司法書士法人の社員の競業の禁止しほうしょしほうじんのしゃいんのきょうぎょうのきんし
社員の競業の禁止とは、司法書士法人の社員が、自己若しくは第三者のためにその法人の業務の範囲に属する業務を行い、又は他の司法書士法人の社員となってはならないという義務です(42条1項)。試験では、他の社員全員の承諾があってもこの禁止は解除されないことが問われています。
社員の競業の禁止は、42条1項が定めています。禁止されるのは、自己又は第三者のために法人の業務の範囲に属する業務を行うことと、他の司法書士法人の社員となることの二つです。社員は法人の業務を執行する立場にあるので、個人として同じ業務を行うことを許すと、法人と利益が衝突します。

司法書士法 第42条第1項司法書士法人の社員は、自己若しくは第三者のためにその司法書士法人の業務の範囲に属する業務を行い、又は他の司法書士法人の社員となつてはならない。
他の社員全員の承諾があっても、競業は許されません
会社法594条1項は、持分会社の業務執行社員の競業について、他の社員全員の承認があれば許されるとしています。これに対し、司法書士法42条1項には承諾による例外がありません。46条2項も会社法594条を司法書士法人の社員に準用していません。「司法書士法人の社員は、第三者のためにその司法書士法人の業務の範囲に属する業務を行ってはならない」という肢(R6 午後 問8 エ)は正しい記述です。
禁止される業務の範囲は、29条と定款で決まる法人の業務の範囲です
42条1項が禁じるのは「その司法書士法人の業務の範囲に属する業務」です。法人の業務の範囲は29条が定め、3条1項1号から5号までの業務はどの法人でも業務の範囲に入ります。定款で施行規則31条の財産管理の業務や後見人などに就く業務、簡裁訴訟代理等関係業務を定めている法人では、これらも業務の範囲に属します。そのため、社員が個人として行えない業務の範囲は、所属する法人の定款によって広くも狭くもなります。また、42条の主語は「司法書士法人の社員」なので、使用人である司法書士はこの規定の対象ではありません。使用人については、22条2項3号・3項6号などの事件ごとの制限が問題になります。
司法書士法 第29条第1項司法書士法人は、第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行うほか、定款で定めるところにより、次に掲げる業務を行うことができる。
一 法令等に基づきすべての司法書士が行うことができるものとして法務省令で定める業務の全部又は一部
二 簡裁訴訟代理等関係業務
他の司法書士法人の社員となることも禁じられています
42条1項後段は、社員が他の司法書士法人の社員となることを禁じています。前段の業務の制限と同じく、他の社員の承諾による例外はありません。持分会社の社員の競業を定める会社法594条1項は、業務を執行する社員が同種の事業を目的とする会社の取締役・執行役又は業務を執行する社員となることも、他の社員全員の承認がない限り禁じ、定款で別段の定めをすることも認めていますが、司法書士法42条1項は承諾の有無を問わず他の司法書士法人の社員となることを禁じています。社員の資格を定める28条は、社員は司法書士でなければならず(1項)、業務の停止の期間中の者や司法書士会の会員でない者は社員になれないとしています(2項)。社員である司法書士は、一つの法人の社員として、その法人の業務の範囲に属する業務を法人の業務として行うことになります。
競業の禁止に違反した社員は、除名の訴えの対象になります
46条2項は、持分会社の社員の除名の訴えを定める会社法859条を司法書士法人の社員の除名について準用し、859条2号の「第五百九十四条第一項」を「司法書士法第四十二条第一項」と読み替えています。会社法859条は、対象社員について除名の事由があるときに、会社が対象社員以外の社員の過半数の決議に基づき、訴えをもって除名を請求できると定めています。そのため、42条1項に違反した社員については、法人は他の社員の過半数の決議に基づいて除名の訴えを起こすことができ、除名は社員の法定脱退の理由になります(司法書士法43条5号)。違反は法律違反でもあるので、47条の懲戒の対象にもなります。
会社法 第859条第1項持分会社の社員(以下この条及び第八百六十一条第一号において「対象社員」という。)について次に掲げる事由があるときは、当該持分会社は、対象社員以外の社員の過半数の決議に基づき、訴えをもって対象社員の除名を請求することができる。
一 出資の義務を履行しないこと。
二 第五百九十四条第一項(第五百九十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反したこと。
三 業務を執行するに当たって不正の行為をし、又は業務を執行する権利がないのに業務の執行に関与したこと。
四 持分会社を代表するに当たって不正の行為をし、又は代表権がないのに持分会社を代表して行為をしたこと。
五 前各号に掲げるもののほか、重要な義務を尽くさないこと。
違反して得た利益の額は、法人の損害の額と推定されます
社員が42条1項に違反して自己又は第三者のために法人の業務の範囲に属する業務を行ったときは、その業務によって社員又は第三者が得た利益の額が、法人に生じた損害の額と推定されます(42条2項)。法人は損害額を一から証明しなくても、損害賠償を求めることができます。持分会社についても、業務を執行する社員が承認を得ずに事業の部類に属する取引をしたときに同じ推定が置かれています(会社法594条2項)。司法書士法人では承諾による例外がないので、違反の成否は承諾の有無に左右されず、推定の規定がそのまま働きます。

司法書士法 第42条第2項司法書士法人の社員が前項の規定に違反して自己又は第三者のためにその司法書士法人の業務の範囲に属する業務を行つたときは、当該業務によつて当該社員又は第三者が得た利益の額は、司法書士法人に生じた損害の額と推定する。
試験ではこう問われる
- 社員は、第三者のためにその法人の業務の範囲に属する業務を行ってはならない(42条1項。R6 午後 問8 エ ○)
- 他の社員全員の承諾があっても、自己又は第三者のために法人の業務の範囲に属する業務を行えない(42条1項。H30 午後 問8 ア ×・出題当時)
- 同じ論点の肢が平成27年にも出題され、誤りとされている(42条1項。H27 午後 問8 エ ×・出題当時)
- 禁止の範囲は29条と定款で決まる法人の業務の範囲で、42条は使用人には及ばない(42条1項・29条1項)
- 社員は他の司法書士法人の社員となってはならない(42条1項後段)
- 42条1項に違反した社員は、会社法859条の準用により除名の訴えの対象になり、除名は法定脱退の理由になる(司法書士法46条2項・43条5号)
- 違反した社員又は第三者が得た利益の額は、法人の損害の額と推定される(42条2項)
この用語が問われた肢
司法書士法人の社員は、第三者のためにその司法書士法人の業務の範囲に属する業務を行ってはならない。
解説と関連先例は肢別演習で読めます。

