依頼に応ずる義務いらいにおうずるぎむ
依頼に応ずる義務とは、司法書士は正当な事由がある場合でなければ依頼(簡裁訴訟代理等関係業務に関するものを除く)を拒むことができないという義務です(21条)。試験では、理由書を交付しても正当な事由がなければ拒めないこと、理由書は拒んだ後に依頼者の請求があれば交付するものであることが問われています。
依頼に応ずる義務は、21条が定める司法書士の基本的な義務です。登記や供託の手続、裁判所に提出する書類の作成など、3条1項1号から5号までの業務の依頼は、正当な事由がなければ拒めません。違反すると100万円以下の罰金に処せられます(75条1項)。司法書士法人と公共嘱託登記司法書士協会にも準用されています(46条1項・70条)。

司法書士法 第21条第1項司法書士は、正当な事由がある場合でなければ依頼(簡裁訴訟代理等関係業務に関するものを除く。)を拒むことができない。
簡易裁判所に提出する書類の作成も、正当な事由がなければ拒めません
21条の括弧書が除いているのは、簡裁訴訟代理等関係業務に関する依頼だけです。簡易裁判所に提出する書類の作成は3条1項4号の業務なので、依頼に応ずる義務が及びます。「司法書士は、正当な事由がある場合でなければ、簡易裁判所に提出する書類を作成する業務の依頼を拒むことができない」という肢(R6 午後 問8 イ)は正しい記述です。審査請求の手続の代理(3条1項3号)も同じく義務の対象です。
理由書は拒んだ後に交付するもので、正当な事由の代わりにはなりません
施行規則27条1項は、依頼(簡裁訴訟代理等関係業務に関するものを除く)を拒んだ場合に、依頼者の請求があるときは理由書を交付しなければならないと定めています。理由書は、正当な事由に基づいて依頼を拒んだ後、その理由を依頼者に示すためのものです。正当な事由がないのに理由書を出しても、拒むことは許されません。「司法書士は、正当な事由がないときであっても、依頼者に対して理由書を交付することにより登記に関する手続の代理の依頼を拒むことができる」という肢(R7 午後 問8 ウ)は誤りです。理由書を交付するかどうかは依頼者の請求にかかっており、請求がなければ交付は要りません。他方、依頼者が請求したのに理由書を交付しないことは許されず、拒んだ旨を速やかに通知すれば足り、請求があっても理由書は要らないとする記述も誤りです。簡裁訴訟代理等関係業務の依頼は21条の対象から外れているので、正当な事由がなくても承諾しないことができます。その場合は、理由書ではなく、速やかにその旨を依頼者に通知します(同条2項)。
司法書士法施行規則27条司法書士は、依頼(簡裁訴訟代理等関係業務に関するものを除く。)を拒んだ場合において、依頼者の請求があるときは、その理由書を交付しなければならない。2司法書士は、簡裁訴訟代理等関係業務について事件の依頼を承諾しないときは、速やかに、その旨を依頼者に通知しなければならない。
登記の経緯に疑問がうかがわれるだけでは、依頼を拒む正当な事由になりません
何が正当な事由に当たるかについて、最高裁は、土地の売買の当事者双方から所有権の移転の登記手続の代理を嘱託された司法書士が、登記の経緯から前の所有者の権利に疑問がうかがわれることだけを理由に、決済日の当日になって突然、所有権が買主に移転するとは限らないと述べて嘱託を拒んだことには、正当な事由があるとはいえないとしました(最判平成16年6月8日)。この判決は、平成14年改正前の8条(現在の21条)についての判断です。

法律で業務を禁じられた事件の依頼は、受けることができません
21条は依頼を拒むことを制限しますが、法律が業務を行うことを禁じている事件まで受けさせるものではありません。公務員として職務上取り扱った事件や仲裁人として取り扱った事件(22条1項)、相手方の依頼を受けて裁判書類を作成した事件(22条2項1号)などでは、司法書士は業務を行ってはなりません。他の法律で業務を行うことが制限されているもの(3条8項)も同じです。これらの依頼を断るときも、依頼者の請求があれば理由書を交付します(施行規則27条1項)。
司法書士法 第22条第1項司法書士は、公務員として職務上取り扱つた事件及び仲裁手続により仲裁人として取り扱つた事件については、その業務を行つてはならない。
法人と協会にも準用され、違反したときは行為をした社員や理事が罰せられます
21条は、司法書士法人(46条1項)と公共嘱託登記司法書士協会の業務(70条)に準用されています。法人が準用される21条に違反したときは、違反行為をした法人の社員又は使用人が100万円以下の罰金に処せられ(75条2項)、協会が違反したときは、違反行為をした協会の理事又は職員が100万円以下の罰金に処せられます(75条3項)。施行規則27条(依頼の拒否と理由書)も、司法書士法人(施行規則37条)と協会の業務(施行規則51条)に準用されています。依頼を受ける側が個人か法人かを問わず、正当な事由がなければ拒めず、拒んだときは請求により理由を示す仕組みです。
司法書士法 第75条第1項第二十一条の規定に違反した者は、百万円以下の罰金に処する。
依頼を受ける段階では、報酬の基準の明示と依頼誘致の禁止も守ります
依頼に応ずる義務は、依頼を受けた後の拒否を制限するものです。依頼を受けようとする段階では、施行規則22条により、あらかじめ依頼をしようとする者に報酬額の算定の方法その他の報酬の基準を示さなければなりません。また、施行規則26条は、司法書士は不当な手段によって依頼を誘致するような行為をしてはならないと定めています。依頼を受けることは義務である一方、依頼を集める手段には制限があります。
司法書士法施行規則26条司法書士は、不当な手段によつて依頼を誘致するような行為をしてはならない。
試験ではこう問われる
- 簡易裁判所に提出する書類を作成する業務の依頼は、正当な事由がなければ拒めない(21条。R6 午後 問8 イ ○)
- 正当な事由がなければ、理由書を交付しても登記の代理の依頼を拒めない(21条、規則27条1項。R7 午後 問8 ウ ×)
- 登記の経緯に疑問がうかがわれることだけを理由に、決済日当日に登記の代理の嘱託を拒むことには、正当な事由がない(21条、最判平成16年6月8日)
- 登記の代理の依頼を拒んだときは、依頼者の請求があれば理由書を交付しなければならない(規則27条1項。H27 午後 問8 イ ×・出題当時)
- 審査請求の手続の代理(3条1項3号)の依頼も、正当な事由がなければ拒めない(21条。H25 午後 問8 ウ ×・出題当時)
- 簡裁訴訟代理等関係業務の依頼は21条の対象外で、承諾しないときは速やかに通知する(規則27条2項)
- 21条は司法書士法人と協会にも準用され、違反行為をした社員・使用人・理事・職員は100万円以下の罰金(46条1項・70条・75条2項・3項)
- 21条に違反した者は100万円以下の罰金に処せられる(75条1項)
この用語が問われた肢
司法書士は、正当な事由がないときであっても、依頼者に対して理由書を交付することにより登記に関する手続の代理の依頼を拒むことができる。
司法書士は、正当な事由がある場合でなければ、簡易裁判所に提出する書類を作成する業務の依頼を拒むことができない。
解説と関連先例は肢別演習で読めます。

