法律の成立・公布・署名連署(59条・74条)ほうりつのせいりつ・こうふ・しょめいれんしょ
法律の成立・公布・署名連署とは、法律案が両議院で可決されて法律になり(59条1項)、主任の国務大臣が署名して内閣総理大臣が連署し(74条)、天皇が公布する(7条1号)までの一連の手続です。署名と連署は執行の責任を明らかにするもので、法律の効力要件ではありません。
学校の校則を変えるとき、生徒会と職員会議の両方で認められて初めて新しい校則になり、そのあと校長名で全校に掲示されて、みんなが知ることができる状態になります。法律も同じで、衆議院と参議院の両方で可決されたときに成立し、その法律を担当する大臣が署名して内閣総理大臣が連署し、天皇が公布して国民が知ることのできる状態になります。どの段階で法律が生まれ、どの段階は形式にすぎないのかが、この用語の中身です。

法律は両議院で可決したときに成立します
両院の意思が一致しないときに立法が止まらないよう、59条2項は衆議院の再議決による優越を定めています。衆議院が可決し参議院が異なった議決をした法律案は、衆議院が両議院の協議会を開くことを求めなくても、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決すれば法律となります。両院協議会を開くかどうかは衆議院の任意で、開かずに再議決することもできます。参議院が受け取った後、国会休会中の期間を除いて60日以内に議決しないときは、衆議院は参議院が否決したものとみなすことができ(59条4項)、再議決に進めます。この60日という期間は法律案だけのもので、予算や条約では30日、内閣総理大臣の指名では10日と、事項ごとに期間が違います。また、さきに衆議院に提出しなければならないのは予算であって(60条1項)、法律案にはその定めがありません。「法律案は先に衆議院に提出しなければならないが、予算は先に参議院に提出することも許される」という肢(R4 問3 ウ)は誤りです。
- 発議議員が発議するには衆議院で20人以上、参議院で10人以上の賛成が要る。予算を伴う法律案はそれぞれ50人以上・20人以上
- 議決両議院で可決したときに成立。参議院が異なる議決をしたときは衆議院の再議決による
- 署名・連署執行の責任を明らかにするための手続。法律の効力要件ではない
- 公布官報に掲載し、一般国民が知りうる状態に置く。施行期日の定めがなければ公布の日から20日を経て施行される

署名と連署は法律の効力要件ではありません
74条は「主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする」と定めており、署名するのは主任の大臣だけです。署名と連署は、法律の執行責任を明示するために求められるにすぎず、法律の成立要件ではありません。署名を拒んでも法律の効力に影響はなく、執行の責任を明らかにする意味をもつにとどまります。主任の大臣が誰かは、その法律の所管によって決まります。内閣総理大臣が主任の大臣である法律では、内閣総理大臣が署名し連署もすることになります。

議事手続の瑕疵に司法審査は及びません
最大判昭和37年3月7日(警察法改正無効事件)は、法律が両院において議決を経たものとされ適法な手続で公布されている以上、裁判所は両院の自主性を尊重すべきであり、法律制定の議事手続に関する事実を審理してその有効無効を判断すべきでないとしました。両院の自主性の尊重という議院の自律権が根拠で、法律が両院の議決を経て適法な手続で公布されている以上、裁判所は議事の経過に立ち入りません。議場が混乱して議決の有無自体が疑われる事案でも、結論は変わりませんでした。この判例は、議院の自律権を理由とする司法権の限界の代表例として、統治行為論や部分社会の法理と並べて整理されます。自律権の内容そのものは議院の自律権で扱います。
内閣の法律案提出権は法律で否定できません
72条の「議案」に法律案が含まれることを理由として提出権を認める立場に立てば、その権限は憲法上のものですから、法律で奪うことはできません。法律で提出権を否定できるという結論は、憲法が内閣の法律案提出権を肯定も否定もしていないという立場からしか導けません。国会が唯一の立法機関であることとの関係は唯一の立法機関で扱います。
議員の発議には賛成者の要件があります
国会法56条1項が賛成者の数を定めており、議員の発議権を制限する規定は現に存在します。濫発を防いで審議を実効的にするための制度で、唯一の立法機関という原則に反するものではありません。衆議院では議員20人以上、参議院では議員10人以上の賛成が要り、予算を伴う法律案では衆議院50人以上、参議院20人以上とさらに重い賛成者の数が求められ、財政の裏づけのない立法を抑える仕組みになっています。大臣の出席について、63条は、大臣が議席の有無にかかわらず議案について発言するためいつでも議院に出席できると定め、答弁または説明のため出席を求められたときは出席しなければならないとしています。63条は前段で出席と発言の権利を、後段で出席の義務を定めており、議院から求められなくても出席できます。
公布は、国民が知りうる状態に置いたときに効力を生じます
公布は天皇の国事行為ですが(7条1号)、いつ公布があったといえるかは法律の適用に直結します。最大判昭和32年12月28日(政令の公布)は、公布は特別の事情がない限り官報によってされるとし、ラジオ放送などで国民が事実上内容を知りうる状態になっただけでは公布があったとはいえないとしました。さらに最大判昭和33年10月15日は、官報に掲載されただけでは足りず、一般の希望者が官報を閲覧しまたは購読しようとすれば、それができた最初の時点で公布があったとしました。印刷局で印刷された時点でも、官報の日付の時点でもありません。施行については、法の適用に関する通則法2条が、施行期日の定めがない場合に公布の日から起算して20日を経過した日から施行すると定めています。公布と施行は別の概念で、公布の日に遡って施行する定めを置くことも、刑罰法規でない限り許されます。

日本国憲法 第59条第1項法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
試験ではこう問われる
- 法律案は両議院で可決したときに法律となり(59条1項)、衆議院は両院協議会を開かなくても出席議員の3分の2以上の多数で再可決できる(59条2項)
- 参議院が法律案を受け取ってから国会休会中を除いて60日以内に議決しないときは、衆議院は否決とみなすことができる(59条4項)
- さきに衆議院に提出しなければならないのは予算で(60条1項)、予算を先に参議院に提出することはできない(R4 問3 ウ ×)
- 法律には主任の国務大臣が署名し内閣総理大臣が連署するが(74条)、これは法律の効力要件ではない
- 議事手続の瑕疵について、裁判所は審理して法律の有効無効を判断しない(最大判昭和37年3月7日・警察法改正無効事件)
- 国務大臣は議席の有無にかかわらず議案について発言するため議院に出席でき、答弁又は説明のため求められたときは出席しなければならない(63条)

