他人物売買(561条)たにんぶつばいばい
他人物売買とは、他人の権利(権利の一部が他人に属する場合のその一部を含みます)を売買の目的とする売買で、契約は有効に成立し、売主はその権利を取得して買主に移転する義務を負います(561条)。
知人の土地を、これから買い取る予定で先に第三者へ売る約束をするように、他人の物を売る契約もあります。売買は物を渡す約束なので、契約の時に売主が持ち主でなくても契約は有効に成立し、売主は持ち主から権利を手に入れて買主に移す義務を負います。それができなければ売主の債務不履行として扱い、買主は解除や損害賠償で救済されます。

他人の物の売買も有効に成立し、売主はその権利を取得して買主に移転する義務を負います
561条は、他人の権利(権利の一部が他人に属する場合のその一部を含みます)を売買の目的としたときは、売主はその権利を取得して買主に移転する義務を負うと定めています。他人物売買が有効であることが前提で、判例は、所有者が売買成立当時から目的物を他に譲渡する意思がなく、売主が取得して移転することができないような場合でも、売買契約は有効に成立するとしています(最判昭和25年10月26日)。他人物を目的とする贈与も同じで、「他人物を目的とする贈与は、贈与者がその物の所有権を取得した時からその効力を生ずる」という肢(R6 問18 ア)は誤りです。所有権は契約の時には移らず、特定物の他人物売買では、売主が後に所有権を取得した時に、特段の約定がない限り当然に買主へ移転します(最判昭和40年11月19日)。契約成立の時に買主に所有権が移るわけではありません。買主が他人の物だと知らなかったというだけで、契約が当然に効力を失うこともありません。
権利を移転できないときは債務不履行の一般規定によるので、買主が悪意でも解除と損害賠償ができます
売主が権利を取得して移転することができないときは、561条の義務の履行不能として、買主は催告をせずに解除でき(542条1項1号)、売主に帰責事由があれば損害賠償を請求できます(415条1項)。平成29年改正前は、他人物であることを知っていた買主は損害賠償を請求できないと読める規定がありましたが、判例は当時から、売主の責めに帰すべき事由による履行不能なら債務不履行の一般規定で解除と損害賠償ができるとしていました(最判昭和41年9月8日)。現在はこの規定がなく、買主の善意・悪意は問題になりません。他人物と知って買った買主も、解除でき、売主に帰責事由があれば損害賠償を請求できます。売主に帰責事由がなければ損害賠償は請求できません。ただし、買主自身が権利者と交渉して直接取得したために売主が取得できなくなったときは、債権者の責めに帰すべき事由による不履行なので、買主は解除できません(543条)。
- 解除売主の帰責事由は不要です。買主の善意・悪意も問いません(542条1項1号)。買主の責めに帰すべき事由による不能なら解除できません(543条)
- 損害賠償売主の帰責事由が要ります(415条1項ただし書)。買主の善意・悪意は問いません
- 一部が他人に属する場合565条で562条〜564条が準用され、追完・代金減額・損害賠償・解除ができます
- 期間制限566条の通知期間は種類・品質の不適合だけで、権利の不適合には及びません
平成29年改正で、善意の売主が自分から解除する権利はなくなりました
改正前の562条は、契約の時に権利が自己に属しないことを知らなかった売主は、権利を移転できないときに損害を賠償して解除でき、買主が悪意なら移転できない旨を通知して解除できると定めていました。現在の民法にはこの売主の解除権がなく、売主は権利を移転できなければ債務不履行の責任を負うだけです。善意の売主が損害を賠償して解除することも、悪意の買主に移転できない旨を通知して解除することも、現在はできません。
権利の一部が他人に属するときは契約不適合の規定で処理し、1年の期間制限はかかりません
権利の一部が他人に属し、売主がその一部を移転しないときは、移転した権利が契約の内容に適合しないものとして、562条から564条が準用されます(565条)。追完が不能なら、買主は催告をせずに直ちに代金の減額を請求できます(563条2項1号)。代金減額に買主の善意は要らないので、契約の時に権利の一部が他人に属すると知っていた買主も減額を請求できます。566条の「不適合を知った時から1年以内」の通知は、種類又は品質の不適合に限られ、他人物売買には及びません。
権利者が売主を相続しても、権利者は原則として売主としての履行を拒めます
判例は、他人の権利の売主が死亡し、権利者が売主を相続した場合、権利者は売主の義務ないし地位を承継しても、相続前と同様に権利を移転するかどうかの自由を保有し、信義則に反すると認められる特別の事情がない限り履行を拒否できるとしています(最大判昭和49年9月4日)。相続で権利者自身が売買したことになるわけではないからです。また、他人物売買が解除されたときも、目的物の引渡しを受けていた買主は、原状回復として解除までの使用利益を売主に返還しなければなりません(最判昭和51年2月13日)。解除した買主が売主に対する損害賠償債権で所有者に留置権を主張できないことは、留置権の成立要件の語で扱います。「他人物売買の売主から目的物の引渡しを受けた買主は、所有者から当該目的物の返還請求を受けた場合には、売主に対して有する損害賠償請求権を被担保債権とする留置権を主張して返還を拒むことはできない」という肢(R4 問13 ウ)は正しいです。

民法 第561条(他人の権利の売買における売主の義務)
他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
民法 第565条(移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任)
前三条の規定は、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。
民法 第543条(債権者の責めに帰すべき事由による場合)
債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。
試験ではこう問われる
- 他人物売買は有効に成立し、売主は権利を取得して買主に移転する義務を負う(561条、最判昭和25年10月26日)
- 他人物を目的とする贈与も契約の時から効力を生じ、贈与者が所有権を取得した時から効力を生ずるのではない(R6 問18 ア ×)
- 所有権は売主が取得した時に買主へ移転し、契約成立時には移転しない(最判昭和40年11月19日)
- 移転できなければ買主は解除でき、売主に帰責事由があれば悪意の買主も損害賠償を請求できる(542条1項1号・415条1項)
- 他人物売買の買主は、売主に対する損害賠償請求権で所有者に留置権を主張できない(R4 問13 ウ ○)
- 権利者が売主を相続しても、信義則に反する特別の事情がない限り履行を拒絶できる(最大判昭和49年9月4日)

