特定財産承継遺言とくていざいさんしょうけいいごん
遺産の分割の方法の指定として、特定の財産を特定の相続人に承継させる遺言です。登記原因が「遺贈」ではなく「相続」になる点と、遺言執行者が登記を申請できる点が肢で突かれます。
特定財産承継遺言は、「甲不動産を長男Bに相続させる」のように、遺産の分割の方法の指定として特定の財産を共同相続人の一人に承継させる遺言です。かつて「相続させる旨の遺言」と呼ばれていたものを、平成30年の相続法改正で民法1014条2項がこの名前で受け止めました。遺贈と違って相続の一場面なので、登記原因は「相続」になり、受け取る相続人が単独で申請できます。肢で突かれるのは、原因が相続か遺贈か、遺言執行者が申請できるか、先の遺言と後の遺言のどちらが効くか、の三つです。
民法 第1014条第2項遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

登記原因は「相続」で、承継した相続人が単独で申請します
遺言で財産を受け取るのに、なぜ「遺贈」ではないのかが最初の壁です。特定財産承継遺言は、相続人の間でどの財産を誰が取るかを遺言者が決めておく遺産分割の方法の指定であって、相続の効果として財産が移ります。そのため登記原因は「年月日相続」で、日付は遺言者の死亡日です。相続による移転の登記なので、承継した相続人が単独で申請でき、登記義務者も登記識別情報も要りません。相続人でない人に財産を渡す遺言は特定財産承継遺言にはならず、遺贈として扱われます。
遺言執行者も相続の登記を申請できます
遺言執行者は、特定財産承継遺言があるときは、対抗要件を備えるために必要な行為として相続の登記を申請できます。「令和4年1月1日に遺産の分割の方法の指定としてAの遺産に属する甲不動産を共同相続人の1人であるBに承継させる旨の遺言がされ、その後にAが死亡した場合には、当該遺言に係る遺言執行者は、単独で、甲不動産について、AからBへの相続を原因とする所有権の移転の登記を申請することができる」という肢は正しい肢です。この権限は令和元年7月1日以後にされた遺言に限られ、それより前の遺言では、登記実務は相続人本人が申請するものと扱っています。承継した相続人自身が申請できることは、遺言執行者がいても変わりません。
後の遺言で撤回されていれば、先の遺言による登記は抹消の対象です
遺言は何度でも書き直せて、前の遺言と抵触する部分は後の遺言で撤回されたものとみなされます。撤回された先の遺言を提供して相続の登記がされてしまったときは、後の遺言で指定された遺言執行者が、その登記の抹消を求める訴えを起こせます。「Dは、Bに対し、当該所有権の移転の登記の抹消登記手続を求める訴えを提起し、これを認容する判決が確定したときは、当該判決書の正本を提供して当該所有権の移転の登記の抹消を申請することができる」という肢は正しい肢です。判決による登記なので、執行者が単独で抹消を申請できます。
法定相続分を超える部分は登記がないと第三者に対抗できません
平成30年の相続法改正で、相続による権利の承継のうち法定相続分を超える部分は、登記をしなければ第三者に対抗できないと定められました。特定財産承継遺言で一人の相続人が不動産全部を取得しても、登記を放置している間に他の相続人の債権者がその相続人の法定相続分を差し押さえれば、超える部分は負けます。遺言執行者に登記申請の権限が与えられたのは、この対抗要件を早く備えさせるためです。相続登記の申請義務も、遺言で取得した相続人にかかります。
相続人への遺贈とは原因と申請の形が違います
同じ相続人に財産を渡す遺言でも、「遺贈する」と書かれていれば登記原因は「遺贈」です。相続人に対する遺贈は令和5年4月1日から受遺者が単独で申請できるようになったので、申請の形は近づきましたが、原因の名前は残ります。登録免許税は相続でも相続人への遺贈でも1000分の4で同じです。遺言の文言が「相続させる」か「遺贈する」かで場合分けする肢が定番で、文言に関わらず「遺贈」と書く肢は誤りです。
不動産登記法 第63条第2項相続又は法人の合併による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる。
試験ではこう問われる
- 「相続させる」遺言で登記する場合の登記原因は相続か遺贈か(相続)
- 遺言執行者が相続を原因とする所有権移転登記を単独で申請できるか(令和元年7月1日以後の遺言ならできる)
- 先の遺言が後の遺言で撤回されていたとき、先の遺言でされた登記はどう扱うか(判決で抹消できる)
- 法定相続分を超える取得を登記なしに第三者に対抗できるか(できない)
この用語が問われた肢
令和 4 年 1 月 1 日に遺産の分割の方法の指定としてAの遺産に属する甲不動産を共同相続人の 1 人であるBに承継させる旨の遺言がされ、その後にAが死亡した場合には、当該遺言に係る遺言執行者は、単独で、甲不動産について、AからBへの相続を原因とする所有権の移転の登記を申請することができる。
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