強制執行妨害・封印破棄・競売等妨害の罪きょうせいしっこうぼうがいふういんはきけいばいとうぼうがいのつみ
強制執行妨害とは、強制執行を受ける財産を隠したり、執行の行為や売却を偽計・威力で妨げたりして、強制執行の適正な実施を害する行為です。刑法は、封印等破棄(96条)、強制執行妨害目的財産損壊等(96条の2)、強制執行行為妨害等(96条の3)、強制執行関係売却妨害(96条の4)、公契約関係競売等妨害と談合(96条の6)を定めています。
借金を返さない人の家財に執行官が差押えの札を貼っても、札をはがされたり、財産を隠されたり、競売を邪魔されたりすれば、裁判で勝った意味がなくなります。そこで刑法は、公務員への暴行・脅迫を処罰する公務執行妨害罪とは別に、封印を壊す行為、強制執行を受ける財産を隠す行為、執行や売却を偽計・威力で妨げる行為、公の入札で談合する行為を、それぞれ独立の罪として定めています。

封印等破棄罪は、封印や差押えの表示に係る命令・処分を無効にする行為を処罰します
封印等破棄罪(96条)は、公務員が施した封印若しくは差押えの表示を損壊し、又はその他の方法によりその封印若しくは差押えの表示に係る命令若しくは処分を無効にした者を、3年以下の拘禁刑(拘禁刑は令和7年6月から。それ以前は懲役・禁錮)若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する罪です。封印は、物の現状の変更を禁止する処分として権限のある公務員がその外部に施した封緘などの設備をいい、差押えの表示は、貼り札や立て札のように、公務員が取得した占有を明らかにするための表示をいいます。「無効にした」とは、差押えなどの実質的な効果を失わせ、又は弱めることをいいます。表示を物理的に壊す行為だけでなく、差し押さえられた物を運び出して売る行為や、執行官の占有に移った家屋に入居する行為もこれに当たります。公務執行妨害の一種ですから、封印や差押えの表示は適法で有効なものであることが必要です。
強制執行を妨害する罪は、財産の隠匿等、執行行為の妨害、売却の妨害に分かれています
強制執行妨害目的財産損壊等罪(96条の2)は、強制執行を妨害する目的で、強制執行を受け又は受けるべき財産を隠匿し、損壊し、譲渡を仮装し、債務の負担を仮装するなどの行為を処罰します。目的犯であり、実際に強制執行が妨害されたことは要件ではありません。強制執行行為妨害等罪(96条の3)は、偽計又は威力を用いて、立入り、占有者の確認その他の強制執行の行為を妨害する行為を処罰します。強制執行関係売却妨害罪(96条の4)は、偽計又は威力を用いて、強制執行において行われ又は行われるべき売却の公正を害すべき行為を処罰します。判例は、賃貸借契約が存在しないのに、内容虚偽の賃貸借契約書の写しを上申書とともに執行裁判所に提出した行為について、偽計による競売入札妨害罪の成立を認めており(最決平成10年7月14日)、現行法ではこの罪の成否が問題になります。これらの罪の法定刑は、いずれも3年以下の拘禁刑若しくは250万円以下の罰金又はその併科です。報酬を得る目的で人の債務に関してこれらの罪を犯したときは、加重封印等破棄等罪(96条の5)として、5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はその併科に加重されます。
- 封印等破棄(96条)封印・差押えの表示を損壊し、又はその他の方法で命令・処分を無効にする
- 強制執行妨害目的財産損壊等(96条の2)強制執行を妨害する目的で、財産の隠匿・損壊・仮装譲渡・債務負担の仮装などをする
- 強制執行行為妨害等(96条の3)偽計・威力で強制執行の行為を妨害する。申立てをさせない目的で申立権者に暴行・脅迫を加える
- 強制執行関係売却妨害(96条の4)偽計・威力で強制執行における売却の公正を害すべき行為をする
- 加重封印等破棄等(96条の5)報酬を得る目的などで、人の債務に関して上の罪を犯す
- 公契約関係競売等妨害・談合(96条の6)偽計・威力で公の競売・入札の公正を害すべき行為をする。公正な価格を害する目的などで談合する
公契約関係競売等妨害罪と談合罪は、公の競売・入札の公正を守ります
公契約関係競売等妨害罪(96条の6第1項)は、偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者を処罰します。公正を「害すべき行為」をすれば足り、実際に公正が害されたことは要りません。談合罪(同条2項)は、公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で談合した者を処罰する目的犯です。談合とは、競売や入札の参加者が通謀して、特定の者に落札させるために、他の者は一定の価格以下又は以上で入札しないことを取り決めることをいいます。「公正な価格」について、判例は、その入札において公正な自由競争によって形成されたであろう落札価格をいうとしています。司法書士試験では、これらの罪そのものが問われることは少なく、競売事件の記録を持ち出して隠した事例(R6 問26 イ。公用文書等毀棄罪)のように、競売や強制執行が絡む他の罪の事例を読む前提になります。

刑法 第96条(封印等破棄)
公務員が施した封印若しくは差押えの表示を損壊し、又はその他の方法によりその封印若しくは差押えの表示に係る命令若しくは処分を無効にした者は、三年以下の拘禁刑若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
刑法 第96条の6第1項偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、三年以下の拘禁刑若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
試験ではこう問われる
- 封印等破棄罪は、封印・差押えの表示を壊す行為のほか、差し押さえられた物を運び出すなど、命令・処分を無効にする行為で成立する
- 強制執行妨害目的財産損壊等罪は、強制執行を妨害する目的で財産を隠匿・損壊・仮装譲渡する罪で、法定刑に罰金以上の刑を含む
- 強制執行行為妨害等罪と強制執行関係売却妨害罪の手段は、偽計又は威力である
- 公契約関係競売等妨害罪は、公正を害すべき行為をすれば成立し、実際に公正が害されたことは要らない
- 談合罪は、公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的を要する目的犯である
- 競売を延期させるため裁判所から競売事件の記録を持ち出して隠匿すれば、公用文書等毀棄罪が成立する(R6 問26 イ ×)

