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債務者を特定しないで発する占有移転禁止の仮処分さいむしゃをとくていしないではっするせんゆういてんきんしのかりしょぶん

民事保全法 第1章 保全命令の申立てと審理 過去問で1肢

債務者を特定しないで発する占有移転禁止の仮処分とは、係争物が不動産で、その執行前に債務者を特定することを困難とする特別の事情があるときに、裁判所が債務者を特定しないで発する占有移転禁止の仮処分命令で(25条の2第1項)、執行によって不動産の占有を解かれた者が債務者になります(同条2項)。

債務者を特定しないで発する占有移転禁止の仮処分は、建物の占有者が次々に入れ替わり、誰が占有しているのか分からないまま明渡しを妨げられる事態に対処するための制度です。申立ての時点で債務者の氏名を特定できなくても、執行の時に現に占有している者を債務者として扱います。

黒板の左に建物と○印、右に自転車と×印を描き、不動産だけを示す先生
債務者を特定しないで発する占有移転禁止の仮処分は、係争物が不動産である場合に限られます
不動産に限る動産は不可特定が困難な特別の事情
民事保全法 第25条の2第1項

占有移転禁止の仮処分命令(係争物の引渡し又は明渡しの請求権を保全するための仮処分命令のうち、次に掲げる事項を内容とするものをいう。以下この条、第五十四条の二及び第六十二条において同じ。)であって、係争物が不動産であるものについては、その執行前に債務者を特定することを困難とする特別の事情があるときは、裁判所は、債務者を特定しないで、これを発することができる。
一 債務者に対し、係争物の占有の移転を禁止し、及び係争物の占有を解いて執行官に引き渡すべきことを命ずること。
二 執行官に、係争物の保管をさせ、かつ、債務者が係争物の占有の移転を禁止されている旨及び執行官が係争物を保管している旨を公示させること。

占有移転禁止の仮処分は、占有の移転の禁止と執行官への引渡し・執行官による保管と公示を内容とします

25条の2第1項は、占有移転禁止の仮処分命令を、係争物の引渡し又は明渡しの請求権を保全するための仮処分命令のうち、債務者に対し係争物の占有の移転を禁止し、及び係争物の占有を解いて執行官に引き渡すべきことを命ずること(1号)と、執行官に係争物の保管をさせ、かつ、占有の移転が禁止されている旨と執行官が保管している旨を公示させること(2号)を内容とするものと定めています。

債務者を特定しないで発することができるのは、係争物が不動産である場合に限られます

25条の2第1項は、債務者を特定しないで発することができる占有移転禁止の仮処分命令を「係争物が不動産であるもの」に限っています。「占有移転禁止の仮処分命令については,係争物が動産である場合であっても,その執行前に債務者を特定することを困難とする特別の事情があるときは,裁判所は,債務者を特定しないで,これを発することができる」という肢(R2 午後 問6 イ)は誤りです。同じ内容の肢(H28 午後 問6 エ)も誤りでした。

執行で占有を解かれた者が債務者となり、占有者を特定できなければ執行できません

この仮処分命令の執行がされたときは、執行によって係争物である不動産の占有を解かれた者が債務者となります(25条の2第2項)。執行は、不動産の占有を解く際にその占有者を特定することができない場合はすることができません(54条の2)。保全執行の期間(43条2項の2週間)内に執行されなかったときは、債務者に対して送達することを要しません(25条の2第3項前段)。

執行官役の先生が建物の玄関で公示書を貼り、中から顔を出す占有者を指す場面
執行によって不動産の占有を解かれた者が債務者となり、占有者を特定できなければ執行できません
占有を解かれた者が債務者特定できなければ執行不可執行期間内なら送達不要
民事保全法 第54条の2第1項

第二十五条の二第一項の規定による占有移転禁止の仮処分命令の執行は、係争物である不動産の占有を解く際にその占有者を特定することができない場合は、することができない。

執行官は、執行によって債務者となった者を発令裁判所に届け出ます

執行官は、債務者を特定しないで発された占有移転禁止の仮処分命令を執行したときは、速やかに、執行によって債務者となった者の氏名又は名称その他の特定するに足りる事項を、これを発した裁判所に届け出なければなりません(民事保全規則44条の2)。申立書には、債務者を特定することができない場合はその旨を記載します(民事保全規則13条1項1号)。執行期間内に執行されなかった場合の担保の取消しの決定は、裁判所が相当と認める方法で申立人に告知することによって効力を生じます(25条の2第3項後段)。

本案の明渡しの強制執行にも、債務者を特定しない執行文の制度があります

民事執行法27条3項は、その債務名義を本案とする占有移転禁止の仮処分命令が執行され、62条1項により占有者に明渡しの強制執行ができる場合などで、強制執行をする前にその不動産を占有する者を特定することを困難とする特別の事情があるときは、債務者を特定しないで執行文を付与することができるとしています(民事執行法27条3項1号)。保全の段階では25条の2、本案の執行の段階では民事執行法27条3項が、占有者の入れ替わりに対応しています。

試験ではこう問われる

  1. 債務者を特定しない占有移転禁止の仮処分は、係争物が不動産の場合に限られ、動産では発せない(25条の2第1項。R2 午後 問6 イ ×)
  2. 要件は、執行前に債務者を特定することを困難とする特別の事情があることである(25条の2第1項)
  3. 執行によって不動産の占有を解かれた者が債務者となる(25条の2第2項)
  4. 占有を解く際に占有者を特定できないときは、執行できない(54条の2)
  5. 2週間の執行期間内に執行されなかったときは、債務者への送達を要しない(25条の2第3項)

この用語が問われた肢

R2 問6 イ誤り

占有移転禁止の仮処分命令については,係争物が動産である場合であっても,その執行前に債務者を特定することを困難とする特別の事情があるときは,裁判所は,債務者を特定しないで,これを発することができる。

解説と関連先例は肢別演習で読めます。

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