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被害者の同意(同意傷害・同意の要件)ひがいしゃのどうい

刑法 第4章 違法性阻却 過去問で6肢

被害者の同意とは、法益の主体である被害者が、自分の法益が侵害されることを承諾することです。同意があると、罪によって、構成要件該当性が否定される、違法性が阻却される、軽い罪が成立する、犯罪の成立に影響しない、のいずれかの効果が生じます。

友人に「この本を持っていっていいよ」と言われて持ち帰っても、窃盗にはなりません。持ち主が自分の物をどうするかは持ち主の自由だからです。では、「殴っていいよ」「殺してくれ」と言われた場合はどうでしょう。体や命は本人のものですが、本人がよいと言えば何でも許されるとまでは考えられていません。また、社会全体の利益を守る罪では、目の前の相手が承諾しても意味がありません。同意がどこまで効くかは、罪ごとに決まっています。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座る。証言台の前に被告人の男性(札「被告人」)が立ち、手に「承諾書」と書いた紙を掲げている。法壇の前の書記官席の机に「保険金請求書」と書いた書類が置かれている。被告人の吹き出し「相手はけがを

被害者の同意の効果は、罪の性質に応じて四つに分かれます

被害者の同意が犯罪の成否にどう影響するかは、一律には決まりません。第一に、被害者の意思に反することが構成要件の要素になっている罪では、同意があれば構成要件該当性が否定されます。窃盗罪や住居侵入罪がこれに当たります。第二に、同意があってもなくても犯罪が成立する罪があります。13歳未満の者に対するわいせつな行為がその例です。第三に、同意がある場合とない場合が別々に規定され、同意があると軽い方の罪が成立する場合があります。殺人罪と同意殺人罪、不同意堕胎罪と同意堕胎罪・業務上堕胎罪がその例です。第四に、同意が行為の違法性を阻却する場合があり、傷害罪がその代表です。住居侵入罪の「侵入」を住居権者の意思に反する立入りと解する立場では、住居侵入罪は第四ではなく第一の類型に入ります。

  • 構成要件該当性を否定する窃盗罪、横領罪、住居侵入罪など。被害者の意思に反することが構成要件の要素になっている
  • 犯罪の成立に影響しない13歳未満の者に対するわいせつな行為(176条3項)、公然わいせつ罪、虚偽告訴罪、特別公務員暴行陵虐罪
  • 軽い罪が成立する同意殺人罪(202条)、同意堕胎罪(213条)、業務上堕胎罪(214条)
  • 違法性を阻却する傷害罪。ただし判例は承諾の動機・目的などを総合して決める
大学の教室の場面。先生が教師役(札「刑法総論」)で、四段の棚の横に立っている。棚の各段に札が付いている。一段目「構成要件該当性を否定する:窃盗罪・住居侵入罪」、二段目「犯罪の成立に影響しない:13歳未満の者へのわいせつな行為・虚偽告訴罪」、

財産や住居の罪では、同意があれば構成要件に該当しません

横領罪の「他人の物」は他人の所有に属する物をいい、所有者が処分を承諾していれば、所有権の侵害がありません。所有者乙の承諾を得て、重機の転貸を受けていた丙に無断で、その重機を自己の債権者に譲渡した場合、横領罪は成立しません。所有者である乙が譲渡を承諾しており、転貸を受けていた丙は所有者ではないからです。住居侵入罪についても、判例は「侵入」を住居権者・管理権者の意思に反して立ち入ることと解しています(最判昭和58年4月8日)。政党のビラを配布するためにマンションの共用部分に立ち入った事例で、「そのようなビラの配布は表現の自由として憲法上保障されるものであるから、そのようにビラを配布するためにマンションに立ち入る行為がマンション管理組合の意思に反するものであり、Aもそれを認識していたとしても、Aに住居侵入罪は成立しない」という肢(R8 問24 ア)は誤りです。住居権者の真意に基づく同意を得て立ち入った場合は、住居侵入罪の構成要件に該当したうえで違法性が阻却されるのではありません。真意に基づく同意があれば、そもそも「侵入」に当たらず、構成要件該当性が否定されるからです。

個人が処分できない法益を守る罪では、同意があっても犯罪が成立します

同意が意味をもつのは、同意した者が自分で処分できる法益に限られます。公然わいせつ罪は健全な性的風俗という社会的法益を守る罪ですから、写真撮影について相手があらかじめ承諾していても、違法性は阻却されません。虚偽告訴罪は国の審判作用の適正を守る罪でもあり、判例は告訴される本人の同意があっても同罪が成立するとしています(大判大正元年12月20日)。本人の承諾を得てその人を脅迫罪で虚偽の告訴をした場合も、虚偽告訴罪が成立します。特別公務員暴行陵虐罪は主として公務の適正を守る罪ですから、刑務所内で勤務中に受刑者の承諾を得て性交した場合にも、同罪が成立します。13歳未満の者に対するわいせつな行為も、本人の同意の有無を問わず処罰されます。13歳未満の者がわいせつな行為をあらかじめ承諾していても、強制わいせつ罪(現在の不同意わいせつ罪)の構成要件に該当します。現在は、16歳未満の者に対するわいせつな行為が176条3項で処罰され、13歳未満の者に対する行為は、本人の同意の有無や行為者との年齢差を問わずこれに当たります。

生命と胎児については、同意があっても軽い罪が成立します

生命は本人が処分を承諾しても、他人がそれを奪うことまでは許されません。202条は、人の嘱託を受けまたは承諾を得て殺した者を同意殺人罪として処罰します。殺害についてあらかじめ承諾があっても、犯罪が成立しなくなるわけではありません。殺人罪は成立しませんが、同意殺人罪の構成要件に該当します。堕胎の罪も、妊婦の承諾の有無で罪が分かれています。堕胎について妊婦があらかじめ承諾していれば、不同意堕胎罪は成立しません。不同意堕胎罪(215条1項)は成立しませんが、妊婦の承諾を得て堕胎させたものとして同意堕胎罪(213条)が成立します。

同意傷害について、判例は承諾の動機・目的、手段・方法、損傷の部位・程度を照らし合わせて決めます

傷害罪には同意傷害を処罰する規定も不処罰とする規定もないため、同意がある場合の扱いが解釈に委ねられています。最決昭和55年11月13日は、被害者が身体傷害を承諾した場合に傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合わせて決すべきであるとしました。そして、過失による事故を装って保険金を騙し取る目的で得た承諾は違法なものであり、傷害行為の違法性を阻却しないとしました。「過失による事故であるかのように装い保険金を騙し取る目的をもって、被害者の承諾を得てその者に故意に自己の運転する自動車を衝突させて傷害を負わせた場合には、被害者の承諾が保険金を騙し取るという目的に利用するために得られたものであっても、その承諾が真意に基づく以上、当該傷害行為の違法性は阻却される」という肢(R6 問24 エ)は誤りです。暴力団の指詰めについても、裁判例は承諾があっても傷害罪の成立を認めています(仙台地石巻支判昭和62年2月18日)。学説では、判例と同じく行為が社会的に相当かどうかで決める見解のほか、同意があれば原則として傷害罪は成立せず、生命に危険のある重大な傷害に限って成立するとする見解、同意があればどのような傷害でも傷害罪は成立しないとする見解が並びます。目的の違法を考慮する判例の立場に対しては、傷害罪で詐欺の目的を処罰することになるという批判が向けられます。

同意は、同意能力のある者の真意に基づき、行為の時に存在していなければなりません

同意が有効であるためには、同意する者に、同意の内容と意味を理解する能力がなければなりません。幼児の同意は無効です。妻と5歳になる息子から一家心中の承諾を得て両名を殺害した事例では、妻については同意殺人罪にとどまりますが、5歳の息子は死の意味を理解する能力を欠くので、その承諾は無効であり、殺人罪が成立します。また、同意は真意に基づくものでなければならず、強制されてした同意や、冗談でした承諾は有効な同意ではありません。欺かれてした同意が有効かどうかは、錯誤に基づく同意の問題として別に論じられます。さらに、同意は行為の時に存在していることを要します。行為の後に与えられた同意によって、すでに成立した犯罪が否定されることはありません。

刑法 第202条

(自殺関与及び同意殺人)
人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、六月以上七年以下の拘禁刑に処する。

最決昭和55年11月13日

被害者が身体傷害を承諾したばあいに傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合せて決すべきものである

試験ではこう問われる

  1. 保険金を騙し取る目的で得た承諾による傷害は、承諾が真意に基づくものでも違法性が阻却されない(最決昭和55年11月13日、R6 問24 エ ×)
  2. 管理組合の意思に反してマンションの共用部分に立ち入れば、ビラ配布の目的でも住居侵入罪が成立する(R8 問24 ア ×)
  3. 住居権者の真意に基づく同意があれば、そもそも「侵入」に当たらない
  4. 告訴される本人の同意があっても、虚偽告訴罪は成立する(大判大正元年12月20日)
  5. 被害者の承諾を得て殺害すれば、殺人罪ではなく同意殺人罪が成立する
  6. 幼児の同意は無効であり、同意は行為の時に存在することを要する

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