司法書士法人の業務の執行・代表と特定社員しほうしょしほうじんのぎょうむのしっこうとだいひょう
司法書士法人の社員は、すべて業務を執行する権利を有し義務を負い(36条1項)、各自法人を代表します(37条1項)が、簡裁訴訟代理等関係業務については特定社員(認定司法書士である社員)だけが業務を執行し、代表します(36条2項・37条2項)。試験では、定款で業務の執行権を一部の社員に限ることはできないこと、特定社員でない社員は総社員の同意があっても簡裁訴訟代理等関係業務について法人を代表できないことが問われています。
業務の執行と代表について、36条1項は社員はすべて業務を執行する権利を有し義務を負うと定め、定款による例外を置いていません。代表については、37条1項本文が社員の各自代表を定め、ただし書で定款又は総社員の同意により代表社員を定めることを認めています。業務の執行は全員、代表は絞れる、という違いがあります。

司法書士法 第36条第1項司法書士法人の社員は、すべて業務を執行する権利を有し、義務を負う。
持分会社と違い、定款で業務を執行する社員を限ることはできません
持分会社では、社員は「定款に別段の定めがある場合を除き」業務を執行するので(会社法590条1項)、定款で業務を執行する社員を一部に限ることができます。司法書士法36条1項は「司法書士法人の社員は、すべて業務を執行する権利を有し、義務を負う」と定め、定款による例外の文言を置いていません。会社法590条は46条2項の準用規定にも入っていません。そのため、定款で業務の執行権を一部の社員に限る記述は誤りです。代表については、37条1項ただし書が定款又は総社員の同意で代表社員を定めることを認めているので、業務の執行と代表とで扱いが違います。社員はすべて司法書士で、法人の業務は社員自身が資格者として担うことが前提になっています。
会社法 第590条第1項社員は、定款に別段の定めがある場合を除き、持分会社の業務を執行する。
認定を受けていない社員は、全員の同意があっても簡裁訴訟代理等関係業務で法人を代表できません
37条2項本文は、簡裁訴訟代理等関係業務については、1項本文にかかわらず特定社員のみが各自法人を代表すると定めています。ただし書が認めるのは、特定社員の全員の同意によって、特定社員のうちから代表すべき者を定めることだけです。認定を受けていない社員を代表者にする道はなく、総社員の同意によっても変わりません。業務の執行についても、36条2項が特定社員のみに権利と義務を認めています。認定のない社員は、簡裁訴訟代理等関係業務について、執行も代表もできません。

司法書士法 第37条第2項簡裁訴訟代理等関係業務を行うことを目的とする司法書士法人における簡裁訴訟代理等関係業務については、前項本文の規定にかかわらず、特定社員のみが、各自司法書士法人を代表する。ただし、当該特定社員の全員の同意によつて、当該特定社員のうち特に簡裁訴訟代理等関係業務について司法書士法人を代表すべきものを定めることを妨げない。
代表社員の権限は包括的で、内部的な制限は善意の第三者に対抗できません
37条1項により法人を代表する社員は、法人の業務(簡裁訴訟代理等関係業務を除く)に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有します(37条3項)。この権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗できません(37条4項)。代表社員は、定款によって禁止されていないときに限り、特定の行為の代理を他人に委任できます(37条5項)。法人を代表する社員その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害は、法人が賠償する責任を負います(46条2項による会社法600条の準用)。社員の除名や、業務を執行する権利・代表権の消滅については、会社法859条から862条までの訴えの規定が準用されています(46条2項)。代表社員を定めた場合、それ以外の社員は法人を代表しませんが、業務を執行する権利と義務は36条1項により引き続き全員が持ちます。
司法書士法 第37条第3項第一項の規定により司法書士法人を代表する社員は、司法書士法人の業務(前項の簡裁訴訟代理等関係業務を除く。)に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
司法書士法 第37条第4項前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
特定社員の責任は、簡裁訴訟代理等関係業務の債務について重くなっています
社員の責任の原則は、法人の財産で債務を完済できないとき、又は法人の財産に対する強制執行が効を奏しなかったときに、各社員が連帯して弁済する責任です(38条1項・2項)。強制執行が効を奏しなかった場合でも、社員が法人に資力があり執行が容易であることを証明すれば責任を負いません(38条3項)。これに対し、簡裁訴訟代理等関係業務を目的とする法人がこの業務に関し依頼者に負った債務については、38条1項にかかわらず特定社員が連帯して責任を負い、脱退した特定社員も、債務が脱退後の事由で生じたことを証明しない限り責任を免れません(38条4項)。強制執行が効を奏しなかった場合も同様です(38条5項)。この業務を執行するのが特定社員に限られることと対応しています。
司法書士法 第38条第4項簡裁訴訟代理等関係業務を行うことを目的とする司法書士法人が簡裁訴訟代理等関係業務に関し依頼者に対して負担することとなつた債務を当該司法書士法人の財産をもつて完済することができないときは、第一項の規定にかかわらず、特定社員(当該司法書士法人を脱退した特定社員を含む。以下この条において同じ。)が、連帯して、その弁済の責任を負う。ただし、当該司法書士法人を脱退した特定社員については、当該債務が脱退後の事由により生じた債務であることを証明した場合は、この限りでない。
試験ではこう問われる
- 定款で業務執行権を一部の社員に限定することはできない(36条1項。H30 午後 問8 ウ ×・出題当時)
- 認定を受けていない社員は、総社員の同意があっても簡裁訴訟代理等関係業務について法人を代表できない(37条2項。H28 午後 問8 ウ ×・出題当時)
- 代表社員は、定款又は総社員の同意で定めることができる(37条1項ただし書)
- 代表社員の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗できない(37条4項)
- 法人の財産で債務を完済できないとき、各社員は連帯して弁済の責任を負う(38条1項)
- 簡裁訴訟代理等関係業務に関する依頼者への債務は、特定社員が連帯して弁済の責任を負う(38条4項)

