親告罪の一覧しんこくざいのいちらん
親告罪とは、告訴がなければ公訴を提起することができない罪です。刑法では、名誉毀損罪、侮辱罪、器物損壊罪、過失傷害罪、未成年者略取・誘拐罪などが親告罪とされています。
悪口を言いふらされた人が、裁判で話が蒸し返されることを望まないことがあります。花瓶を割られた程度のことなら、謝罪と弁償で済ませたいと考える人もいます。このように、被害者の気持ちや被害の軽さから、処罰を求めるかどうかを被害者の側に任せた方がよい罪があります。刑法はこうした罪を、告訴がなければ公訴を提起することができない親告罪としています。

親告罪とされる理由は、名誉や秘密の保護、被害の軽さ、家庭内の事情の三つに分けられます
刑法の親告罪は、理由によって三つに分けられます。一つ目は、公判で事件の内容が明らかになると、かえって被害者の名誉や秘密が害される罪です。名誉毀損罪、侮辱罪、信書開封罪、秘密漏示罪がこれに当たります。未成年者略取・誘拐罪も、被害者とその家族の事情に配慮して親告罪とされています。二つ目は、被害が比較的軽く、被害者の意思を尊重してよい罪です。過失傷害罪、器物損壊罪、私用文書等毀棄罪、信書隠匿罪がこれに当たります。三つ目は、親族の間の財産犯で、家庭内の問題に国が立ち入ることを控える趣旨のものです。
- 信書開封罪・秘密漏示罪(135条)親告罪です
- 過失傷害罪(209条2項)親告罪です。過失致死罪、業務上過失致死傷罪、重過失致死傷罪は親告罪ではありません
- 未成年者略取・誘拐罪、これを幇助する目的の被略取者引渡し等罪、これらの未遂罪(229条)親告罪です。営利目的等や身の代金目的の略取・誘拐罪は親告罪ではありません
- 名誉毀損罪・侮辱罪(232条)親告罪です
- 私用文書等毀棄罪・器物損壊罪・信書隠匿罪(264条)親告罪です。公用文書等毀棄罪、建造物等損壊罪、境界損壊罪は親告罪ではありません
- 配偶者・直系血族・同居の親族以外の親族との間の窃盗罪・不動産侵奪罪(244条2項)、詐欺罪・恐喝罪・背任罪(251条)、横領罪(255条)親告罪です

信用毀損罪・業務妨害罪と性犯罪は、親告罪ではありません
信用毀損罪と業務妨害罪には、告訴がなければ公訴を提起することができないとする規定がありません。公判で事件の内容が明らかになると被害者の信用が損なわれるという理由づけは、名誉毀損罪が親告罪とされている理由に似ていますが、信用毀損罪には当てはまりません。性犯罪は、平成29年の改正前は強姦罪や強制わいせつ罪が親告罪でしたが、被害者に告訴するかどうかの決断を迫ることが負担になるとして、改正で親告罪ではなくなりました。現在の不同意わいせつ罪や不同意性交等罪も親告罪ではありません。略取・誘拐の罪でも、平成29年の改正後に親告罪として残っているのは、未成年者略取・誘拐罪とその幇助目的の引渡し等の罪、これらの未遂罪だけです。
親族の間の財産犯は、配偶者・直系血族・同居の親族以外の親族との間で犯した場合に親告罪になります
244条1項は、配偶者、直系血族又は同居の親族との間で窃盗罪や不動産侵奪罪を犯した者の刑を免除し、同条2項は、それ以外の親族との間で犯した場合を親告罪としています。この規定は、詐欺罪、恐喝罪、背任罪(251条)と横領罪(255条)にも準用されています。別居している実弟Aに売却した土地に、登記名義が自分に残っていることを利用して無断で抵当権を設定した場合は、横領罪が成立し、告訴がなければ公訴を提起することができません。実弟は配偶者でも直系血族でもなく、別居しているので同居の親族にも当たらず、244条2項の親族に当たるからです。親族でない共犯には、この規定は適用されません(244条3項)。また、「Aは、Aとは別居している祖父Bがその友人Cから依頼されてCが所有する宝石を預かっていることを知ったことから、その宝石をBから窃取した。AとCとの間には親族関係がない。この場合、Aは窃盗罪による刑が免除される」という肢(R4 問26 エ)は誤りです。盗品等に関する罪の親族等の間の特例(257条)は刑を免除するだけで、親告罪とする定めはありません。
告訴は公訴を提起するための条件で、告訴がない段階でも犯罪は成立しています
親告罪の告訴は、公訴を提起するための条件です。告訴がなくても犯罪そのものは成立しており、捜査をすることもできます。そのため、告訴がない段階の親告罪の犯人も、犯人蔵匿罪の「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」に当たります。告訴がない段階の親告罪の犯人が、友人に頼んでかくまってもらった場合も、犯人蔵匿罪の教唆犯が成立します。また、親告罪を犯した者が、告訴をすることができる者に自分の犯罪事実を告げて、その措置に委ねたときは、自首と同じく刑を減軽することができます(42条2項)。

刑法 第232条第1項この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
刑法 第264条(親告罪)
第二百五十九条、第二百六十一条及び前条の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
刑法 第244条第2項前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
刑法 第42条第2項告訴がなければ公訴を提起することができない罪について、告訴をすることができる者に対して自己の犯罪事実を告げ、その措置にゆだねたときも、前項と同様とする。
試験ではこう問われる
- 名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪である(232条1項)。信用毀損罪・業務妨害罪は親告罪ではない
- 器物損壊罪・私用文書等毀棄罪・信書隠匿罪は親告罪である(264条)。公用文書等毀棄罪・建造物等損壊罪・境界損壊罪は親告罪ではない
- 過失傷害罪は親告罪である(209条2項)。過失致死罪・業務上過失致死傷罪は親告罪ではない
- 未成年者略取・誘拐罪は親告罪である(229条)。性犯罪は平成29年の改正後は親告罪ではない
- 配偶者・直系血族・同居の親族との間の窃盗・不動産侵奪・詐欺・恐喝・背任・横領は刑が免除され、それ以外の親族との間のこれらの罪は親告罪である(244条、251条、255条)
- 祖父が友人から預かっている宝石を孫が窃取しても、孫と所有者との間に親族関係がなければ、刑は免除されない(R4 問26 エ ×)
- 告訴がない段階でも犯罪は成立しており、その犯人をかくまえば犯人蔵匿罪が成立する。告訴権者に犯罪事実を告げてその措置に委ねたときは刑を減軽できる(42条2項)

