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誤想防衛・誤想過剰防衛ごそうぼうえいごそうかじょうぼうえい

刑法 第4章 違法性阻却 過去問で14肢

誤想防衛とは、急迫不正の侵害がないのにあると誤信して、防衛の意思で反撃した場合をいいます。誤想過剰防衛とは、急迫不正の侵害がないのにあると誤信したうえ、誤信した侵害に対する防衛としても程度を超えた反撃をした場合をいいます。

暗い夜道で、友人がふざけて後ろから肩をつかんできたのを強盗と勘違いし、振り向きざまに突き飛ばしてけがをさせたとします。実際には誰も襲っていないので、正当防衛にはなりません。しかし、本人は「襲われた、身を守らなければ」と本気で思っていました。悪いことをしているという自覚がないのに、わざと人を傷つけた罪で罰するのは酷です。そこで、わざとやった罪には問わず、勘違いに落ち度があった場合に不注意の罪を問うにとどめます。

夜の路上の場面。酔った女性を男性(札「なだめていた人」)が両手で支えている。男性は驚いて両手を胸の前に上げている。その正面に先生(札「誤信した者」)が立ち、身構えている。先生の頭の上の雲形の枠に「男性が女性を襲っている。自分にも殴りかかって

誤想防衛は、急迫不正の侵害が実際には存在しないので、正当防衛にはなりません

正当防衛は、急迫不正の侵害が現実に存在することを要件としています。行為者が侵害があると思い込んでいても、存在しない侵害が存在することになるわけではありませんから、違法性は阻却されません。急迫不正の侵害がないのにあると誤信して、防衛の意思で反撃行為を行った場合には、正当防衛は成立しません。誤想防衛で問題になるのは、違法性が阻却されるかではなく、行為者に故意の責任を問えるかです。

誤想防衛では故意が阻却され、過失犯の成否が残ります

誤想防衛は、違法性阻却事由に当たる事実があると誤信した場合であり、違法性阻却事由の錯誤と呼ばれます。多数の見解は、これを事実の錯誤と考えます。行為者は、自分の認識どおりであれば適法な行為をしているつもりなのですから、違法な事実を認識しているとはいえず、故意が否定されるという結論になります。誤信したことに不注意があれば、過失犯の規定がある罪について過失犯が成立し得ます。裁判例にも、誤想防衛として故意が阻却されるとしたものがあります(広島高判昭和35年6月9日)。これに対して、故意を構成要件に該当する事実の認識に尽きると考える厳格責任説からは、誤想防衛は違法性の錯誤であり、故意は否定されないという結論になります。この説からは、誤信についてやむを得ない事情があった場合に限って責任が否定されます。厳格責任説に対しては、適法な行為をするつもりの者を故意犯として扱うことになるという批判が向けられます。

  • 事実の錯誤とする見解(多数の見解)正当防衛に当たる事実があると誤信した場合は故意が否定され、過失犯が成立し得るにとどまる
  • 厳格責任説故意は否定されない。誤信についてやむを得ない事情があった場合に責任が否定される

正当防衛の成立要件そのものを誤解した場合は、誤想防衛ではなく法律の錯誤です

誤想防衛は、事実についての誤信がある場合です。侵害があると誤信した場合のほか、侵害は実際にあったが、自分の反撃が相当な範囲に収まっていると事実を誤信した場合も含まれます。たとえば、手に持った物が軽い棒だと思って振ったところ、実際には鉄の棒であった場合です。これに対して、事実についての誤信はなく、正当防衛の成立要件を誤解していたために、正当防衛が成立しないのに成立すると思い込んだ場合は、法律の錯誤です。侵害が終わった後の仕返しも正当防衛になると思い込んでいた場合がその例です。法律の錯誤は故意を否定しないのが判例の立場であり、違法性の意識の可能性がなかった場合に責任が否定されるかが問題になるにとどまります。違法性の意識を故意の要件とする見解からは、この場合も故意が否定されるという結論になります。

誤想過剰防衛では、過剰であることを基礎づける事実を認識していれば、故意犯が成立します

最決昭和62年3月26日は、空手の有段者が、酩酊した女性をなだめていた男性を、女性に暴行を加えていると誤解し、さらに男性が防御のためにとった構えを自分に殴りかかってくるものと誤信して、回し蹴りをして転倒させ死亡させた事案です。最高裁は、回し蹴りは、誤信した急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を逸脱していることが明らかであるとして、傷害致死罪が成立し、いわゆる誤想過剰防衛に当たるとしました。侵害があると誤信していても、自分の反撃が過剰であることを基礎づける事実、すなわち回し蹴りという強い攻撃を加えることを認識していた以上、適法な行為をしているつもりであったとはいえず、故意は阻却されません。反対に、過剰であることを基礎づける事実の認識もなかった場合は、誤想防衛と同じく故意が阻却されます。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座る。証言台に空手着姿の男性(札「被告人:空手の有段者」)が立つ。法壇の横の掲示板に二段の表があり、上段「誤信した内容:男性が殴りかかってくる(実際には侵害はない)」、下段「実際にした反撃:

誤想過剰防衛にも、36条2項による刑の減軽・免除があり得ます

昭和62年決定は、誤想過剰防衛について36条2項により刑を減軽した原判決の処理を是認しました。急迫不正の侵害が現実には存在しないのに、過剰防衛の規定を使えるのかについては、刑の減免の根拠の理解に応じて結論が分かれます。責任減少説からは、侵害があると誤信した者の心理的な動揺は、現実に侵害があった場合と変わらないので、36条2項を適用または準用できるという結論になります。違法減少説からは、現実に侵害がなく正当な利益を守ったという面がない以上、違法性の減少を認めることができず、36条2項の適用は難しいという結論になります。判例は、理論構成を明示しないまま、刑の減免があり得ることを認めています。

誤想避難・誤想過剰避難も、同じ枠組みで処理します

現在の危難がないのにあると誤信して避難行為をした場合を誤想避難、誤信した危難に対する避難としても程度を超えた場合を誤想過剰避難といいます。処理の枠組みは誤想防衛・誤想過剰防衛と同じであり、誤想避難では故意が阻却され、過剰であることを基礎づける事実を認識していた誤想過剰避難では故意犯が成立したうえで37条1項ただし書による刑の減免が問題になります。また、防衛行為の結果が意図しない第三者に生じた場合について、裁判例には、行為者が主観的には正当防衛であると認識して行為している以上、故意非難を向け得る主観的事情は存在しないとして、誤想防衛の一種として故意責任を否定したものがあります(大阪高判平成14年9月4日)。

刑法 第36条第2項

防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

刑法 第38条第1項

罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

試験ではこう問われる

  1. 急迫不正の侵害がないのにあると誤信して反撃しても、正当防衛は成立しない
  2. 誤想防衛は事実の錯誤として故意が阻却され、誤信に不注意があれば過失犯が成立し得る
  3. 正当防衛の成立要件そのものを誤解した場合は、誤想防衛ではなく法律の錯誤である
  4. 過剰であることを基礎づける事実を認識していた誤想過剰防衛では故意犯が成立し、36条2項による刑の減軽があり得る(最決昭和62年3月26日)
  5. 誤想避難・誤想過剰避難も、誤想防衛・誤想過剰防衛と同じ枠組みで処理する

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