逃走の罪とうそうのつみ
逃走の罪とは、法令により拘禁された者が逃走し、又は他人がこれを逃走させることで、国の拘禁作用を害する罪です。逃走(97条)、加重逃走(98条)、被拘禁者奪取(99条)、逃走援助(100条)、看守者等による逃走援助(101条)があり、いずれも未遂が処罰されます。
刑務所や拘置所、警察の留置施設に入れられている人が逃げ出せば、裁判や刑の執行は成り立ちません。逃走の罪は、国が人の身柄を拘禁する作用を守る罪です。逃げた本人を処罰する罪と、逃がす側を処罰する罪があり、逃げ方が壁を壊す、看守に暴行を加える、仲間と示し合わせるといった危険なものであれば刑が重くなります。令和5年の改正で、逮捕されただけの人も逃げた本人として処罰されるようになりました。

逃走罪の主体は、令和5年改正で「法令により拘禁された者」に広がりました
現行の97条は「法令により拘禁された者が逃走したとき」を3年以下の拘禁刑(拘禁刑は令和7年6月から。それ以前は懲役・禁錮)に処するとしています。改正前は主体が「裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者」に限られ、確定判決で刑務所に収容された受刑者と、勾留状で拘禁された被疑者・被告人だけが主体でした。現行法では、逮捕状による逮捕、現行犯逮捕、緊急逮捕で身柄を拘束された者も主体になります。現行犯逮捕されて警察署に連行された者が取調室から逃げ出し、警察署の敷地外に出た事例は、現行法では単純逃走罪が成立します。勾留状で拘置所に勾留されている者は、改正の前後を通じて主体になり、職員の隙を見て逃走すれば逃走罪が成立します。拘禁は一度始まれば足り、刑事施設の間を護送されている途中の者も主体です。刑務所間の護送中に護送車両から逃走した場合も、単純逃走罪の既遂罪が成立します。
- 逃走(97条)法令により拘禁された者が逃走する。3年以下の拘禁刑
- 加重逃走(98条)97条の者が、拘禁場・拘束のための器具の損壊、暴行・脅迫、2人以上の通謀のいずれかによって逃走する。3月以上5年以下の拘禁刑
- 被拘禁者奪取(99条)法令により拘禁された者を奪取する。3月以上5年以下の拘禁刑
- 逃走援助(100条)逃走させる目的で、器具を提供するなど逃走を容易にすべき行為をする(3年以下の拘禁刑)。同じ目的で暴行・脅迫をする(3月以上5年以下の拘禁刑)
- 看守者等による逃走援助(101条)看守し又は護送する者が、拘禁された者を逃走させる。1年以上10年以下の拘禁刑
- 未遂(102条)この章の罪の未遂は、すべて罰する
逃走罪は、看守者の実力的支配を脱した時に既遂になります
逃走とは、拘禁から離脱することをいい、看守者の実力的支配を脱した時に既遂になります。施設の外に出ても、すぐに発見されて追跡が続いている間は、まだ支配を脱したとはいえず未遂にとどまります。これに対し、追跡を振り切っていったん姿をくらませば、その時点で既遂です。その後に発見されて連れ戻されても、既遂であることは変わりません。刑務所の敷地外に脱出したり護送車から脱出したりして追跡を振り切った受刑者が、その後に捜索中の刑務官に発見されて連れ戻されても、逃走罪の既遂罪が成立します。
損壊による加重逃走罪は、損壊を始めた時に着手が認められます
加重逃走罪(98条)は、拘禁場若しくは拘束のための器具の損壊、暴行若しくは脅迫、2人以上の通謀のいずれかを手段として逃走した場合に成立します。損壊を手段とする場合について、判例は、逃走の手段としての損壊が開始されたときには、逃走行為自体に着手した事実がなくても実行の着手があるとし、換気孔の周辺の壁を削り取ったが脱出可能な穴を開けられなかった事案に加重逃走未遂罪を認めました(最判昭和54年12月25日)。したがって、脱出可能な穴を開けられず、逃走行為に及ばないうちに検挙されても、加重逃走未遂罪が成立します。他方、損壊は物理的に壊すことをいいますから、鍵や開錠用具で錠を壊さずに開けても損壊には当たりません。合い鍵を用いて房の扉を開けて逃走した場合に成立するのは、加重逃走罪ではなく97条の逃走罪です。

暴行・脅迫は逃走の手段として看守者らに向けられ、通謀は2人以上が逃走に着手することが必要です
加重逃走罪の暴行・脅迫は、逃走の手段として、看守者又はその協力者に対して加えられるものに限られます。隣の房の者に頼んでその同房者を殴ってもらい、職員が制止に向かった隙に逃げた場合、暴行は看守者に向けられていません。職員がその者を制止している隙に逃走しても、加重逃走罪は成立しません。また、暴行は逃走の手段として加えられる必要があります。単なる反抗として刑務官を押し倒したところ刑務官が気絶したので、その隙に逃走しようと思い立って逃走した場合も、加重逃走罪は成立しません。通謀による加重逃走罪は、複数の者が一緒に逃げることで逃走が成功しやすくなることに加重の根拠がありますから、通謀した2人以上の者がともに逃走に着手することが必要と解されています。同房の者と逃走の相談をしていたが、1人だけが房を出て逃走し、相手が思いとどまった場合も、加重逃走罪の既遂罪は成立しません。逃走した者には97条の逃走罪が成立するにとどまります。通謀の相手は拘禁された者でなければならず、面会に来た友人と示し合わせても通謀には当たりません。
逃がす側の罪は、奪取、逃走援助、看守者等による逃走援助に分かれます
被拘禁者奪取罪(99条)は、法令により拘禁された者を看守者の実力的支配から離脱させ、自己又は第三者の実力的支配の下に移す罪です。逮捕状で逮捕された者も客体になるので、連行中の警察官に体当たりをして逮捕された者を連れ去れば、被拘禁者奪取罪が成立します。逃走援助罪(100条)は、逃走させる目的で、器具を提供し、その他逃走を容易にすべき行為をした時点で既遂になり、拘禁された者が実際に逃走したことも、提供した器具を使ったことも要りません。開錠用具や合い鍵を差し入れれば、使われなくても、逃走しなくても、逃走援助罪の既遂罪が成立します。看守者等による逃走援助罪(101条)は、看守し又は護送する者が拘禁された者を逃走させる罪で、拘禁された者が逃走した時に既遂になります。刑務官が自ら看守する被告人の房の扉を解錠して逃走させれば、看守者逃走援助罪が成立します。
刑法 第97条(逃走)
法令により拘禁された者が逃走したときは、三年以下の拘禁刑に処する。
刑法 第98条(加重逃走)
前条に規定する者が拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊し、暴行若しくは脅迫をし、又は二人以上通謀して、逃走したときは、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。
試験ではこう問われる
- 令和5年改正で、逃走罪・加重逃走罪の主体は「法令により拘禁された者」になった。逮捕された者も主体になる(改正前の逃走罪は、裁判の執行により拘禁された既決・未決の者に限られていた)
- 刑務所間を護送中の受刑者も主体になり、護送車両から逃走すれば逃走罪が成立する
- 追跡を振り切って看守者の実力的支配を脱すれば既遂になり、後で発見されて連れ戻されても既遂である
- 損壊による加重逃走は損壊を始めた時に着手があり、穴が開かなくても加重逃走未遂罪が成立する(最判昭和54年12月25日)
- 合い鍵・開錠用具で錠を壊さずに開けても「損壊」に当たらず、加重逃走罪は成立しない
- 暴行は逃走の手段として看守者らに向けられることを要し、通謀は2人以上がともに逃走に着手することを要する
- 逃走援助罪は器具の提供など逃走を容易にすべき行為をすれば既遂になり、逃走しなくても、器具が使われなくても成立する

