払込みの仮装(見せ金・仮装払込みの責任)はらいこみのかそう
払込みの仮装とは、発起人や株式の引受人が、実際には会社に資金を確保させる意思がないのに、払込みの外形だけを整えることです。仮装した者は会社に対して仮装した払込金額の全額を支払う義務を負い、支払がされるまでその株式について株主の権利を行使できません(会社法52条の2・102条の2・213条の2)。
会社を作るとき、発起人が知人から一時的に1000万円を借りて払込みをし、登記が済んだらすぐに引き出して返してしまったとします。帳簿の上では出資があったように見えますが、会社には1円も残っていません。これが見せ金で、払込みの仮装の典型です。会社の財産を信じて取引する人や他の株主を守るため、会社法は、仮装した本人に全額を会社へ支払わせ、支払うまでは株主として振る舞えないことにしました。手伝った取締役にも責任を負わせますが、本人と違って注意を尽くしていたことを証明すれば免れます。

払込みを仮装した発起人や引受人は全額の支払義務を負い、支払がされるまで株主の権利を行使できません
発起人が出資の履行を仮装した場合、その発起人は、会社に対し、仮装した出資に係る金銭の全額の支払(給付を仮装したときは財産の全部の給付)をする義務を負います(52条の2第1項)。設立時募集株式の引受人が払込みを仮装した場合も、仮装した払込金額の全額を支払う義務を負います(102条の2第1項)。そして、仮装した発起人・引受人は、この支払がされた後でなければ、仮装した設立時発行株式について設立時株主及び株主の権利を行使することができません(52条の2第4項・102条3項)。発起人の支払義務は総株主の同意がなければ免除できず(55条)、設立時募集株式の引受人の支払義務も総株主の同意がなければ免除できません(102条の2第2項)。裏返せば、総株主の同意があれば免除できます。「設立時募集株式の払込金額の払込みを仮装した場合における設立時募集株式の引受人の株式会社に対する支払義務は、総株主の同意によっても免除することができない」という肢(R8 問27 ウ)は誤りです。
関与した発起人・設立時取締役も支払義務を負いますが、注意を怠らなかったことを証明すれば免れ、仮装した本人は免れません
発起人が出資の履行を仮装することに関与した発起人や設立時取締役として法務省令で定める者も、会社に対して同じ支払をする義務を負います(52条の2第2項本文)。ただし、その者が職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明すれば免れます(同項ただし書)。「発起人がその引き受けた設立時発行株式につきその出資に係る金銭の払込みを仮装した場合には,当該発起人以外の発起人であってその出資の履行を仮装することに関与した者は,その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときであっても,株式会社に対し,払込みが仮装された当該金銭の全額の支払をする義務を負う」という肢(R2 問27 エ)は誤りです。この免責は、仮装した本人には認められません。募集設立で設立時募集株式の引受人が仮装した場合に関与した発起人・設立時取締役も同じです(103条2項)。関与した設立時取締役が会社に支払をしても、株主の権利を行使できるようになるのは仮装した発起人であって、支払った設立時取締役がその株式について株主の権利を行使できるわけではありません。会社の成立後の募集株式の発行でも同じ構造の規定があり(213条の2・213条の3)、関与した取締役は注意を怠らなかったことを証明すれば免責されますが、仮装した者自身は除かれます。
- 仮装した発起人・引受人本人全額の支払義務。無過失の証明による免責はない。総株主の同意で免除できる(52条の2第1項・55条、102条の2)
- 関与した発起人・設立時取締役(取締役)連帯して支払義務。注意を怠らなかったことを証明すれば免責(52条の2第2項・103条2項・213条の3)
- 仮装した本人の権利行使支払がされるまで設立時株主・株主の権利を行使できない(52条の2第4項・102条3項・209条2項)
- 株式の譲受人悪意・重過失がなければ権利を行使できる(52条の2第5項・102条4項・209条3項)

仮装に係る株式を譲り受けた者は、悪意又は重大な過失がなければ株主の権利を行使できます
仮装した者が権利を行使できない株式を譲り受けた者は、その株式について設立時株主及び株主の権利を行使することができます。ただし、譲受人に悪意又は重大な過失があるときは行使できません(52条の2第5項・102条4項)。仮装の事情を知らずに株式を取得した人まで権利を失わせると、株式の流通が害されるからです。会社の成立後の募集株式の発行でも同じで(209条3項)、「募集株式の引受人が払込金額の払込みを仮装した場合には,当該募集株式の譲受人が当該払込みが仮装されたことを知らず,かつ,そのことに重大な過失がないときであっても,当該引受人が払込みを仮装した払込金額の全額の支払をした後でなければ,当該譲受人は,当該募集株式についての株主の権利を行使することができない」という肢(R2 問28 オ)は誤りです。
判例は見せ金による払込みを無効とし、見せ金で資本金の額を登記させる行為を電磁的公正証書原本不実記録罪としています
判例は、当初から真実の株式の払込みとして会社資金を確保する意図がなく、一時的な借入金で払込みの外形を整え、会社の成立の手続後直ちに払込金を払い戻して借入先に返済する場合には、払込みとしての効力を有しないとしました(最判昭和38年12月6日)。仮装かどうかは、会社の成立後に借入金を返済するまでの期間の長短、払戻金が会社資金として運用された事実の有無、返済が会社の資金関係に及ぼす影響の有無などから判断します。刑事面では、発起人による出資の履行が見せ金によって仮装されていたのに、出資の履行が完了したとして商業登記簿の原本である電磁的記録に資本金の額を記録させた行為は、電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条1項)に当たります(最決平成17年12月13日)。払込取扱機関と通じて払込みを装う預合いには、会社法に罰則があります(965条)。
会社法 第52条の2第1項発起人は、次の各号に掲げる場合には、株式会社に対し、当該各号に定める行為をする義務を負う。
一 第三十四条第一項の規定による払込みを仮装した場合 払込みを仮装した出資に係る金銭の全額の支払
二 第三十四条第一項の規定による給付を仮装した場合 給付を仮装した出資に係る金銭以外の財産の全部の給付(株式会社が当該給付に代えて当該財産の価額に相当する金銭の支払を請求した場合にあっては、当該金銭の全額の支払)
会社法 第52条の2第2項前項各号に掲げる場合には、発起人がその出資の履行を仮装することに関与した発起人又は設立時取締役として法務省令で定める者は、株式会社に対し、当該各号に規定する支払をする義務を負う。ただし、その者(当該出資の履行を仮装したものを除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。
会社法 第52条の2第5項前項の設立時発行株式又はその株主となる権利を譲り受けた者は、当該設立時発行株式についての設立時株主及び株主の権利を行使することができる。ただし、その者に悪意又は重大な過失があるときは、この限りでない。
試験ではこう問われる
- 仮装した発起人・設立時募集株式の引受人は全額の支払義務を負い、支払がされるまで株主の権利を行使できない(52条の2第1項・4項、102条3項・102条の2第1項)
- 発起人の支払義務は、総株主の同意がなければ免除できない(55条。R2 問27 ウ ○)
- 設立時募集株式の引受人の支払義務も、総株主の同意があれば免除できる(102条の2第2項。R8 問27 ウ ×)
- 仮装に関与した発起人は、注意を怠らなかったことを証明すれば支払義務を免れるが、仮装した本人は免れない(52条の2第2項。R2 問27 エ ×)
- 関与した設立時取締役が支払っても、その取締役が仮装に係る株式について株主の権利を行使できるわけではない
- 仮装に係る募集株式の譲受人は、悪意・重過失がなければ、引受人の支払前でも株主の権利を行使できる(209条3項。R2 問28 オ ×)
- 見せ金による払込みは払込みとしての効力を有せず、見せ金で資本金の額を登記させる行為は電磁的公正証書原本不実記録罪に当たる(最判昭和38年12月6日・最決平成17年12月13日)

