犯人蔵匿等罪の客体(「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」)はんにんぞうとくとうざいのきゃくたい
犯人蔵匿等罪の客体とは、刑法103条が定める「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者」です。判例は、「罪を犯した者」に、真犯人のほか、犯罪の嫌疑によって捜査・訴追の対象となっている者を含めています。
警察に追われている友人を自宅に泊めたところ、後になってその友人は不起訴になった、という場合でも、かくまった時点では警察の捜査が邪魔されています。犯人蔵匿等罪は、犯人を見つけて身柄を確保するという刑事司法の働きを守る罪です。そのため、かくまう相手は、裁判で有罪と決まった人に限られず、嫌疑を受けて捜査や裁判の対象になっている人を広く含みます。誰が客体に当たるかが、この罪の成否を分けます。

「罰金以上の刑に当たる罪」は法定刑に罰金以上の刑を含む罪をいい、故意は罪の内容を知っていれば足ります
犯人蔵匿等罪(103条)の客体は「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者」です。「罰金以上の刑に当たる罪」とは、法定刑に罰金以上の刑が含まれている罪をいい、法定刑が拘留又は科料だけの罪は含まれません。侮辱罪は、令和4年改正で法定刑に懲役・禁錮(令和7年6月からは拘禁刑)と罰金が加わったので、現在はこれに当たります。故意については、判例は、かくまう相手がどのような罪を犯したかの認識があれば足り、その罪の法定刑が罰金以上であることの認識までは要らないとしています(最決昭和29年9月30日)。法定刑が罰金以上かどうかは法律上の評価にすぎないからです。「「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」が犯した罪の法定刑が罰金以上であることを認識せずにその者を蔵匿・隠避する行為には、犯人蔵匿等罪は成立しない」という肢(R7 問25 ウ)は誤りです。
「罪を犯した者」には、真犯人のほか、犯罪の嫌疑によって捜査・訴追されている者が含まれます
「罪を犯した者」の意義については見解が分かれます。真犯人に限るとする見解は、条文の文言に忠実で、無実の者をかくまう行為は期待可能性が低いことを理由とします。この見解に対しては、被疑者・被告人を客体から外せば立法の目的が大きく損なわれるという批判が向けられます。判例は、103条は司法に関する国権の作用を妨害する者を処罰しようとする規定であるから、「罪を犯した者」は犯罪の嫌疑によって捜査中の者をも含むとしています(最判昭和24年8月9日)。この立場では、かくまった時点で捜査の対象であれば足り、その後に不起訴や無罪になっても、成立した犯人蔵匿罪は左右されません。起訴された被告人も客体であり、保釈中の被告人に逃亡の資金を与えた事例では犯人隠避罪が成立します。

真犯人であれば、捜査が始まる前でも、告訴がない段階でも客体になります
判例は、罰金以上の刑に当たる罪を犯した者であることを知りながら、官憲の発見・逮捕を免れるようにかくまった場合には、その犯罪が既に捜査官憲に発覚して捜査が始まっているかどうかに関係なく、犯人蔵匿罪が成立するとしています(最判昭和28年10月2日)。「捜査が開始される前に「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」を蔵匿・隠避する行為には、犯人蔵匿等罪は成立しない」という肢(R7 問25 オ)は誤りです。親告罪について告訴がまだされていない段階でも、捜査や訴追が予定されていることに変わりはないので、犯人は客体に当たります。告訴権者からの告訴がない段階で犯人が友人に頼んでかくまってもらった場合も、犯人蔵匿罪の教唆犯が成立します。これに対し、公訴時効の完成などにより訴追・処罰の可能性がなくなった者は、かくまっても刑事司法作用が害されないので客体に当たりません。なお、犯人が既に死亡していた場合について、死者も「罪を犯した者」に含まれるとして犯人隠避罪を認めた高裁判決があります(札幌高判平成17年8月18日)。
既に逮捕・勾留されている者も客体に含まれます
身柄を拘束されている犯人については、もはや発見や逮捕を妨げる余地がないようにも見えます。しかし判例は、「罪を犯した者」には犯人として逮捕勾留されている者も含まれ、現にされている身柄の拘束を免れさせるような性質の行為も隠避に当たるとしています(最決平成元年5月1日)。したがって、既に逮捕・勾留されている者も「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」に含まれます。身代わり犯人として出頭する行為がこの場面の典型です。「拘禁中に逃走した者」は、法令により拘禁されている間に逃走した者をいい、こちらは犯した罪の法定刑を問いません。
犯人でないと信じてかくまっても、捜査の対象であることを知っていれば故意が認められます
「罪を犯した者」が真犯人に限られない以上、故意の内容としても、相手が真犯人であることの認識は要りません。相手が犯罪の嫌疑によって捜査の対象となっていることを認識していれば、犯人蔵匿罪の故意が認められます。「ある者が「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」として捜査対象になっているが真犯人ではないと考えてその者を蔵匿・隠避する行為には、犯人蔵匿等罪は成立しない」という肢(R7 問25 ア)は誤りです。かくまった者が、相手が捜査の対象であることを認識していれば、故意に欠けるところはありません。真犯人に限るとする見解に対しては、無実だと確信してかくまった者の故意をすべて否定せざるを得なくなるという批判が向けられます。
刑法 第103条(犯人蔵匿等)
罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。
試験ではこう問われる
- 「罰金以上の刑に当たる罪」は法定刑に罰金以上の刑を含む罪で、その刑が罰金以上であることの認識がなくても犯人蔵匿等罪が成立する(最決昭和29年9月30日。R7 問25 ウ ×)
- 「罪を犯した者」は犯罪の嫌疑によって捜査中の者を含む(最判昭和24年8月9日)。後に嫌疑不十分で不起訴になっても成立する
- 捜査対象になっている者を真犯人ではないと考えて蔵匿・隠避しても、犯人蔵匿等罪が成立する(R7 問25 ア ×)
- 真犯人であれば、捜査が開始される前に蔵匿・隠避しても成立する(最判昭和28年10月2日。R7 問25 オ ×)
- 親告罪で告訴がない段階の犯人も客体になる。公訴時効が完成した者は客体にならない
- 既に逮捕・勾留されている者も「罪を犯した者」に含まれる(最決平成元年5月1日)
- 殺人事件の被疑者として逮捕状が発付されている者を、懇願されて3か月間かくまえば犯人蔵匿罪が成立する(H28 問26 イ ×・出題当時)

