文書の証拠力と成立の真正(形式的・実質的証拠力、作成者、公文書)ぶんしょのしょうこりょくとせいりつのしんせい
文書の証拠力とは、文書が事実の証明に役立つ力をいい、作成者の意思に基づいて作られたかという形式的証拠力と、記載内容が要証事実の証明に役立つかという実質的証拠力に分かれます。成立の真正とは、挙証者が作成者と主張する者の意思に基づいて文書が作成されたことです。
借用証書が証拠に出されたとき、まず確かめるのは、それが本当にその人の意思で作られたものか、誰かが勝手に作った偽物ではないかです。偽物なら中身を読んでも意味がありません。本物だと分かった後で、書いてある内容をどこまで信用できるかを考えます。このように文書の価値は、作成者の意思で作られたかという入口の問題と、内容が事実の証明にどれだけ役立つかという中身の問題の二段階で判断されます。

文書が作成者の意思に基づいて作られたことを成立の真正といい、これが認められて初めて内容の証明力が問題になります
文書は、その成立が真正であることを証明しなければなりません(228条1項)。成立の真正とは、挙証者が作成者と主張する者の意思に基づいて文書が作られたことをいい、これが認められた文書は形式的証拠力を持ちます。そのうえで、記載内容が要証事実の証明にどれだけ役立つかという実質的証拠力が、裁判官の自由心証で判断されます(247条)。判例は、書証の成立を認めることは作成名義人が真実作成した偽造でないものであることを認めるだけで、書いてあることが客観的に真実であることを認めるものではないとしました(最判昭和25年2月28日)。契約書のように意思表示そのものが記載された処分証書は、成立が認められれば、記載どおりの意思表示があったと認めることができます。これに対し、作成者の見聞や認識を記載した報告文書は、成立が認められても内容の真実までは推定されず、作成の目的や作成者の立場などを考えて証明力を決めます。
- 形式的証拠力作成者と主張される者の意思に基づいて作られたこと(成立の真正)が認められると備わります
- 実質的証拠力記載内容が要証事実の証明に役立つ程度で、自由心証で判断します
- 処分証書契約書・遺言書など意思表示そのものを記載した文書で、成立が認められれば記載どおりの意思表示を認定できます
- 報告文書領収証・日記・報告書など見聞や認識を記載した文書で、成立が認められても内容の真実は推定されません
作成者は文書に思想を表示した者であり、使者に書かせてもその依頼者が作成者になります
文書の作成者とは、その文書に記載された思想を表示した者をいい、実際にペンを執った者とは限りません。Aの依頼を受けた使者BがAの意思を書き記したときは、作成者はBではなくAです。逆に、A名義の文書をBが無断で作ったときは、表示された思想はBのものなので作成者はBです。挙証者がBを作成者として提出すれば、Bの意思に基づいて作られたことは明らかなので、成立の真正が認められます。一通の書面に複数の者の思想が表示されていれば、作成者は複数です。債務者とその連帯保証人の署名がある借用証書は、一通の書面でも作成者が複数の文書です。

成立の真正は署名や押印がなくても他の証拠と弁論の全趣旨で認定でき、その自白は裁判所を拘束しません
成立の真正を証明する方法に制限はありません。228条4項の推定は証明を助ける手段の一つにすぎないので、署名も押印もない文書でも、筆跡の対照や他の証拠、弁論の全趣旨から成立を認定できます(大判昭和6年1月31日)。成立の真正は証拠の価値にかかわる補助事実なので、相手方がこれを認めても裁判所は拘束されません(最判昭和52年4月15日)。「文書の成立の真正についての自白は,裁判所を拘束しない」という肢(R3 午後 問4 イ)は正しく、「書証の成立の真正についての自白は、裁判所を拘束します」という肢(R7 午後 問2 イ)は誤りです。もっとも、争いがなければ証拠調べなしに成立を認めてよく、私文書の成立に当事者間で争いがなければ、裁判所は証拠に基づかなくても真正に成立したものと認めることができます。相手方が認否をしなかっただけで成立に争いがあるものとして扱う規定はありません。書証の成立の真正についての自白の扱いは、前半の間接事実・補助事実の自白の語で扱います。
公文書は真正に成立したものと推定され、成立の真否は筆跡や印影の対照でも証明できます
文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定されます(228条2項)。推定なので反証で覆すことができ、みなされるのではありません。公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができます(同条3項)。私文書の推定(同条4項)は、私文書の成立と二段の推定の語で扱います。文書の成立の真否は、筆跡又は印影の対照によっても証明でき(229条1項)、対照に適当な相手方の筆跡がないときは、裁判所は対照の用に供すべき文字の筆記を相手方に命ずることができます(同条3項)。「対照をするのに適当な相手方の筆跡がないときは、裁判所は、対照の用に供すべき文字の筆記を相手方に命ずることができる」という肢(R7 午後 問4 エ)は正しいです。相手方が正当な理由なくこの決定に従わないとき、又は書体を変えて筆記したときは、裁判所は、文書の成立の真否に関する挙証者の主張を真実と認めることができます(同条4項)。
当事者や代理人が故意又は重大な過失により真実に反して成立の真正を争うと、10万円以下の過料に処されます
相手方の主張を争うのは自由ですが、本物と知りながら文書の成立を争うと、無用な証拠調べで訴訟が遅れます。そこで、当事者又はその代理人が故意又は重大な過失により真実に反して文書の成立の真正を争ったときは、裁判所は、決定で、10万円以下の過料に処します(230条1項)。この決定には即時抗告ができ(同条2項)、訴訟の係属中に成立が真正であることを認めたときは、裁判所は事情により決定を取り消すことができます(同条3項)。代理人には訴訟代理人も含まれるので、訴訟代理人も過料に処せられます。制裁は過料であって、文書の記載内容を真実と認める効果は生じません。
民事訴訟法 第228条第1項文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
民事訴訟法 第228条第2項文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。
民事訴訟法 第228条第3項公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができる。
民事訴訟法 第229条第4項相手方が正当な理由なく前項の規定による決定に従わないときは、裁判所は、文書の成立の真否に関する挙証者の主張を真実と認めることができる。書体を変えて筆記したときも、同様とする。
民事訴訟法 第230条第1項当事者又はその代理人が故意又は重大な過失により真実に反して文書の成立の真正を争ったときは、裁判所は、決定で、十万円以下の過料に処する。
試験ではこう問われる
- 文書の成立の真正についての自白は裁判所を拘束しないが、争いがなければ証拠なしに成立を認められる(最判昭和52年4月15日。R3 午後 問4 イ ○、R7 午後 問2 イ ×)
- 私文書は本人又は代理人の署名又は押印があるときに真正に成立したものと推定されるのであって、みなされるのではない(228条4項。R3 午後 問4 ア ×)
- 公文書も真正に成立したものと推定されるのであって、みなされるのではない(228条2項)
- 公文書の成立の真否に疑いがあるときは、職権で官庁又は公署に照会できる(228条3項。H30 午後 問3 ア ○・出題当時)
- 対照に適当な相手方の筆跡がないときは、相手方に文字の筆記を命じられ、従わなければ挙証者の主張を真実と認められる(229条3項・4項。R7 午後 問4 エ ○)
- 成立の真正が認められても、報告文書の内容の真実は推定されない(最判昭和25年2月28日)
- 故意・重過失で真実に反して成立を争った当事者・代理人は10万円以下の過料に処され、即時抗告ができる(230条1項・2項)

