死体損壊・遺棄罪したいそんかいいきざい
死体損壊・遺棄罪とは、死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得する罪をいいます。遺棄とは、習俗上の埋葬等とは認められない態様で死体等を放棄し又は隠匿することをいいます(最判令和5年3月24日)。
人が亡くなると、家族や周りの人は、葬儀をして火葬や埋葬をし、手を合わせて見送ります。亡くなった人をていねいに葬ることは、多くの人が大切にしている気持ちです。遺体を山に捨てたり、床下に隠したり、傷つけたりする行為は、亡くなった本人をさらに害するものではありませんが、この気持ちを深く傷つけます。そこで刑法は、死体や遺骨を損壊し、遺棄し、領得する行為を処罰しています。殺人のような生命に対する罪とは守っているものが違うので、殺人罪とは別の罪として成立します。

死体損壊等罪は、死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得する罪で、死者に対する国民の宗教的感情を守っています
190条は、死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者を3年以下の拘禁刑(拘禁刑は令和7年6月から。それ以前は懲役・禁錮)に処します。保護法益は、死者に対する敬虔の感情、国民の宗教的感情です。個人の生命や身体を守る罪ではないので、殺人罪や遺棄罪(217条以下)とは罪質が異なります。損壊とは、死体を切断するなど物理的に壊すことをいい、領得とは、死体や遺骨などの占有を取得することをいいます。墳墓を発掘したうえで死体などを損壊・遺棄・領得した場合は、191条でより重く処罰されます。
- 礼拝所不敬罪(188条1項)神祠、仏堂、墓所その他の礼拝所に対し、公然と不敬な行為をする。6月以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金
- 説教等妨害罪(188条2項)説教、礼拝又は葬式を妨害する。1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金
- 墳墓発掘罪(189条)墳墓を発掘する。2年以下の拘禁刑
- 死体損壊等罪(190条)死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊・遺棄・領得する。3年以下の拘禁刑
- 墳墓発掘死体損壊等罪(191条)墳墓を発掘して、死体などを損壊・遺棄・領得する。3月以上5年以下の拘禁刑
- 変死者密葬罪(192条)検視を経ないで変死者を葬る。10万円以下の罰金又は科料
遺棄とは、習俗上の埋葬と認められない方法で死体を放棄することをいい、死体を運んで隠す行為がこれに当たります
遺棄の典型は、死体を別の場所に運んで山林に埋めたり、床下や庭に埋めたりする作為です。その社会で埋葬と認められている方法によらない点が遺棄の中身ですから、土に埋めたとしても、発見されないように隠す目的で埋めたのであれば遺棄になります。最判令和5年3月24日は、190条にいう「遺棄」とは、習俗上の埋葬等とは認められない態様で死体等を放棄し又は隠匿する行為をいうとしました。そのうえで、自室で死亡した嬰児の死体をタオルで包んで段ボール箱に入れ、自室の棚の上に置いた行為は、その場所、死体のこん包及び設置の方法等に照らすと「遺棄」に当たらないとして、無罪としました。隠匿行為が遺棄に当たり得るとしても、隠したことだけで直ちに遺棄になるわけではなく、場所や方法から習俗上の埋葬等と認められない態様かどうかが判断されます。
死体を現場に放置しただけの場合は、その死体について葬祭をする義務のある者に限って、不作為による死体遺棄罪が成立します
遺棄には不作為によるものも含まれます。もっとも、不作為が遺棄に当たるのは、その死体を葬る法律上の義務がある者が、死体を放置した場合に限られます(大判大正6年11月24日)。葬祭をする義務は、死者の親族であることなどから生じるもので、人を殺した犯人であるというだけでは生じません。そのため、殺人の犯人が、死体を動かさずに現場に残して立ち去っただけでは、死体遺棄罪は成立しません。面識のない他人を殺害して死体をその場に放置して逃走しただけでは、死体遺棄罪は成立しません。これに対し、犯人が死体を現場から運び出して山中に捨てたり埋めたりすれば、作為による遺棄ですから、葬祭をする義務の有無にかかわらず死体遺棄罪が成立します。

生きている人を死体だと思って遺棄しても、死体遺棄罪は成立しません
死体遺棄罪の客体は死体です。瀕死の重傷を負って倒れている人を、すでに死亡していると思って山中に運んで置き去りにした場合、客観的には生きている人を遺棄しているので、死体を遺棄したことにはなりません。行為者の認識していた罪(死体遺棄罪)と実際に生じた事実(生きている人の遺棄)が食い違う場合、両罪の構成要件が実質的に重なり合う限度で故意犯が成立しますが、死体遺棄罪の保護法益は国民の宗教的感情、遺棄罪の保護法益は生命・身体の安全であって、両罪に重なり合いはありません。すでに死亡していると思って生きている人を山中に遺棄しても、死体遺棄罪は成立しません。構成要件の重なり合う限度で故意犯の成立を認める見解からも、この事例で死体遺棄罪の成立を肯定することはできないという結論になります。
殺人罪と死体遺棄罪は、牽連犯ではなく併合罪になります
人を殺した後にその死体を遺棄した場合、殺人罪と死体遺棄罪の両方が成立します。牽連犯になるのは、罪の性質上、一方が他方の手段又は結果となるのが通常である場合です。死体を遺棄する行為は、殺人の手段でも、殺人から通常生じる結果でもありません。そこで判例は、両罪を併合罪としています(大判明治44年7月6日)。強盗殺人の後に死体を遺棄した場合も同じで、死体遺棄罪は強盗殺人罪に吸収されず、併合罪になります。

刑法 第190条(死体損壊等)
死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の拘禁刑に処する。
試験ではこう問われる
- 不作為による死体遺棄罪も成立する余地があるが、葬祭をする義務のある者に限られる(大判大正6年11月24日)
- 殺人の犯人が死体を現場に放置して逃走しただけでは、葬祭をする義務がない限り死体遺棄罪は成立しない
- 死体を運び出して山林や床下に埋めれば、作為による死体遺棄罪が成立する
- 生きている人を死亡したと誤信して遺棄しても、死体遺棄罪は成立しない
- 殺人罪と死体遺棄罪は牽連犯ではなく併合罪になる(大判明治44年7月6日)
- 強盗殺人の後に死体を床下に埋めた場合、強盗殺人罪と死体遺棄罪は併合罪になる

