司法書士の秘密保持の義務しほうしょしのひみつほじのぎむ
秘密保持の義務とは、司法書士又は司法書士であった者が、正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱った事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならないという義務です(24条)。試験では、司法書士でなくなった後も義務が続くこと、刑事訴訟で証人として証言することは正当な事由に当たることが問われています。
秘密保持の義務は、24条が定めています。義務を負うのは「司法書士又は司法書士であつた者」で、登録を取り消された後や業務を廃止した後も義務は続きます。違反すると6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処せられ(76条1項)、この罪は告訴がなければ公訴を提起できません(同条2項)。

司法書士法 第24条第1項司法書士又は司法書士であつた者は、正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱つた事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならない。
刑事訴訟で証人として証言することは、正当な事由に当たります
刑事訴訟法149条は、業務上委託を受けたため知り得た他人の秘密について証言を拒める者として、医師・弁護士・弁理士・公証人などを挙げていますが、司法書士は挙がっていません。司法書士は刑事訴訟で証言を拒む権利を持たないので、証人として証言することは24条の正当な事由に当たり、秘密を述べても義務違反にはなりません。この扱いは、現役の司法書士でも司法書士であった者でも同じです。
刑事訴訟法149条本文医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人、宗教の職に在る者又はこれらの職に在つた者は、業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するものについては、証言を拒むことができる。
民事訴訟では、法令上の守秘義務を負う者として証言を拒めると解されています
民事訴訟法197条1項2号は、医師・弁護士・弁理士・公証人などが職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合に、証言を拒めると定めています。司法書士は挙がっていませんが、この規定は、法令上個人の秘密を守る義務を課された者にも類推適用されると解されています。最高裁も、列挙されていない電気通信事業に従事する者について類推適用を認めています(最決令和3年3月18日)。司法書士は24条で秘密保持の義務を負うので、民事訴訟では証言を拒めると解されています。ただし、証人が黙秘の義務を免除された場合は拒めません(同条2項)。刑事訴訟法149条は列挙された職に限る規定と解されているので、刑事訴訟と民事訴訟とで扱いが分かれます。
民事訴訟法 第197条第1項次に掲げる場合には、証人は、証言を拒むことができる。
一 第百九十一条第一項の場合
二 医師、歯科医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、弁護人、公証人、宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合
三 技術又は職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合
秘密保持の義務を負うのは司法書士個人で、法人と協会には準用されていません
46条1項が司法書士法人に準用しているのは1条・2条・20条・21条・23条で、24条は含まれていません。70条が協会に準用しているのも21条と懲戒の規定です。法人の業務に従事する社員や使用人である司法書士は、個人として24条の義務を負い、違反すれば76条で処罰されます。法人の業務で知った秘密も「業務上取り扱つた事件について知ることのできた秘密」に当たります。また、施行規則41条の2第3項は、法務局又は地方法務局の長から委嘱された調査の事務に従事した司法書士が、その際に知り得た情報を、司法書士会の報告の用に供する目的以外の目的で自ら利用し、又は提供することを禁じています。
司法書士法 第46条第1項第一条、第二条、第二十条、第二十一条及び第二十三条の規定は、司法書士法人について準用する。
懲戒のための事件簿などの調査は、正当の理由がなければ拒めません
法務大臣は、懲戒処分に関し必要があると認めるときは、司法書士又は司法書士法人が保存する事件簿その他の関係資料や執務状況を調査し、又は職員にさせることができます(施行規則42条1項)。司法書士は、正当の理由がないのにこの調査を拒んではなりません(同条4項)。司法書士会も、60条の報告や61条の注意勧告に必要な範囲で、会員に事件簿などの提供を求めることができます(施行規則42条の2)。事件簿には依頼を受けた事件の情報が記載されますが、この場面では、施行規則そのものが、正当の理由なく調査を拒むことを禁じています。
違反には刑罰と懲戒の二つがあり、刑罰は告訴がなければ科されません
76条1項は、24条に違反した者を6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処すると定め、同条2項は、この罪は告訴がなければ公訴を提起できないとしています。刑法134条の秘密漏示罪は医師・薬剤師・弁護士・公証人などを主体として挙げ、司法書士を挙げていないので、司法書士の秘密の漏示を処罰するのは司法書士法76条です。法定刑は刑法134条(6月以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金)より罰金の上限が高く、告訴を要する点は刑法135条と同じです。他方、24条違反は「この法律に違反したとき」に当たるので、告訴の有無とは関係なく、47条の懲戒の対象になります。刑罰は裁判所が、懲戒は法務大臣が科すもので、手続が別です。

刑法 第134条第1項医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。
試験ではこう問われる
- 司法書士は、刑事訴訟の証人として証言する場合には、業務上知った秘密でも証言できる(24条。H29 午後 問8 イ ○・出題当時)
- 証人として証言できるのは司法書士であった者も現役の司法書士も同じで、現役の司法書士だけ漏らせないとするのは誤り(24条。H25 午後 問8 エ ×・出題当時)
- 秘密保持の義務は司法書士であった者にも及ぶ(24条)
- 民事訴訟では、民事訴訟法197条1項2号の類推適用により証言を拒めると解されている。刑事訴訟法149条は限定列挙と解されている
- 24条は司法書士法人には準用されておらず、法人の社員・使用人である司法書士が個人として義務を負う(46条1項)
- 24条違反は、告訴の有無にかかわらず47条の懲戒の対象になる(24条・47条)
- 違反は6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金で、告訴がなければ公訴を提起できない(76条)

