共同相続人の一人による保存行為きょうどうそうぞくにんのひとりによるほぞんこうい
共有物の保存行為は各共有者が単独でできるので、共同相続人の一人が相続人全員の名義の登記を申請できます。自分の持分だけの登記との違い、判決による抹消を一人で申請できるかが肢で突かれます。
共同相続人の一人による保存行為は、民法252条5項の各共有者が保存行為を単独でできるという定めを、相続による登記に当てはめた考え方です。相続財産は共同相続人の共有に属するので、相続人全員の名義にする相続登記や保存の登記は現状を維持する保存行為に当たり、一人の相続人が全員分を申請できます。他方、自分の持分だけを登記することはできず、全員の名義にするのが条件です。無効な登記の抹消を求める訴えも保存行為で、相続人の一人が判決を得て単独で申請できます。肢は、全員名義か自分の分だけかの線引きと、保存行為として申請できる登記の広がりを突いてきます。
民法 第252条第5項各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。

全員の名義にする登記なら一人で申請できます
被相続人が所有権の登記名義人なら、共同相続人の一人が法定相続分による相続人全員名義の相続登記を申請できます。被相続人が表題部所有者で所有権の登記が無い場合も同じで、「A及びBが表題部所有者である所有権の登記のない不動産について,Aの死亡によりCが,Bの死亡によりDが,それぞれ相続人となったときは,Cは,単独で,C及び亡Bを登記名義人とする所有権の保存の登記を申請することができる」という肢は正しい肢です。Cは自分の名義と、Bの持分については亡Bの名義で保存でき、Dの承諾は要りません。令和6年4月1日に施行された相続登記の申請義務も、一人の相続人が全員分を申請すれば他の相続人の分も履行されたことになります。
自分の持分だけの登記はできません
保存行為として認められるのは、共有の状態をそのまま登記に写す申請です。一人の相続人が自分の相続分についてだけ保存の登記や相続登記を申請すると、他の相続人の持分が登記されない中途半端な状態になり、保存行為ではなくなります。「Aが死亡し、Aの相続人がB及びCである場合には、Bは、単独で、自己の相続分についてのみ相続による所有権の保存の登記を申請することができる」という肢は誤りです。相続登記も同じで、自分の持分だけの相続による所有権の一部移転の登記はできません。
無効な登記の抹消を求める判決も一人で使えます
被相続人が生前にした売買が無効で移転の登記が残っているとき、抹消を求める訴えは共有物の保存行為に当たり、相続人の一人が単独で提起できます。判決を得れば、その相続人が単独で抹消の登記を申請できます。「Aの共同相続人の一人であるCは,単独で,Bに対する所有権の移転の登記の抹消の登記手続を命ずる確定判決を得て,当該所有権の移転の登記の抹消を申請することができる」という肢は正しい肢です。抹消の結果、登記は亡A名義に戻り、そこから相続登記をつなぎます。保存行為として申請できるのは現状を守る登記や訴えに限られ、相続人の一人が自分の判断で遺産分割の内容を登記することはできません。遺産分割で単独取得した相続人がその内容で登記するのは保存行為ではなく、分割協議書など遺産分割を証する情報が要ります。
相続人申告登記は一人が自分の分だけ申し出られます
令和6年4月1日に始まった相続人申告登記は、所有権の登記名義人について相続が開始したことと自分が相続人であることを申し出る制度で、登記官が職権で付記登記をします。保存行為としての相続登記と違い、相続人の一人が自分の分だけを申し出ることができ、他の相続人の分まで申し出る必要はありません。期限内に申し出れば相続登記の申請義務を履行したものとみなされますが、持分は登記されず権利の登記でもないので、その後に売買をするには改めて相続登記が要ります。遺産分割で取得したときは、分割の日から3年以内に登記する義務が別に生じます。全員名義が条件の保存行為と、一人分でよい申告登記は、対になる論点です。
不動産登記法 第63条第2項相続又は法人の合併による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる。
試験ではこう問われる
- 共同相続人の一人が全員名義の相続登記や保存の登記をできるか(できる。保存行為)
- 自分の相続分だけの保存の登記や相続登記ができるか(できない)
- 無効な移転の登記の抹消を命ずる判決を相続人の一人で使えるか(使える)
- 相続人申告登記は一人が自分の分だけ申し出られるか(できる。持分は登記されない)
この用語が問われた肢
Aが表題部所有者として記録されている甲建物について、Aが死亡し、Aの相続人がB及びCである場合には、Bは、単独で、自己の相続分についてのみ相続による所有権の保存の登記を申請することができる。
解説と関連先例は肢別演習で読めます。
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