法人格否認の法理ほうじんかくひにんのほうり
法人格否認の法理とは、会社が社員とは別の法人であるという形式を貫くと正義・衡平に反する結果になる場合に、その事案に限って会社の独立した法人格を認めず、会社とその背後にいる個人や別の会社とを同一のものとして扱う考え方です。
個人で電気店を営んでいた人が節税のために株式会社を作り、店の建物は会社名義で借りたものの、家主にはずっと個人として接していたとします。家主が明渡しを求めると、その人は「借りているのは会社であって私ではない」と言い出しました。会社は社員とは別の法人です(会社法3条)が、会社という形がただの看板にすぎないときや、法律の適用を逃れる道具として使われているときにまで別人格だと言い張らせるのは不公平です。そこで判例は、そのような場合にはその事件に限って会社と背後の個人を同じものとして扱います。これが法人格否認の法理です。

法人格が全くの形骸にすぎない場合と、法律の適用を回避するために濫用される場合に、法人格が否認されます
判例は、法人格の付与は社会的に存在する団体の価値を評価してされる立法政策によるものであるから、「法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合」には、法人格を認めることは法人格の本来の目的に照らして許されず、法人格を否認すべきことが要請されるとしました(最判昭和44年2月27日)。株式会社は準則主義によって容易に設立でき、一人会社も可能なので、会社の形はあっても実質が全く個人企業と認められる場合が生じ、そのような会社と取引した相手方は、取引が会社としてされたのか個人としてされたのかさえ判然としないことが多いからです。この判例の事案では、会社の実体は背後にいる代表者個人にほかならないとして、代表者個人の名義でされた裁判上の和解を会社の行為と解し、会社に対する明渡請求を認めました。会社法には法人格否認の法理を定めた条文がなく、根拠は信義則(民法1条3項)に求められます。
- 形骸化の場合会社が実質は社員の個人企業や親会社の一部門にすぎず、業務や財産の混同、帳簿や会計区分の欠如、株主総会・取締役会の不開催などから、会社と社員の一体性が認められる場合
- 濫用の場合会社を支配している背後者が、違法又は不当な目的のために会社の法人格を利用している場合。支配の事実に加えて、目的という主観的な要件を要する

債務を免れる目的で中身の同じ新会社を作った場合も、法人格の濫用として旧会社の債務を免れません
賃料を払わない会社が契約を解除された後に商号を変え、旧商号と同じ商号を名乗り、代表者・本店・従業員・営業目的がほぼ同じ新会社を設立した事案で、判例は、株式会社の設立が比較的容易であることに乗じて相手方の債務履行請求の手続を誤らせる手段として新会社を設立したのであれば、新会社の設立は旧会社の債務の免脱を目的とする会社制度の濫用であり、会社は信義則上、新旧両会社が別人格であることを主張できず、相手方は新旧いずれの会社にも債務の履行を請求できるとしました(最判昭和48年10月26日)。法律の適用を回避する目的に限らず、債務を免れる目的で会社の形を利用する場合も、法人格の濫用に含まれます。

効果はその事案に限られ、会社の法人格が一般的に消えたり、判決の効力が当然に会社へ及んだりはしません
法人格否認の法理が働いても、会社の法人格が一般的・全面的に否定されるわけではありません。問題になった法律関係について、会社と背後者を同一視するだけです。したがって、会社と背後者のどちらに対しても請求できるようになる一方で、会社は他の場面では引き続き独立の法人として扱われます。訴訟法上の効力は別に考えます。最判昭和44年2月27日は、背後者個人に対する明渡しの判決があっても、既判力については別個の考察を要し、その判決の効力は会社には及ばないとしました。背後者に対する確定判決をそのまま会社に対して執行することもできないので、会社に判決の効力を及ぼしたいときは、会社を被告とする訴えを別に起こす必要があります。
会社法 第3条(法人格)
会社は、法人とする。
最判昭和44年2月27日(法人格の否認)法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合においては、法人格を認めることは、法人格なるものの本来の目的に照らして許すべからざるものというべきであり、法人格を否認すべきことが要請される場合を生じるのである。
試験ではこう問われる
- 法人格が全くの形骸にすぎない場合と、法律の適用を回避するために濫用される場合の2つの場面で否認される(最判昭和44年2月27日)
- 濫用の場合は、背後者による支配の事実に加えて、違法又は不当な目的という主観的な要件を要する
- 債務免脱の目的で商号・代表者・従業員がほぼ同じ新会社を設立した場合も法人格の濫用で、新会社は旧会社と別人格であることを主張できない(最判昭和48年10月26日)
- 効果はその事案に限られ、会社の法人格が一般的・全面的に否定されるわけではない
- 背後者に対する確定判決の既判力・執行力は会社に及ばず、会社に対しては別に訴えを起こす必要がある(最判昭和44年2月27日)
- 会社法に明文はなく、根拠は信義則(民法1条3項)に求められる

