司法書士試験AIブートラボ 司法書士試験AIブートラボ

毀棄・損壊の意義ききそんかいのいぎ

刑法 第13章 財産犯(詐欺・横領・背任ほか) 過去問で1肢

毀棄・損壊とは、文書や建造物、その他の物について、その効用を害する一切の行為をいうとするのが判例です。物理的に壊す行為に限られず、隠す、汚す、使えなくする行為も含まれます。これに対し、物の全部または一部を物理的に破壊・毀損する行為に限るとする見解もあります。

飲食店の皿に用を足した客がいたとします。皿は割れても欠けてもいません。洗えば見た目は元どおりです。それでも、その皿でもう一度料理を出すことはできません。物は、形が残っていても、本来の使い道に使えなくなれば、持ち主にとっては壊されたのと同じです。そこで判例は、「損壊」を、物の形を壊すことに限らず、物の効用を害する行為の全部を指すと解しています。

飲食店の厨房の場面。先生が店主役(札「店主」)で、洗い場に置かれた割れていない皿を見ている。皿の上に札「形はそのまま。料理を盛る皿としては使えない」。洗い場の横の黒板に「損壊=物の効用を害する一切の行為」と書かれている。先生の吹き出し「皿は

判例は、毀棄・損壊を、物の効用を害する一切の行為と解しています

毀棄の罪は、領得を目的とせずに、他人の物の利用を妨げる罪です。判例は、損壊を、物を物理的に壊す行為に限らず、事実上または感情上その物を本来の用途に使えなくする行為を含むと解しています。大判明治42年4月16日は、料理店の食器に放尿した行為に器物損壊罪を認めました。最決平成18年1月17日(落書きと建造物損壊罪)は、公園の公衆便所の外壁にラッカースプレーで落書きをした行為について、建物の外観ないし美観を著しく汚損し、原状回復に相当の困難を生じさせたものであって、建物の効用を減損させたとして、建造物損壊罪を認めました。この事案を用いた「Aは、公衆便所の外壁にラッカースプレーで落書きをし、その結果、公衆便所の美観は著しく汚損され、原状回復に相当な困難が生じた。この場合、Aには、建造物損壊罪は成立しない」という肢(R6 問26 ウ)は誤りです。効用を害したかどうかは、汚損の程度と原状回復の難しさを合わせて判断されます。器物損壊罪の条文は「損壊し、又は傷害した」と定めており、「傷害」は動物を客体とする場合をいいます。動物を殺傷する行為のほか、飼われている鳥や魚を逃がす行為もこれに当たります。大判明治44年2月27日は、養殖池の水門を開けて他人が飼育する鯉を流出させた行為を「傷害」に当たるとしました。物を隠匿する行為(大判昭和9年12月22日)や、建造物に多数のビラを貼り付ける行為(最決昭和41年6月10日)も、判例は毀棄・損壊に当たるとしています。競売記録を隠した事例の「Aは、抵当権の実行による競売を延期させようと考え、裁判所から競売事件の記録を持ち出してこれを隠匿したため、裁判所が一時的に競売を実施することができなくなった。この場合、Aには、公用文書等毀棄罪は成立しない」という肢(R6 問26 イ)も誤りです。

効用を害する行為とする見解と物理的な破壊に限る見解とで、隠匿や汚損の結論が分かれます

毀棄・損壊を、対象物の効用を害する一切の行為とする見解からは、物を隠す行為も、持ち主が使えなくなる以上、毀棄・損壊に当たることになります。食器への放尿が食器を破壊することと同視されるという説明は、この見解の論拠になります。この見解によれば、効用が害されたかを判断するので、原状回復の難易も考慮されることになります。この見解によれば、他人が観賞用に鳥籠で飼っている小鳥を屋外に逃がした場合には器物損壊罪が成立し、公衆トイレの外壁に美観を著しく損ねる落書きをして使用継続を困難にさせ、原状回復に相当の費用を生じさせた場合には建造物損壊罪が成立することになります。これに対し、対象物の全部または一部を物理的に破壊・毀損する行為に限るとする見解からは、建物の美観・外観を汚損するにとどまるビラ貼り行為は「損壊」に当たらないことになります。この見解によれば、他人の宝石を隠しても器物損壊罪は成立せず、裁判所から隠匿目的で競売記録を持ち出して自宅で保管しても公用文書毀棄罪は成立しないことになります。なお、器物損壊罪の客体は、どちらの見解によっても、文書や建造物以外の他人の物であり、動産に限られず土地などの不動産を含みます。

  • 食器への放尿効用を害する行為とする見解:損壊に当たる/物理的な破壊に限る見解:当たらない
  • 物を隠す(宝石・競売記録)効用を害する行為とする見解:毀棄・損壊に当たる/物理的な破壊に限る見解:当たらない
  • 小鳥を鳥籠から逃がす効用を害する行為とする見解:器物損壊罪が成立する
  • 外壁への落書き・ビラ貼り効用を害する行為とする見解:美観を著しく損ね原状回復が困難なら損壊/物理的な破壊に限る見解:美観の汚損にとどまれば当たらない
  • 原状回復の難易効用を害する行為とする見解では考慮される
教室の黒板の場面。先生が教師役(札「先生」)で黒板を指す。黒板は左右に分かれ、左の見出し「効用を害する一切の行為とする見解」、右の見出し「物理的な破壊に限る見解」。その下に3段の絵と結論。1段目は鳥籠から飛び立つ小鳥の絵、左「器物損壊罪成立

信書隠匿罪の位置づけは、損壊の意義についての見解によって説明が変わります

263条は、他人の信書を隠匿した者を、器物損壊罪より軽い刑で処罰しています。効用を害する行為とする見解からは、隠匿も損壊の一形態ですから、信書隠匿罪は、器物損壊罪の構成要件にも当たる行為を特に軽く処罰する規定と解することになります。この見解の中でも、信書の「隠匿」だけを軽く処罰する規定と解すれば、信書を隠した場合は信書隠匿罪、信書を破った場合は器物損壊罪になります。信書の「損壊」全体を軽く処罰する規定と解すれば、信書を隠した場合も破った場合も信書隠匿罪になり、器物損壊罪にはなりません。これに対し、物理的な破壊に限る見解からは、隠匿は毀棄・損壊の一形態ではありません。この見解からは、信書隠匿罪は、信書の隠匿によって名宛人がその情報に接することが妨げられるために、処罰範囲を隠匿にまで広げて特に設けられた規定と説明することになります。この見解によれば、信書を破った場合は器物損壊罪が成立し、信書を隠した場合は信書隠匿罪が成立します。

物理的な破壊に限る見解には、隠匿目的の持ち去りを処罰できなくなるという批判が向けられます

窃盗罪の成立には不法領得の意思が必要であり、単に隠したり捨てたりする目的で他人の物を持ち去った場合は、利用・処分する意思を欠くので窃盗罪は成立しません。最決平成16年11月30日(毀棄目的と不法領得の意思)も、廃棄するだけで他に何らかの用途に利用・処分する意思がなかった場合には不法領得の意思を認めることができないとしています。この場合、効用を害する行為とする見解からは、隠匿や廃棄を毀棄・損壊として毀棄の罪で処罰できます。物理的な破壊に限る見解に立つと、隠匿目的で他人の物の占有を取得する行為は、窃盗罪でも毀棄の罪でも処罰できなくなります。この批判は、効用を害する行為とする見解から、物理的な破壊に限る見解に対して向けられるものです。反対に、効用を害する行為とする見解に対しては、損壊という言葉の日常的な意味から離れ、処罰範囲が広がりすぎるという批判が向けられます。

盗んだ物を後で壊しても、窃盗罪とは別に器物損壊罪は成立しません

窃盗犯人が、盗んだ物を後で壊したり焼いたりした場合、所有者の所有権に対する侵害は、すでに窃盗罪によって評価されています。盗んだバッグや絵画を、転売先が見付からないため焼却したり破り捨てたりしても、窃盗罪のほかに器物損壊罪は成立しません。盗品の損壊は、窃盗罪によって通常予想される違法状態の範囲内の行為であり、不可罰的事後行為として、別に器物損壊罪を構成しません。これに対し、盗んだ物を使って別の被害者の財産を侵害した場合、たとえば盗んだ通帳で預金の払戻しを受けた場合は、新たな法益侵害があるので別の罪が成立します。

刑法 第261条

(器物損壊等)
前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

刑法 第263条

(信書隠匿)
他人の信書を隠匿した者は、六月以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

試験ではこう問われる

  1. 判例は、毀棄・損壊を物の効用を害する一切の行為と解する。食器への放尿は器物損壊罪になる(大判明治42年4月16日)
  2. 公衆便所の外壁への落書きは、美観を著しく汚損し原状回復に相当の困難を生じさせれば建造物損壊罪になる(最決平成18年1月17日。R6 問26 ウ ×)
  3. 競売を延期させるため裁判所から競売事件の記録を持ち出して隠匿すれば、公用文書等毀棄罪が成立する(R6 問26 イ ×)
  4. 物理的な破壊に限る見解によると、美観・外観を汚損するにとどまるビラ貼りは「損壊」に当たらない
  5. 効用を害する行為とする見解によれば、小鳥を鳥籠から逃がせば器物損壊罪が成立する
  6. 信書隠匿罪を、器物損壊罪にも当たる行為を特に軽く処罰する罪と解するのは、効用を害する行為とする見解である
  7. 盗んだ物を焼却・損壊しても、窃盗罪のほかに器物損壊罪は成立しない

司法書士試験AIブートラボ

司法書士試験の対策を、
スマホひとつで。

過去問の肢別演習、記述式と雛形ドリル、先例と条文、用語集。司法書士試験の勉強に使う教材をひとつのアプリにまとめました。

関連する用語

罪数・刑罰の適用

不可罰的事後行為(共罰的事後行為)

不可罰的事後行為とは、ある罪が成立した後の行為が、その罪で既に評価されている違法状態に通常含まれ、新たな法益侵害を...
財産犯(窃盗・強盗)

不法領得の意思(窃盗罪)

不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従い利用し又は処分する意思をいい...
名誉・信用・業務に対する罪

親告罪の一覧

親告罪とは、告訴がなければ公訴を提起することができない罪です。刑法では、名誉毀損罪、侮辱罪、器物損壊罪、過失傷害罪...
財産犯(詐欺・横領・背任ほか)

横領行為と不法領得の意思

横領行為とは、自己の占有する他人の物について、不法領得の意思を実現する一切の行為をいいます。横領罪における不法領得...
財産犯(詐欺・横領・背任ほか)

毀棄・隠匿の罪の類型(客体と親告罪)

毀棄・隠匿の罪とは、他人の物の効用を害する行為を処罰する罪の総称で、客体に応じて、公用文書等毀棄罪、私用文書等毀棄...