株主提案権(議題の提案・議案の提出・議案要領の通知請求)かぶぬしていあんけん
株主提案権とは、株主が取締役に対して一定の事項を株主総会の目的とすることを請求する議題の提案権(会社法303条)、株主が総会の場で目的である事項につき議案を提出する議案の提出権(304条)、株主が提出しようとする議案の要領を招集通知に記載するよう請求する議案要領の通知請求権(305条)の三つを合わせた呼び名です。いずれも、その株主が議決権を行使できる事項に限って認められます。
株主総会で何を話し合うかは経営陣が決めるのが普通ですが、それでは株主が言いたいことを言えません。そこで会社法は、株主が「この問題を議題にしてほしい」と求める権利、総会の場で「この案で決めてほしい」と議案を出す権利、自分の議案を招集通知に載せて他の株主に知らせてもらう権利を認めています。総会の場で議案を出すだけなら誰でもできますが、議題を加えたり通知に載せたりするのは会社の手間になるので、取締役会設置会社では一定の持株と8週間前までの請求が要り、載せられる議案の数も10個までです。

総会の場での議案の提出は単独株主権ですが、議題の提案と議案要領の通知請求は取締役会設置会社では少数株主権です
株主は、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求できます(議題の提案。303条1項)。取締役会設置会社では、総株主の議決権の100分の1以上又は300個以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主に限られ、請求は総会の日の8週間前までにしなければなりません(303条2項。公開会社でない取締役会設置会社では保有期間は要りません。303条3項)。持株要件・個数・期間・8週間はいずれも定款で緩める方向にだけ変えられるので、公開会社が請求の期限を3か月前までと定款で定めることはできません。株主は、総会において、目的である事項につき議案を提出することができます(議案の提出。304条本文)。これは単独株主権で、持株要件も保有期間もなく、事前の通知も要りません。「株主総会の日の3日前までに,当該議案を提出する旨及びその理由を通知しなければならない」という記述と、ただし総会の目的である事項の範囲内に限られるので、取締役会設置会社で議題にない事項の議案は出せません。株主は、取締役に対し、総会の日の8週間前までに、提出しようとする議案の要領を株主に通知すること(招集通知に記載すること)を請求でき、取締役会設置会社では議題の提案と同じ持株要件がかかります(305条1項・2項)。
株主提案権の三つの権利
- 議題の提案(303条): 取締役会設置会社では100分の1以上又は300個以上の議決権を6か月前から(公開会社でない会社は保有期間不要)、8週間前まで。取締役会設置会社でない会社は単独株主権で期限なし
- 議案の提出(304条): 単独株主権。総会の場で出せる。議題の範囲内に限る
- 議案要領の通知請求(305条): 8週間前まで。取締役会設置会社では議題の提案と同じ持株要件。10個まで
議決権を行使できない事項については提案できず、10分の1以上の賛成を得られなかった議案は3年間再提出できません
三つの権利はいずれも、その株主が議決権を行使することができる事項に限って認められます(303条1項括弧書・304条本文括弧書)。議決権を行使できない事項を議題にしても、その株主は決議に加われないからです。取締役の選任に関する議案に限り議決権を行使できる議決権制限株式の株主は、剰余金の配当を議題とすることを請求できず、単元未満株主は単元未満株式について議決権を行使できないので(189条1項)、株主提案権も行使できません。議案が法令・定款に違反する場合と、実質的に同一の議案につき総株主(その議案について議決権を行使できない株主を除く)の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合は、議案を提出できず、議案要領の通知も請求できません(304条ただし書・305条6項)。支持を集める見込みのない議案が繰り返されて総会の運営が妨げられるのを防ぐ規律です。基準は10分の1以上の賛成を得られなかったことなので、2年前に5分の1の賛成を得ていた議案は提出できます。「議案Bが2年前の株主総会において…議決権の5分の1の賛成を得られたにとどまるときは、株主は、株主総会において、議案Aを提出することができない」という記述と、なお、この再提出の制限は株主提案権についての規律であって、議案を否決する決議の取消しを求める訴えが不適法であることの論拠にはなりません。

議案要領の通知請求は10個までで、役員の選任は候補者の数にかかわらず1議案と数え、株主の優先順位に従います
取締役会設置会社の株主が議案要領の通知を請求する場合に、提出しようとする議案の数が10を超えるときは、10を超える数の議案については通知請求の規定が適用されません(305条4項前段)。令和元年改正で設けられた上限で、数え方は、役員等の選任に関する議案は候補者の数にかかわらず1議案、役員等の解任に関する議案も1議案、会計監査人を再任しないことに関する議案も1議案、定款の変更に関する2以上の議案は異なる議決がされると内容が相互に矛盾する可能性がある場合に1議案とみなします(305条4項各号)。10を超える分のどの議案を外すかは取締役が定めますが、請求した株主が議案相互間の優先順位を定めているときは、その優先順位に従います(305条5項)。
適法な議案要領の通知請求を無視した決議は取消事由になりますが、関連しない議題の決議の取消事由にはなりません
株主が法定の期限までに適法に議案要領の通知を請求したのに、会社がその要領を招集通知に記載しないまま総会の決議がされたときは、招集の手続が法令に違反する(831条1項1号)ので、株主は決議取消しの訴えを提起できます。ただし、取消事由になるのはその瑕疵と関連する決議についてで、記載されなかった議案と関連しない目的事項についての決議の取消事由にはなりません。
会社法 第304条株主は、株主総会において、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。次条第一項において同じ。)につき議案を提出することができる。ただし、当該議案が法令若しくは定款に違反する場合又は実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の賛成を得られなかった日から三年を経過していない場合は、この限りでない。
会社法 第303条第2項前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、総株主の議決権の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権又は三百個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主に限り、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができる。この場合において、その請求は、株主総会の日の八週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までにしなければならない。
会社法 第305条第5項前項前段の十を超える数に相当することとなる数の議案は、取締役がこれを定める。ただし、第一項の規定による請求をした株主が当該請求と併せて当該株主が提出しようとする二以上の議案の全部又は一部につき議案相互間の優先順位を定めている場合には、取締役は、当該優先順位に従い、これを定めるものとする。
試験ではこう問われる
- 総会の場での議案の提出(304条)は単独株主権。持株要件・保有期間・事前の通知は要らない。議題の範囲内に限る
- 議題の提案(303条)と議案要領の通知請求(305条)は、取締役会設置会社では100分の1以上又は300個以上の議決権を6か月前から持つ株主が8週間前までに行う。公開会社でない会社は保有期間不要
- 要件は定款で緩められるだけ。請求の期限を3か月前に伸ばす定款の定めはできない
- 議決権を行使できない事項は提案できない。単元未満株主は提案権を行使できない
- 10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない実質的に同一の議案は提出できない(304条ただし書・305条6項)。5分の1の賛成を得ていれば出せる。5年ではない
- 議案要領の通知請求は10個まで。役員の選任は候補者の数にかかわらず1議案(305条4項)。優先順位を定めていればそれに従う(305条5項)
- 適法な通知請求を無視した決議は招集手続の法令違反で取消事由になるが、関連しない議題の決議の取消事由にはならない

