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刑法の適用範囲(国内犯・国外犯・刑の変更)けいほうのてきようはんい

刑法 第1章 刑法の基礎 過去問で5肢

刑法の適用範囲とは、刑法がどの場所で犯された罪に、どの時点の行為に適用されるかという範囲です。日本国内で犯された罪にはすべての者に適用し(国内犯)、日本国外で犯された罪には2条から4条の2までに掲げる罪に限って適用し(国外犯)、犯罪後の法律によって刑の変更があったときは軽いものによります。

海外旅行中の日本人が現地で殴られてけがをしたとき、日本の刑法で犯人を処罰できるかは、それだけでは決まりません。国の刑罰権は自国の領土の中に及ぶのが基本だからです。そこで刑法は、まず日本国内で犯された罪には誰にでも適用するという原則を置き、国外で犯された罪には、日本の重要な利益を害する罪や、日本国民が犯人または被害者となる重い罪に限って適用することにしています。行為の後に法律が変わったときに新旧どちらを使うかも、あらかじめ決めてあります。

教室の場面。先生が教師役(札「先生」)で、黒板に貼った世界地図の前に立つ。地図の日本の部分は丸で囲まれ札「日本国内:1条 すべての者に適用」。日本の外側の海と外国の部分に札「日本国外:2条から4条の2までの罪に限る」。日本の丸の外に小さな船

犯罪を構成する事実の一部が日本国内で生じていれば、国内犯としてすべての者に刑法が適用されます

刑法1条1項は、日本国内において罪を犯したすべての者に刑法を適用すると定めています。これを属地主義といい、犯人の国籍は問いません。「罪を犯した」とは、犯罪を構成する事実の全部又は一部が生じたことをいうと解されており、行為が行われた場所、結果が発生した場所、その間の因果関係が経過する場所のどれかが国内にあれば足ります(遍在説)。したがって、外国人が日本国内で毒薬を飲ませ、被害者が公海上の外国船舶内で死亡した事例では、実行行為が国内にあるので殺人罪が適用されます。「貿易商を営む外国人Aは、外国人Bから日本での絵画の買付けを依頼され、その代金として日本国内の銀行に開設したAの銀行口座に振り込まれた金銭を、日本国内において、業務のため預かり保管中、これを払い出して、日本人Cに対する自己の借金の返済に費消した。この場合、Aには、我が国の刑法が適用され、業務上横領罪が成立する」という肢(R5 問24 ア)は正しいです。未遂犯では結果発生の危険が生じた場所も犯罪地になります。外国人が外国から日本国内の相手に毒入りの酒を送り、酒が相手方に届いて飲める状態に置かれた場合には、殺人未遂の危険が国内で生じたので、刑法(殺人未遂罪)が適用されます。これに対し、酒が相手方に届かなかった場合や、中身が無くなって届いた場合には、刑法(殺人未遂罪)は適用されません。判例は毒物が相手方に届いて飲食できる状態になった時に実行の着手を認めているので(大判大正7年11月16日)、そもそも殺人未遂罪が成立しないからです。また、1条2項により、日本国外にある日本船舶又は日本航空機内で罪を犯した者にも刑法が適用されます。公海の上空を飛行中の日本航空機内で外国人が外国人に毒薬を飲ませ、被害者が外国の病院で死亡した事例でも、実行行為が日本航空機内にあるので殺人罪が適用されます。

共犯の犯罪地には正犯行為の場所と共犯行為の場所の両方が含まれますが、正犯の犯罪地に共犯行為の場所は含まれません

教唆犯と幇助犯については、自分の教唆行為や幇助行為をした場所のほか、正犯が実行した場所も犯罪地になります。最決平成6年12月9日は、日本国外で幇助行為をした者であっても、正犯が日本国内で実行行為をした場合には、国内犯として刑法が適用されるとしました。「狭義の共犯の場合,正犯行為が行われた場所が共犯の犯罪地になるほか,共犯行為が行われた場所も共犯の犯罪地になるが,共犯行為が行われた場所は正犯の犯罪地にはならない」という見解からは、外国のホテルで乙にナイフを貸し、乙が日本国内で殺害した事例の甲には、正犯行為の場所が国内にあるので殺人幇助罪が適用されるという結論になります。日本国内で乙にピストルを貸し、乙が外国で外国人を殺害した事例の甲にも、共犯行為の場所が国内にあるので、殺人幇助罪が適用されるという結論になります。他方で、この事例の正犯である乙には、共犯行為の場所が正犯の犯罪地にならないので、殺人罪は適用されないという結論になります。共犯は正犯に従属しますが、正犯が共犯に従属するわけではないからです。

国境線を挟んだ二つの場面を左右に並べた図。左側は札「日本国外」のホテルの一室で、男性(札「幇助犯 甲」)が別の男性にナイフの入った箱を手渡している。右側は札「日本国内」の街角で、箱を受け取った男性(札「正犯 乙」)が立っている。左から右へ国

日本国外で犯された罪は、2条から4条の2までに掲げる罪に限って処罰されます

国外犯は、条文に掲げられた罪だけが処罰されます。2条は日本の国家的・社会的な利益を害する罪を誰が犯しても処罰し、3条は日本国民が犯した一定の罪を、3条の2は日本国民が被害者となった一定の重い罪を、4条は日本国の公務員が犯した職務に関する罪を処罰します。「外国人Aは、日本国内で使用する目的で、外国において、外国で発行され日本国内で流通する有価証券を偽造した。この場合、Aには、我が国の刑法が適用され、有価証券偽造罪が成立する」という肢(R5 問24 ウ)は正しいです。有価証券偽造の罪は2条6号に掲げられており、犯人の国籍を問わないからです。「日本人Aは、外国において、現に外国人Bが住居として使用する木造家屋に放火して、これを全焼させた。この場合、Aには、我が国の刑法の適用はなく、現住建造物等放火罪は成立しない」という肢(R5 問24 エ)は誤りです。現住建造物等放火罪は3条1号に掲げられており、日本国民が国外で犯せば処罰されます。外国人が外国で日本国民を毒殺した場合には、刑法(殺人罪)が適用されます。強盗についても同じで、「外国人Aは、外国のホテルの客室内において、観光客である日本人Bに対し、けん銃を突きつけて脅した上で持っていたロープでBを緊縛し、反抗を抑圧されたBから現金等在中の財布を強奪した。この場合、Aには、我が国の刑法の適用はなく、強盗罪は成立しない」という肢(R5 問24 イ)は誤りです。3条の2が、日本国外において日本国民に対して殺人の罪(2号)や強盗の罪(6号)を犯した日本国民以外の者に刑法を適用すると定めているからです。外国人が外国で同じ国の国民を毒殺した場合には、刑法(殺人罪)は適用されません。被害者が日本国民でなく、犯人も日本国民でなく、行為も結果も国外にあるので、どの規定にも当たりません。被害者が日本国民であっても、3条の2に掲げられていない罪は処罰されません。「外国人Aは、外国において、日本人Bに対し、外国人C名義の保証書を偽造してこれを行使し、借用名下にBから現金をだまし取った。この場合、Aには、我が国の刑法の適用はなく、私文書偽造・同行使・詐欺罪は成立しない」という肢(R5 問24 オ)は正しいです。なお、外国で確定裁判を受けた者を同一の行為について更に処罰することは妨げられませんが、外国で言い渡された刑の全部又は一部の執行を受けたときは、刑の執行を減軽し、又は免除します(5条)。

  • 2条 すべての者の国外犯内乱、外患誘致、通貨偽造、公文書偽造、有価証券偽造、支払用カード電磁的記録不正作出、公印偽造など
  • 3条 国民の国外犯現住建造物等放火、私文書偽造、不同意わいせつ、不同意性交等、贈賄、殺人、傷害、傷害致死、保護責任者遺棄等、逮捕及び監禁、略取及び誘拐、名誉毀損、窃盗、強盗、詐欺、背任、恐喝、業務上横領、盗品譲受け等など
  • 3条の2 国民以外の者の国外犯日本国民に対する不同意わいせつ、不同意性交等、殺人、傷害、傷害致死、逮捕及び監禁、略取及び誘拐、強盗、強盗致死傷など
  • 4条 公務員の国外犯看守者等による逃走援助、虚偽公文書作成等、公務員職権濫用、特別公務員暴行陵虐、収賄
  • 4条の2 条約による国外犯条約により国外で犯したときも罰すべきものとされている罪
外国の街角の場面。背景に外国風の建物と札「日本国外」。先生が検察官役(札「検察官」)で条文の板「3条の2:日本国民に対する殺人」を持って立つ。前に二人の被害者役の男性が並び、左の男性に札「V1:日本国民」、右の男性に札「V4:外国の国民」。

犯罪後の法律によって刑の変更があったときは軽いものにより、「犯罪後」とは実行行為の終了後をいいます

行為の後に刑を重くする法律を遡って適用することは、遡及処罰の禁止に反して許されません。逆に刑が軽くなったときは、6条により軽い新法が適用されます。行為時の法律と裁判時の法律を比べ、中間に別の法律があればそれも含めて、最も軽いものによります。6条の「犯罪後」とは実行行為の終了後をいいます。暴行を加えた後、被害者が死亡するまでの間に傷害致死罪の法定刑を重くする改正法が施行された事例では、実行行為である暴行は改正前に終わっているので、結果の発生が改正後であっても旧法が適用されます。自己が占有する他人の宝石を第三者に売却する契約を締結した後、引渡しの前に横領罪の法定刑を重くする改正法が施行された事例でも、横領行為は売却の契約の締結で終わっているので旧法が適用されます。自動車を窃取した後、乗り回している間に窃盗罪の法定刑を軽くする改正法が施行された事例では、窃盗罪は窃取の時点で終了しているので、犯罪後に刑が軽く変更されたことになり、新法が適用されます。殺害の後、死体を遺棄する前に殺人罪の法定刑を軽くする改正法が施行された事例でも、殺人罪については新法が適用されます。

実行行為が刑の変更の前後にまたがる継続犯には、6条の適用がなく新法が適用されます

監禁罪のような継続犯では、被害者を監禁している間ずっと実行行為が続いています。監禁中に監禁罪の法定刑を重くする改正法が施行された事例では、改正法の施行後も実行行為が行われているので、「犯罪後の法律」による刑の変更に当たらず、新法が適用されます。最決昭和27年9月25日も、継続犯の実行行為が刑の変更の前後にまたがる場合に新法を適用しました。これに対し、窃盗罪のような状態犯では、窃取の後に違法な状態が続いていても実行行為は終わっているので、この扱いは及びません。「刑の変更」には刑の廃止も含まれ、犯罪後の法令により刑が廃止されたときは免訴の判決が言い渡されます(刑事訴訟法337条2号)。もっとも、廃止された罪の行為がほかの規定で処罰される場合は刑の変更にとどまり、最判平成8年11月28日は、尊属傷害致死罪の規定が行為後に廃止された事案について、旧法と比べて軽い傷害致死罪で処罰しました。失効の期日を定めた限時法については、失効後も期間内の違反を処罰できるとする見解がありますが、通説は、失効後も罰則を適用する旨の規定がない限り処罰できないとしています。

教室の黒板に左から右へ伸びる時間の線が二本描かれた場面。先生が教師役(札「先生」)で指し棒を持つ。上の線は札「監禁罪(継続犯)」で、線の全体が太い帯になっており、途中に縦線と札「刑を重くする改正法の施行」、帯は縦線の右側まで続き、右側の帯に
刑法 第1条第1項

この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。

刑法 第1条第2項

日本国外にある日本船舶又は日本航空機内において罪を犯した者についても、前項と同様とする。

刑法 第3条の2

(国民以外の者の国外犯)
この法律は、日本国外において日本国民に対して次に掲げる罪を犯した日本国民以外の者に適用する。

刑法 第6条

(刑の変更)
犯罪後の法律によって刑の変更があったときは、その軽いものによる。

試験ではこう問われる

  1. 外国人が日本国内で預かり保管中の金銭を費消すれば、国内犯として業務上横領罪が成立する(1条1項、R5 問24 ア ○)
  2. 外国人が外国で日本人に強盗をした場合、3条の2により刑法が適用される(R5 問24 イ ×)
  3. 外国人が外国で、日本国内で流通する有価証券を偽造した場合、2条により有価証券偽造罪が成立する(R5 問24 ウ ○)
  4. 日本人が外国で現住建造物に放火した場合、3条により現住建造物等放火罪が成立する(R5 問24 エ ×)
  5. 外国人が外国で日本人をだまして現金を交付させても、私文書偽造・同行使・詐欺罪は3条の2に掲げられておらず、刑法は適用されない(R5 問24 オ ○)
  6. 国外で幇助し、正犯が国内で実行した場合、幇助犯にも刑法が適用される(最決平成6年12月9日)
  7. 監禁中に監禁罪の刑を重くする改正があれば、6条の適用はなく新法が適用される(最決昭和27年9月25日)

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