職務関連性(一般的職務権限・職務密接関連行為・転職)しょくむかんれんせい
職務関連性とは、収賄罪の成立に必要な、賄賂が公務員の「その職務に関し」て授受されたという関係をいいます。現に具体的に担当している事務でなくても一般的職務権限に属する行為であれば足り、職務に密接に関連する行為もこれに含まれます。
交番勤務の警察官が、別の警察署が捜査している事件の関係者から「力を貸してほしい」と現金を渡されたとします。自分の担当ではないから職務と関係がない、とはいえません。警察官である以上、その事件の捜査に関わる権限を法令上もっており、外から見れば捜査が金で動くように映るからです。収賄罪は、賄賂が「その職務に関し」て授受されたことを要件としています。どこまでが「その職務」に含まれるかが、職務関連性の問題です。

賄賂罪の「職務」は、一般的職務権限に属するものであれば足り、現に具体的に担当している事務である必要はありません
判例は、賄賂罪の「職務」とは、公務員がその地位に伴い公務として取り扱うべき一切の執務をいうとしています(最判昭和28年10月27日)。そして、その職務は、当該公務員の一般的な職務権限に属するものであれば足り、本人が現に具体的に担当している事務であることを要しません(最判昭和37年5月29日)。役所の中の事務の割り振りは内部の都合で決まるもので、一般的職務権限をもつ公務員が利益を受け取れば、職務の公正に対する社会一般の信頼は同じように害されるからです。独立の決裁権があることも必要ではありません(最決昭和40年10月19日)。さらに、判例は、賄賂と対価関係に立つ行為は、法令上公務員の一般的職務権限に属する行為であれば足りるとしています(最大判平成7年2月22日)。そのような行為の対価として金品を収受すること自体が、職務の公正に対する社会一般の信頼を害するからです。
警察官の犯罪捜査に関する職務権限は都道府県の全域に及ぶので、他の警察署が担当する事件についても職務関連性が認められます
最決平成17年3月11日は、警察署の地域課に所属して交番に勤務していた警部補が、別の警察署長に告発状を提出していた者から、告発状の検討、助言、捜査情報の提供、捜査関係者への働き掛けなどの有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨で現金の供与を受けた事案です。最高裁は、警察法等の関係法令によれば、警察官の犯罪捜査に関する職務権限は都道府県警察の管轄区域の全域に及ぶとして、被告人がその事件の捜査に関与していなかったとしても、その職務に関し賄賂を収受したものであるとしました。この判旨は、法令が警察官に与えた一般的職務権限に属する職務行為であるかを重視しています。二つの警察署の職務が一般的職務権限を同じくすることが前提で、一般的職務権限を異にすることを前提に職務密接関連性で認めたものではありません。判旨は、捜査情報の提供や捜査関係者への働き掛けを含む取り計らいの趣旨で供与された現金について「その職務に関し」と認めています。

職務そのものでなくても、職務に密接に関連する行為は「職務に関し」に含まれます
判例は、一般的職務権限に属する行為そのものでなくても、職務と密接な関係のある行為については、「職務に関し」に当たるとしています。これを職務密接関連行為といいます。大学設置審議会の委員で、歯科大学の教員組織を審査する専門委員会の委員でもあった者が、設置認可を申請していた関係者に、教員予定者の適否をあらかじめ判定してやり、中間的な審査結果を正式通知の前に知らせてやった行為は、委員としての職務に密接な関係のある行為とされました(最決昭和59年5月30日)。北海道開発庁長官が、下部組織である北海道開発局の港湾部長に対し、競争入札が予定される港湾工事の受注に関して特定の業者の便宜を図るように働き掛ける行為も、職務に密接な関係のある行為とされています(最決平成22年9月7日)。条文が「職務に関し」と定めていて、職務行為そのものの対価に限っていないことが、文言上の手掛かりです。職務に密接に関連する行為について利益が授受されれば、職務の公正に対する社会一般の信頼が害される点も、理由に挙げられます。
将来担当する職務も、現在の一般的職務権限に属する事項であれば「職務」に当たります
現在公務員である者が、将来行うことになる職務に関して賄賂を収受した場合も、その職務が現在の一般的職務権限に属する事項であれば、「その職務に関し」といえます。最決昭和61年6月27日は、市長が、任期満了の前に、現に市長としての一般的職務権限に属する事項に関し、再選された場合に担当すべき具体的職務の執行につき請託を受けて賄賂を収受したときは、受託収賄罪が成立するとしました。県知事が任期満了前に、再選後に執行する公共工事の受発注について有利な取り計らいの依頼を受けて謝礼を収受した場合も、受託収賄罪が成立します。収受の時点で現に公務員であり、その事項について一般的職務権限をもっているので、公務員になろうとする者を主体とする事前収賄罪(197条2項)の問題にはなりません。
一般的職務権限を異にする職務に転じた後に前の職務に関して賄賂を収受した場合も、判例は収賄罪の成立を認めます
最決昭和58年3月25日は、市の建築課長が保健課長に転任した後に、建築課長当時の職務に関する謝礼として現金を供与した者について、贈賄罪の成立を認めました。公務員が一般的職務権限を異にする他の職務に転じた後に前の職務に関して賄賂を供与した場合であっても、供与の当時受供与者が公務員である以上、贈賄罪が成立するという理由です。賄賂の供与と収受は対応する関係にあるので、この場合の公務員には収賄罪が成立することになります。保健課長に就任した後に、建築課長当時の職務に関する謝礼として現金を収受した場合も、収受の当時公務員である以上、収賄罪が成立します。過去に担当した職務であっても、公務員がその対価を受け取れば、職務の公正に対する社会一般の信頼が害されることに変わりはありません。

転職後の収受については、収賄罪が成立し得るとする見解と、事後収賄罪のみが成立し得るとする見解が対立しています
公務員が一般的職務権限を異にする他の公務に転じた後、前の公務に関して賄賂を収受した事案については、二つの見解があります。単純収賄罪、受託収賄罪又は加重収賄罪のいずれかが成立し得るとする見解は、「その職務」を現在の職務に限らず、過去に担当した職務を含む自己の職務と広く解釈します。「現在担当している一般的職務権限内の職務」と狭く解釈すると、この事案で単純収賄罪が成立しなくなるからです。この見解からも、公務員が退職して民間企業に就職した後に前の公務に関して賄賂を収受した場合は、収受の時点で公務員ではないので、事後収賄罪が成立し得るにとどまります。この見解に対しては、賄賂が公務員の担当する「その職務」に関するものでなければならないとしている刑法の趣旨をゆがめるという批判が向けられます。これに対し、事後収賄罪(197条の3第3項)のみが成立し得るとする見解は、「その職務」を現在の職務に限り、事後収賄罪の「公務員であった者」に、前の公務との関係で一般的職務権限を喪失した後の公務員も含むと解釈します。この見解に対しては、現に公務員である者を「公務員であった者」と読むのは文言上無理があるという批判が向けられます。事後収賄罪は請託と職務上不正な行為を要件とするので、賄賂の収受の時期を遅らせて他の公務に転じた後に収受すれば、請託や職務違反行為がない限り不可罰となってしまい、不合理であるという批判もあります。判例は、収賄罪が成立し得るとする見解と同じ結論をとっています。
- 収賄罪が成立し得るとする見解(判例と同じ結論)「その職務」は過去の職務を含む自己の職務をいう。単純収賄罪・受託収賄罪・加重収賄罪のいずれかが成立し得る。「その職務」に関するものでなければならないとしている刑法の趣旨をゆがめるという批判がある
- 事後収賄罪のみが成立し得るとする見解「その職務」は現在の職務をいう。「公務員であった者」に、前の公務との関係で一般的職務権限を喪失した後の公務員を含む。転職後に収受すれば、請託や職務違反行為がない限り不可罰となり不合理であるという批判がある

刑法 第197条の3第3項公務員であった者が、その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の拘禁刑に処する。
最決昭和58年3月25日贈賄罪は、公務員に対し、その職務に関し賄賂を供与することによって成立するものであり、公務員が一般的職務権限を異にする他の職務に転じた後に前の職務に関して賄賂を供与した場合であっても、右供与の当時受供与者が公務員である以上、贈賄罪が成立する
試験ではこう問われる
- 賄賂罪の「職務」は一般的職務権限に属するものであれば足り、現に具体的に担当している事務であることを要しない(最判昭和37年5月29日)
- 独立の決裁権限がなく、上司の補助をする立場の公務員が取り扱う事務も「職務」に当たる
- 賄賂と対価関係に立つ行為は一般的職務権限に属する行為であれば足り、具体的事情の下でその行為を適法に行うことができたかどうかは問わない(最大判平成7年2月22日)
- 警察官の犯罪捜査に関する職務権限は都道府県の全域に及び、他の警察署が担当する事件についても「その職務に関し」といえる(最決平成17年3月11日)。この判旨は一般的職務権限を異にすることを前提にしていない
- 職務に密接な関係のある行為も「職務に関し」に含まれる
- 市長が任期満了前に、再選後に担当すべき具体的職務について請託を受けて賄賂を収受すれば、受託収賄罪が成立する(最決昭和61年6月27日)
- 一般的職務権限を異にする他の職務に転じた後に前の職務に関して賄賂を収受しても、収受の当時に公務員である以上、収賄罪が成立する(最決昭和58年3月25日)

