設立時発行株式の引受けと出資の履行(失権・権利株の譲渡・引受けの取消しの制限)せつりつじはっこうかぶしきのひきうけとしゅっしのりこう
設立時発行株式の引受けとは、株式会社の設立に際して発行する株式を、発起人や設立時募集株式の引受人が引き受けることです。引受人は出資を履行し、会社の成立の時に株主になります(会社法50条1項・102条2項)。出資を履行しなければ株主となる権利を失い(36条・63条3項)、成立後は錯誤・詐欺・強迫を理由に引受けを取り消すことができません(51条2項・102条6項)。
会社を作るとき、発起人は「自分は100株引き受ける」と約束し、その分のお金を銀行に払い込みます。募集設立なら、発起人以外の人も申込みをして株式を割り当てられ、払込みをします。この「引き受けて、払い込む」流れが設立時発行株式の引受けと出資の履行です。払い込んでもすぐに株主になるわけではなく、株主になるのは会社が登記で成立した時です。払い込まない人は株主になる資格を失い、会社ができた後は「だまされて引き受けた」と言って取り消すこともできません。会社を信じて取引を始めた人たちを守るためです。

発起人も設立時募集株式の引受人も、株主になるのは払込みの時ではなく会社の成立の時です
発起人は、株式会社の成立の時に、出資の履行をした設立時発行株式の株主となります(50条1項)。設立時募集株式の引受人も、株式会社の成立の時に、払込みを行った設立時発行株式の株主となります(102条2項)。会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立するので(49条)、株主になる時点も設立の登記の時です。「株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立するものとされています」とする解答(R5 問27 オ)は正しく、「設立時募集株式の引受人は、その払込みをした時に株主となる」という肢(R4 問27 イ)は誤りです。会社の成立の日を定款や創立総会の決議で決めることはできません。
出資を履行しない発起人は期日を定めた通知を受けてから失権し、設立時募集株式の引受人は通知なしで当然に失権します
発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、出資に係る金銭の全額を払い込み、又は金銭以外の財産の全部を給付しなければなりません(34条1項)。出資の履行をしていない発起人がいるときは、発起人は、その発起人に対して期日を定め、その期日の2週間前までに、期日までに履行しなければならない旨を通知し、それでも履行しないときに、その発起人は株主となる権利を失います(36条)。これに対して、設立時募集株式の引受人は、払込期日又は払込期間内に払込金額の全額を払い込まなければならず(63条1項)、払込みをしないときは、通知を待たずに当然に株主となる権利を失います(同条3項)。「設立時募集株式の引受人が会社法所定の期日又は期間内に設立時募集株式の払込金額の全額の払込みをしていない場合には、発起人は、当該引受人に対し、期日を定め、その期日までに当該払込みをしなければならない旨を通知しなければならない」という肢(R8 問27 オ)は、発起人に対する手続を引受人に入れ替えている点で誤りです。設立時募集株式の引受人は金銭の払込みしかできず、「会社法上、募集設立の場合には、発起人でない設立時募集株式の引受人は、割当てを受けた設立時募集株式について、現物出資をすることはできません」とする解答(R5 問27 ウ)は正しいです。

各発起人への割当株式数や成立後の資本金の額を定款外で定めるには、発起人全員の同意が要ります
発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数、それと引換えに払い込む金銭の額、成立後の株式会社の資本金及び資本準備金の額に関する事項は、定款に定めがなければ、発起人全員の同意を得て定めます(32条1項)。持株比率と会社の資本構成を決める根本的な事項なので、過半数では足りません。「発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数は、発起人の議決権の 3 分の 2 以上をもって定めることができる」という肢(R4 問27 ウ)は誤りで、「発起人が 2 人以上ある場合において、成立後の株式会社の資本金及び資本準備金の額に関する事項を定款で定めなかったときは、発起人は、その過半数の同意によって当該事項を定めることができる」という肢(R7 問27 ア)も誤りです。
株主となる権利の譲渡は払込みの前後を問わず成立後の会社に対抗できませんが、会社の側から譲受人を株主と扱うことはできます
出資の履行をすることにより設立時発行株式の株主となる権利(権利株)の譲渡は、成立後の株式会社に対抗することができません(35条)。出資の履行をした後に株主となる権利を譲渡した場合も同じです(50条2項・63条2項)。設立の事務を混乱させないための規定なので、払込みの前か後かで結論は変わりません。対抗できないのは譲受人の側からであって、会社の側が譲渡を認めて譲受人を株主として扱うことは妨げられません。
会社の成立後は、錯誤・詐欺・強迫を理由とする引受けの取消しができません
設立時発行株式の引受けには、心裡留保の無効(民法93条1項ただし書)と虚偽表示の無効(94条1項)の規定が適用されません(51条1項・102条5項)。そして、発起人は、株式会社の成立後は、錯誤・詐欺・強迫を理由として引受けの取消しをすることができません(51条2項)。設立時募集株式の引受人は、株式会社の成立後、又は創立総会若しくは種類創立総会において議決権を行使した後は、同じく取消しができません(102条6項)。会社が成立すれば多くの利害関係人が会社の資本を前提に法律関係に入るので、引受けを取り消して出資を引き揚げさせるわけにはいかないからです。創立総会で議決権を行使した後は、会社の成立前でも取り消せないので、「設立時募集株式の引受人は,創立総会においてその議決権を行使した後であっても,株式会社の成立前であれば,詐欺又は強迫を理由として設立時発行株式の引受けの取消しをすることができる」という肢(R3 問27 イ)は誤りで、「設立時募集株式の引受人は、創立総会においてその議決権を行使した後は、詐欺を理由として設立時発行株式の引受けの取消しをすることができない」という肢(R8 問27 イ)は正しいです。
- 発起人成立後は錯誤・詐欺・強迫による取消しができない(51条2項)
- 設立時募集株式の引受人成立後、又は創立総会・種類創立総会で議決権を行使した後は取消しができない(102条6項)
会社法 第50条第1項発起人は、株式会社の成立の時に、出資の履行をした設立時発行株式の株主となる。
会社法 第63条第3項設立時募集株式の引受人は、第一項の規定による払込みをしないときは、当該払込みをすることにより設立時募集株式の株主となる権利を失う。
会社法 第51条第2項発起人は、株式会社の成立後は、錯誤、詐欺又は強迫を理由として設立時発行株式の引受けの取消しをすることができない。
試験ではこう問われる
- 発起人も設立時募集株式の引受人も、株主になるのは払込みの時ではなく、設立の登記によって会社が成立した時である(49条・50条1項・102条2項。R4 問27 イ ×、R5 問27 オ ○)
- 出資を履行しない発起人は期日の通知を受けてから失権し、設立時募集株式の引受人は通知なしで株主となる権利を失う(36条・63条3項。R8 問27 オ ×)
- 設立時募集株式の引受人は金銭の払込みしかできず、現物出資はできない(63条1項。R5 問27 ウ ○)
- 発起人の割当株式数は発起人全員の同意で定め、議決権の3分の2では足りない(32条1項1号。R4 問27 ウ ×)
- 資本金及び資本準備金の額も、定款に定めがなければ発起人全員の同意で定め、過半数では足りない(32条1項3号。R7 問27 ア ×)
- 株主となる権利の譲渡は払込みの前後を問わず成立後の会社に対抗できないが、会社の側から譲受人を株主として扱うことはできる(35条・50条2項・63条2項)
- 設立時募集株式の引受人は、創立総会で議決権を行使した後は、会社の成立前でも詐欺を理由に引受けを取り消せない(102条6項。R8 問27 イ ○、R3 問27 イ ×)

