過失犯の処罰規定(業務上過失・重過失)かしつはんのしょばつきてい
過失犯の処罰規定とは、故意のない行為を例外的に処罰する規定のことで、刑法38条1項ただし書の「特別の規定」に当たります。人を死傷させた場合は、通常の過失、業務上過失、重過失の別に応じて刑が定められており、重過失とは注意義務違反の程度が著しい場合をいいます。
うっかり他人の傘を持ち帰っても窃盗罪にはなりませんが、うっかり人にけがをさせれば過失傷害罪になります。刑法は、わざとした行為を処罰するのが原則で、不注意による行為は、人の生命や身体のように特に大切な利益を害した場合などに限って処罰します。さらに、仕事として危険な作業をしている人や、ほんの少し注意すれば事故を防げた人には、普通の不注意よりも重い刑を用意しています。どの規定が使われるかで刑の重さが大きく変わるので、それぞれの規定の要件を正確に知っておく必要があります。

過失による行為は、法律に特別の規定がある場合に限って処罰されます
刑法38条1項は、本文で故意犯の処罰を原則とし、ただし書で「法律に特別の規定がある場合」に限って故意のない行為の処罰を認めています。刑法典が過失犯を処罰しているのは、人の死傷、失火、過失による往来の危険など、限られた場合です。人の死傷については、過失の種類に応じて刑が三段階に分かれています。なお、自動車の運転による死傷は、現在は刑法211条ではなく、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律で処理されます。自動車事故に業務上過失致死傷罪や自動車運転過失致死傷罪を当てはめた判例は当時の規定によるもので、現在は過失運転致死傷罪になります。
過失犯を処罰する主な規定と刑
- 過失傷害罪(209条)30万円以下の罰金又は科料です。告訴がなければ公訴を提起することができません
- 過失致死罪(210条)50万円以下の罰金です
- 業務上過失致死傷罪(211条前段)5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です
- 重過失致死傷罪(211条後段)業務上過失致死傷罪と同じ刑です
- 過失運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法5条)7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です。傷害が軽いときは、情状により刑を免除することができます
- 失火罪(116条)50万円以下の罰金です
- 業務上失火罪・重失火罪(117条の2)3年以下の拘禁刑又は150万円以下の罰金です
「特別の規定」は、過失犯を処罰する旨の明文の規定がある場合に限られません
38条1項ただし書の「特別の規定」は、「過失により」といった文言で過失犯の処罰を明示した規定に限られないとするのが判例です。最決昭和28年3月5日は、外国人登録証明書の不携帯を処罰する規定について、その取り締まる事柄の本質にかんがみ、故意に携帯しない者だけでなく過失により携帯しない者も包含する趣旨であるとしました。明文の規定がなくても、その法律の目的から、罰則を定めた法条に過失行為を処罰する趣旨が包含されていると認められるときは、過失による行為を処罰できます。判例の立場では、法規の趣旨と目的から過失犯を処罰する趣旨が読み取れれば足りるからです。この判例に対しては、明文なしに過失犯を処罰することは罪刑法定主義の観点から疑問があるという批判があります。
業務上過失致死傷罪の「業務」は、社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為で、他人の生命身体に危害を加えるおそれのあるものです
最判昭和33年4月18日は、刑法211条の業務とは、人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、かつ、その行為は他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものであることを必要とするとしました。職業や営業である必要はなく、娯楽のために繰り返し行う行為でも業務に当たります。反復継続して行う意思があれば、1回目の行為でも業務に当たります。さらに、最決昭和60年10月21日は、211条前段にいう業務には、人の生命・身体の危険を防止することを義務内容とする業務も含まれるとしました。易燃物を管理し火災を防止する職務に従事していた工場の責任者について、業務上過失致死罪の成立を認めたものです。
「業務」の三つの要素
- 社会生活上の地位に基づくこと職業や営業に限られず、娯楽のための行為でも当たります。家事や育児のような個人的な生活上の行為は当たりません
- 反復継続して行うこと反復継続して行う意思があれば、1回目の行為でも当たります
- 他人の生命身体等に危害を加えるおそれがあること危険を生じさせる行為だけでなく、人の生命・身体の危険を防止することを義務内容とする業務も含まれます

業務上過失致死傷罪は、生じた結果が軽微であっても成立します
業務上過失致死傷罪の刑が通常の過失致死傷罪より重い理由については、業務者には特に重い注意義務が課されているからだとする見解と、業務者は類型的に高度の注意能力をもつからだとする見解などがあります。どの見解からも、刑が重くなる根拠は業務者という地位にあり、発生した結果の大きさにあるわけではありません。したがって、業務上の過失は通常の過失より重大な結果を引き起こすことが多いという理由から、生じた結果が軽微なら過失傷害罪にとどまるとする考え方はとられていません。業務上の過失によって人に傷害を負わせた以上、傷害の程度が軽くても業務上過失傷害罪が成立するからです。
重過失は注意義務違反の程度が著しい場合をいい、結果が重大であることは要件ではありません
重大な過失とは、注意義務違反の程度が著しい場合、すなわち、わずかな注意を払えば結果を予見でき、結果の発生を容易に回避できたのに、これを怠った場合をいいます。東京高判昭和57年8月10日は、重大な過失の要件として、発生した結果が重大であることや、結果の発生する可能性が大であったことは必ずしも必要でないとしました。重過失の要件に、発生した構成要件的結果が重大であることは含まれません。重大な結果を引き起こす危険のある不注意な行為をすることが重過失だというわけでもありません。重大かどうかは不注意の程度について判断され、結果の重さや危険の大きさは基準にならないからです。

刑法 第38条第1項罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
刑法 第211条(業務上過失致死傷等)
業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
刑法 第210条(過失致死)
過失により人を死亡させた者は、五十万円以下の罰金に処する。
試験ではこう問われる
- 38条1項ただし書の「法律に特別の規定がある場合」は、過失犯を処罰する旨の明文の規定がある場合に限られない(最決昭和28年3月5日)
- 業務上過失致死傷罪の「業務」は、人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為で、他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものをいう(最判昭和33年4月18日)
- 娯楽のために繰り返し猟銃で狩猟をしていた者が過失で人を負傷させれば、業務上過失致傷罪が成立する(H30 問26 オ ○・出題当時)
- 人の生命・身体の危険を防止することを義務内容とする業務も「業務」に含まれる(最決昭和60年10月21日)
- 生じた結果が軽微であっても、業務上過失傷害罪は成立する
- 重過失は注意義務違反の程度が著しい場合をいい、結果が重大であることは要件でない(東京高判昭和57年8月10日)

