分によって刑の重さが変わる犯罪に、身分のない者が関与した場合の扱いをいい、65条が定めています。1項は身分のない者も共犯とすると定め、2項は身分のない者には通常の刑を科すると定めます。
会社の金庫を任されている経理担当者が会社の金を使い込むと、業務上横領罪になります。では、金庫を任されていない友人がそれをそそのかした場合、友人はどうなるのでしょう。友人は会社の金を預かる立場にないので、一人では横領罪を犯せません。それでも、担当者を通じて会社に損害を与えたことは同じです。そこで65条は、身分のない者も共犯として処罰したうえで、刑の重さは各人の身分に応じて決めることにしています。

身分は、一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位又は状態をいい、継続的なものに限られません
最判昭和27年9月19日は、65条の身分を、男女の性別、内外国人の別、親族の関係、公務員たるの資格のような関係のみに限らず、総て一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位又は状態を指称するものとしました。この定義には継続性が含まれていないので、身分は犯人の一身的な継続的属性に限られません。最判昭和42年3月7日は、麻薬の輸入について営利の目的の有無によって刑に軽重を設けている規定について、営利の目的という犯人の特殊な状態の差異は65条2項の身分に当たるとし、目的を有しない者には通常の輸入罪の刑を科すべきであるとしました。したがって、目的犯に当たる犯罪行為を、その目的を有する者と有しない者が共同して行った場合にも、65条が適用されます。他方で、65条の身分は、特定の犯罪の成立や刑の重さに関わるものに限られます。責任能力や自首はすべての犯罪に共通する事情であり、65条の身分ではありません。責任能力のある者が刑事未成年者を教唆して犯罪を行わせても、65条は適用されません。共犯者のうち一人に自首が成立しても、65条1項の適用はなく、減免の効果は自首した者以外には及びません。親族間の犯罪に関する特例も行為者ごとに働き、「Aは、先輩であるBと共謀して、Bと不仲であったBの同居の実母Cの金庫内から、C所有の現金を盗んだ。この場合、Aは、窃盗罪の刑が免除される」という肢(R5 問26 2)は誤りです。244条3項が、親族でない共犯には刑の免除の規定を適用しないと定めているからです。
65条1項と2項の関係については、三つの見解が並びます
1項は身分のない者にも共犯の成立を認め、2項は身分のない者には通常の刑を科すると定めており、身分が連帯して働く場合と個別に働く場合の両方を定めています。二つの項をどう読み分けるかについて、次の三つの見解があります。真正身分犯とは収賄罪のように身分があって初めて犯罪になるものをいい、不真正身分犯とは業務上横領罪や常習賭博罪のように身分によって刑が加重又は減軽されるものをいいます。判例・通説の見解に対しては、真正身分犯では身分を連帯的に作用させ、不真正身分犯では個別的に作用させることの実質的根拠が明らかでないという批判が向けられます。違法身分と責任身分で分ける見解に対しては、身分が違法性に関係する場合と責任に関係する場合を区別することは困難であるという批判が向けられます。1項を成立、2項を科刑の規定とする見解は、1項が「共犯とする」、2項が「通常の刑を科する」と規定していることを根拠の一つにしていますが、罪名と科刑が分離するという批判が向けられます。
- 判例・通説1項は真正身分犯の成立と科刑についての規定であり、2項は不真正身分犯の成立と科刑についての規定であるとします
- 違法身分と責任身分で分ける見解1項は身分が違法性に関係する場合についての規定であり、2項は身分が責任に関係する場合についての規定であるとします
- 成立と科刑で分ける見解1項は真正身分犯・不真正身分犯を通じて共犯の成立についての規定であり、2項は不真正身分犯の科刑についての規定であるとします

判例は、非占有者が業務上占有者の横領に加功した場合、業務上横領罪の共犯を成立させ、単純横領罪の刑を科します
業務上横領罪は、占有者であることと業務者であることの二つの身分が重なった罪です。占有者という身分は横領罪を構成する身分であり、業務者という身分は刑を加重する身分です。最判昭和32年11月19日は、村の収入役が業務上保管していた金員を、その業務に従事していない村長らが収入役と共謀して費消した事案で、村長らは65条1項により業務上横領罪の共同正犯として論ずべきものであるが、業務上物の占有者たる身分のない者であるから、65条2項により通常の横領罪の刑を科すべきものであるとしました。この処理は、結論として、1項を成立、2項を科刑の規定とする見解と同じになります。その見解からは、財物の非占有者が業務上占有者を教唆して横領させた場合、業務上横領罪の教唆犯が成立し、単純横領罪の刑が科せられるという結論になります。当てはめの詳しい説明は、各論の業務上横領罪と共犯の語に置きます。
不真正身分犯では、身分のない者には通常の刑の罪が成立し、身分のある者が身分のない者に加功した場合にも2項が適用されます
常習賭博罪の常習性は、刑を加重する身分です。判例・通説の見解からは、賭博の非常習者が常習者を教唆して賭博をさせた場合、正犯には常習賭博罪が成立し、教唆した者には2項により単純賭博罪の教唆犯が成立するという結論になります。この見解から、常習賭博罪の教唆犯が成立するという結論にはなりません。1項を成立、2項を科刑とする見解からは、同じ事例で常習賭博罪の教唆犯が成立し、科刑は単純賭博罪の刑となるという結論になります。判例(大判大正2年3月18日)の立場では、常習性のない者に常習賭博罪の幇助犯は成立しません。逆に、身分のある者が身分のない者の行為に加功した場合にも、判例は2項を適用します。大判大正3年5月18日は、賭博の常習者が非常習者の賭博を幇助した事案で、常習賭博罪の幇助犯が成立するとしました。賭博の常習者が非常習者に賭博を教唆した場合にも65条2項が適用され、単純賭博罪の教唆犯にとどまるのではありません。保護責任者遺棄罪でも同じ考え方をします。2項を、身分に応じて加重又は減軽された身分犯が成立するという意味に解する見解からは、保護責任者である母が保護責任者でない者を教唆して子を遺棄させた場合、母には保護責任者遺棄罪の教唆犯が、実行した者には単純遺棄罪が成立するという結論になります。他方、生存に必要な保護をしないという不保護は、単純遺棄罪に処罰規定がないので、保護責任者という身分は罪を構成する身分になります。判例・通説の見解からは、保護責任者を唆して必要な保護をやめさせた者には、1項により保護責任者遺棄罪の教唆犯が成立し、科刑も同罪の刑になります。この事例で、科刑が単純遺棄罪の刑になるという結論にはなりません。

目的や「窃盗」という地位を身分とみるかどうかで、共犯に成立する罪名が変わります
判例・通説の見解に立ち、目的犯における目的も身分に含まれると解すると、営利の目的を有する者が人を買い受けるのを、その目的を有しない者が幇助した場合、正犯には営利目的の人身買受け罪が成立し、幇助した者には2項により通常の人身買受け罪の幇助犯が成立するという結論になります。事後強盗罪の「窃盗」をどう捉えるかでも結論が分かれます。同じ見解に立ち、事後強盗罪は「窃盗」という身分を有する者だけが犯せる真正身分犯であって他の犯罪の加重類型ではないと解すると、窃盗に関与していない者が窃盗犯人の暴行を幇助した場合、1項により事後強盗罪の幇助犯が成立し、その刑が科されるという結論になります。事後強盗罪を暴行罪・脅迫罪の加重類型とみれば2項の問題になり、身分犯ではなく窃盗と暴行・脅迫が結び付いた罪とみれば承継的共犯の問題になります。この対立は、各論の事後強盗罪と共犯の語で説明します。
1項の「共犯」には、教唆犯・幇助犯だけでなく共同正犯も含まれます
身分のない者は実行行為ができないのだから共同正犯にはなれない、という考え方もあり得ますが、判例は1項の「共犯」に共同正犯を含めています。身分のない者も、身分のある者と共同することで法益を侵害できるからです。かつての強姦罪は男性だけが主体になる罪と解されており、判例は、女性が男性と共謀して被害者の体を押さえ付けた事案で、1項により女性にも共同正犯の成立を認めていました(最決昭和40年3月30日)。なお、強姦罪は現在は不同意性交等罪に改められています。不同意性交等罪は主体を限定していないので、現在は65条を使うまでもなく、女性にも共同正犯が成立します。
刑法 第65条第1項犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。
刑法 第65条第2項身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。
試験ではこう問われる
- 65条の身分は、一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位又は状態をいい、継続的なものに限られない(最判昭和27年9月19日)
- 営利の目的も65条2項の身分に当たる(最判昭和42年3月7日)
- 非占有者が業務上占有者と共謀して横領した場合、65条1項で業務上横領罪の共同正犯となり、2項で単純横領罪の刑が科される(最判昭和32年11月19日、H26 問24 エ ○・出題当時、R1 問24 ウ ○・出題当時)
- 賭博の常習者が非常習者の賭博を幇助すれば、常習賭博罪の幇助犯が成立する(大判大正3年5月18日)
- 65条1項の「共犯」には共同正犯も含まれる
- 責任能力や自首は65条の身分ではない
- 被害者の親族と共謀して窃盗をしても、親族でない共犯者には刑の免除は適用されない(244条3項、R5 問26 2 ×)

