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防衛行為の相当性(やむを得ずにした行為)ぼうえいこういのそうとうせい

刑法 第4章 違法性阻却 過去問で14肢

防衛行為の相当性とは、反撃行為が、自己または他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものであることをいいます。36条1項の「やむを得ずにした行為」は、この相当性を意味します。

指をねじ上げられて、振りほどこうと相手の胸を突いたら、相手が倒れて大けがをしたとします。結果だけ見れば、指の痛みに比べて大けがは重すぎます。しかし、突き飛ばすという反撃そのものは、身を守るためにごく普通の手段でした。正当防衛で見るのは、反撃のやり方が身を守るのに必要な範囲に収まっていたかどうかであって、たまたま生じた結果の大きさではありません。悪いのは先に手を出した側なので、やり返す側に逃げることや被害の釣り合いまでは求めません。

運送店の事務所の入口の場面。先生が店員役(札「防衛する者」)で、片手の指を相手につかまれ、もう片方の手で相手の胸を押し返している。相手の男性(札「侵害者」)は先生の指をつかんでねじ上げている。男性の後ろに停まった自動車があり、札「たまたま後

「やむを得ずにした行為」とは、防衛手段として必要最小限度であること、すなわち相当性があることをいいます

最判昭和44年12月4日は、36条1項にいう「やむを得ずにした行為」とは、急迫不正の侵害に対する反撃行為が、自己または他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものであること、すなわち反撃行為が侵害に対する防衛手段として相当性を有するものであることを意味するとしました。必要最小限度といっても、実際にとった手段より軽い手段が理論上考えられるというだけで相当性が否定されるわけではありません。侵害の内容と強さに照らして、その反撃が防衛の手段として釣り合いのとれたものであるかを判断します。

反撃の手段が相当であれば、生じた結果が侵害されようとした法益より大きくても正当防衛です

最判昭和44年12月4日は、指をねじ上げられた者が相手の胸を1回突いたところ、相手が倒れて自動車に頭を打ちつけ重い傷害を負った事案です。最高裁は、反撃行為が相当性を有する以上、その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であっても、その反撃行為が正当防衛行為でなくなるものではないとしました。防衛行為によって生じた害が避けようとした害の程度を超えたことだけで、正当防衛が否定されることはありません。ナイフを胸元に突き付けられて現金を要求された者が、相手の胸を手で押して逃げたところ、相手が転倒して全治約1か月間の傷害を負った場合にも、正当防衛が成立します。手で押すという手段は相当であり、相手が転倒して傷害を負ったという結果の大きさは相当性を左右しません。

素手の相手に刃物を構えても、防御的な行動にとどまる限り相当性は否定されません

相手が素手であれば反撃する側も素手でなければならないという考え方を、武器対等の原則と呼ぶことがあります。しかし、これは形式的に当てはめるものではありません。最判平成元年11月13日は、年齢も若く体力にも優れた相手から、「殴られたいのか」と言って手拳を突き出され、足を蹴り上げる動作をしながら迫られた者が、菜切包丁を腰のあたりに構えて脅した事案です。最高裁は、相手からの危害を避けるための防御的な行動に終始していたとして、防衛手段としての相当性の範囲を超えたものとはいえないとしました。殺傷能力のある刃物を構えて脅した場合でも、その脅迫行為に正当防衛が成立する余地はあります。凶器を持たない相手からの侵害に対抗するのに、凶器を持たずに対抗する必要はありません。用いた凶器の危険性だけでなく、年齢や体格の差、相手の攻撃の態様、凶器の使い方を具体的に見て判断するからです。

路上に停めた軽自動車の横の場面。先生が運転者役(札「防衛する者:年長で小柄」)で、車を背にして立ち、菜切包丁を腰のあたりに下向きに構えたまま動かずにいる。約3メートル離れた正面に、体格の大きい若い男性(札「侵害者:若く体力に優れる」)が拳を

正当防衛では、他に方法がないことも、退避することも、法益の権衡も求められません

緊急避難の「やむを得ずにした行為」は、その避難行為をする以外に他に方法がないこと、すなわち補充性を意味します。これに対して正当防衛の「やむを得ずにした行為」は、同じ文言でも補充性を意味しません。正当防衛は不正の侵害に対する反撃であり、正しい側が不正に譲る理由はないからです。逃げることができたのに逃げずに反撃したとしても、それだけで相当性は否定されず、退避する義務はありません。また、緊急避難では生じた害が避けようとした害の程度を超えないことが要件ですが、正当防衛では法益の権衡は要件ではありません。財産を守るために相手の身体に反撃することも、相当性の範囲内であれば正当防衛になります。したがって、「やむを得ずにした行為」の意味は、正当防衛と緊急避難とで異なります。

  • 正当防衛(36条1項)「やむを得ずにした行為」=防衛手段としての相当性。補充性は不要。退避義務なし。法益の権衡は要件でない
  • 緊急避難(37条1項)「やむを得ずにした行為」=他に方法がないこと(補充性)。生じた害が避けようとした害の程度を超えないこと(法益の権衡)が必要

相当性を超えた反撃は過剰防衛になり、盗犯等防止法は相当性の要件を緩めています

反撃の手段が必要最小限度を超えた場合は、「防衛の程度を超えた行為」として過剰防衛になり、犯罪は成立しますが、情状により刑を減軽または免除することができます(36条2項)。素手で十分に防げる侵害に対して凶器で重傷を負わせた場合がその例です。なお、盗犯等の防止及び処分に関する法律1条1項は、盗犯を防止しようとする場合や、住居に侵入した者を排斥しようとする場合などに、自己または他人の生命、身体、貞操に対する現在の危険を排除するために犯人を殺傷した行為について、正当防衛の特則を定めています。判例は、この特則についても相当性は必要であるが、36条1項における相当性よりも緩やかなもので足りるとしています。

刑法 第36条第1項

急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

最判昭和44年12月4日

急迫不正の侵害に対する反撃行為が、自己または他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものであること、すなわち反撃行為が侵害に対する防衛手段として相当性を有するものであることを意味する

試験ではこう問われる

  1. 「やむを得ずにした行為」とは、防衛手段として必要最小限度のものであること、すなわち相当性を有することをいう(最判昭和44年12月4日)
  2. 反撃行為が相当性を有する以上、生じた結果が侵害されようとした法益より大きくても正当防衛が成立する(最判昭和44年12月4日、H29 問25 ウ ○・出題当時)
  3. 正当防衛は、他に採るべき方法がない場合に限って成立するものではない(H29 問25 エ ×・出題当時)
  4. ナイフで切り掛かろうとしてきた相手に、手近の立て看板を振り回して対抗し負傷させた場合、正当防衛が成立する(H25 問25 オ ○・出題当時)
  5. 夜道で腕を強くつかまれ脇道に連れ込まれそうになった者が、相手の胸部を強く突いて転倒させ負傷させた場合も、正当防衛が成立する(H25 問25 ウ ○・出題当時)
  6. 素手で迫る相手に菜切包丁を構えて脅した行為も、防御的な行動にとどまる限り相当性を超えない(最判平成元年11月13日)
  7. 相当性を超えた場合は過剰防衛(36条2項)となり、情状により刑を減軽または免除することができる

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