公文書偽造と作成権限(補助公務員)こうぶんしょぎぞうとさくせいけんげん
公文書偽造とは、作成権限がないのに、公務所又は公務員の名義で、公務所又は公務員の作成すべき文書を作ることをいいます。作成権限のある公務員が内容の虚偽な文書を作る虚偽公文書作成とは、作成権限の有無で区別されます。
市役所でもらう印鑑証明書には市長の名前と公印がありますが、市長が1枚ずつ書いているわけではありません。窓口の職員が市長から任されて作っています。任されている職員が作れば市長の文書ですが、任されていない人が市長の名前で作れば、にせの公文書になります。公文書は役所が作ったというだけで世の中から信用されるので、だれが作る権限を持っているかが、公文書偽造罪になるかどうかの分かれ目になります。

公文書は、公務所又は公務員が職務上作成する文書で、名義人が公務所・公務員である文書をいいます
公文書偽造罪(155条)の客体は、公務所又は公務員の作成すべき文書・図画と、令和7年の改正で加わった電磁的記録文書等です。文面に私人の氏名が書かれていても、名義人が公務所・公務員であれば公文書です。運転免許証の名義人は公安委員会で、公立高校の卒業証書の名義人は校長ですから、いずれも公文書に当たります。公文書偽造罪は行使の目的を必要としますが、この目的は、文書の本来の用法に従って使う目的に限られず、真正な文書としてだれかに認識させる目的であれば足ります。最決昭和42年3月30日は、偽造した県立高校校長名義の卒業証書を、真正に成立したものとして父親に提示した行為を偽造公文書行使罪に当たるとしました。公立高校を中途退学した者から頼まれ、その父親に呈示させる目的で校長名義の卒業証書を無断で作成した場合も、公文書偽造罪が成立します。父親に見せて安心させる目的も行使の目的に当たります。
作成権限のない者が公務所・公務員の名義で作れば公文書偽造罪で、作成権限のある公務員が内容の虚偽な文書を作れば虚偽公文書作成罪です
偽造とは、名義人と作成者の人格の同一性を偽ることをいい、作成権限のない者が他人の名義で文書を作ることです。公文書偽造罪の主体に制限はないので、私人が作っても、公務員が作っても、その文書を作成する権限がなければ公文書偽造罪になります。これに対し、虚偽公文書作成罪(156条)は、その文書の作成権限を持つ公務員だけが主体になる罪です。偽造か虚偽作成かは、文書の内容が本当かうそかではなく、作成権限の有無で分かれます。市立病院の事務長である公務員が、発注書を作成する権限を授与されていないのに、内容虚偽の「X市立病院事務長甲」名義の発注書を作成しても、虚偽有印公文書作成罪にはなりません。事務長は公務員ですが、発注書の作成権限がないので、虚偽公文書作成罪の主体にはなりません。この事例で問題になるのは、権限がないのに公文書を作ったことによる公文書偽造罪です。

- 作成権限のない者(私人・権限のない公務員)が作成内容が真実でも虚偽でも公文書偽造罪(155条)
- 作成権限のある公務員が内容虚偽の文書を作成虚偽公文書作成罪(156条)
- 作成権限のある公務員(授権された補助者を含む)が内容の正確な文書を作成手続に違反があっても偽造罪は不成立
名義とされた公務所・公務員に実際にはその権限がなくても、一般人が職務権限内で作成されたと信じる形式・外観があれば、公文書偽造罪が成立します
公文書偽造罪が守っているのは、公文書に対する公共の信用です。そのため、名義とされた公務員が実際にはその文書を作成する権限を持っていなかった場合でも、文書が公務員の職務権限内で作成されたものと一般人に信じさせる形式・外観を備えていれば、偽造公文書に当たります(最判昭和28年2月20日)。名義とされた公務所が正確には実在しない場合も同じで、判例は、一般人に実在する公務所がその職務権限内で作成した公文書であると誤信させるに足りる形式・外観があれば、公文書偽造罪が成立するとしています。「Aは、実在しない公務所名義の文書を作成したが、その文書はその形式外観において、一般人をして、その公務所が実在し、その職務権限内において作成された公文書であると誤信させるに足りるものと認められるものであった。この場合、Aに公文書偽造罪が成立する」という肢(R8 問25 イ)は正しいです。
補助公務員も、授権を基礎づける基本的な条件に従う限度で作成権限を持ち、内容の正確な文書を作ったのであれば偽造になりません
公文書は、名義人である市長などが自分で作るのではなく、決裁を任された代決者や、その下で事務を担当する補助公務員が作成しています。最判昭和51年5月6日は、市役所の市民課の係長が、申請書の提出と手数料の納付という正規の手続を経ずに、自分や保証人の印鑑証明書を市長名義で作成した事案です。最高裁は、作成権限は、名義人の決裁を待たずに自らの判断で作成することが一般的に許されている代決者だけでなく、一定の手続を経由するなどの特定の条件のもとで作成が許されている補助者も、内容の正確性を確保することなど、その者への授権を基礎づける一定の基本的な条件に従う限度において有しているとしました。この事案では、決裁は事後に一括して行われており、証明書の内容は正確で、正規に申請すれば交付を受けられるものでした。そのため、手続に従わなかった点は内部規律違反の問題になるとしても、公文書偽造罪には当たらないとされました。反対に、補助公務員が内容の正確でない文書を作った場合や、事前の決裁がなければ作成できない文書を無断で作った場合は、授権の範囲を超えているので、公文書偽造罪が成立します。

真正な公文書の本質的部分を変えれば、変造ではなく公文書偽造罪になります
公務所・公務員が作成した真正な公文書に権限なく手を加えた場合、非本質的部分の変更にとどまれば変造(155条2項)ですが、本質的部分を変えてもとの文書と同一性のない新たな文書を作り出せば、偽造になります。運転免許証の写真は、だれに免許が与えられたかを示す部分です。判例も、運転免許証の写真を他人のものに貼り替え、生年月日を変更した行為を偽造としています(最決昭和35年1月12日)。他人の運転免許証の写真を自分の写真に変えれば、他の部分に変更を加えていなくても、有印公文書偽造罪が成立します。国民健康保険被保険者証の被保険者氏名欄も、だれが被保険者であるかを特定する本質的部分です。この欄を別人の氏名に書き換えた場合も、公文書変造罪ではなく公文書偽造罪が成立します。
刑法 第155条第1項第1号公務所若しくは公務員の印章若しくは署名(以下この章、第百六十五条及び第百六十七条において「印章等」という。)を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画(以下この章において「文書等」という。)を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章等を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書等を偽造する行為
最判昭和51年5月6日その者への授権を基礎づける一定の基本的な条件に従う限度において
試験ではこう問われる
- 父親に見せて安心させる目的で公立高校校長名義の卒業証書を無断で作成すれば、公文書偽造罪が成立する(最決昭和42年3月30日)
- 公務員であっても、作成権限のない文書を内容虚偽で作成すれば、虚偽公文書作成罪ではなく公文書偽造罪の問題になる
- 名義とされた公務員に作成権限がなくても、職務権限内で作成されたと一般人が信じる形式・外観があれば公文書偽造罪が成立する(最判昭和28年2月20日)
- 実在しない公務所の名義でも、実在する公務所が権限内で作成したと一般人に誤信させる形式・外観があれば、公文書偽造罪が成立する(R8 問25 イ ○)
- 補助公務員が内容の正確な印鑑証明書を正規の手続を経ずに作成しても、授権の範囲内であれば公文書偽造罪は成立しない(最判昭和51年5月6日)
- 運転免許証の写真を貼り替える行為、国民健康保険被保険者証の氏名欄を書き換える行為は、変造ではなく公文書偽造罪になる

