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法人格否認と判決効ほうじんかくひにんとはんけつこう

民事訴訟法 第9章 既判力と判決効

法人格否認と判決効とは、旧会社が債務を免れるために新会社を設立した法人格の濫用の場合に、旧会社が受けた確定判決の既判力・執行力を新会社に及ぼせるかという問題です。判例は、実体法上は新会社にも責任を追及できるとしつつ、手続の明確・安定を重んじる訴訟手続と強制執行手続では、判決効の新会社への拡張は許されないとしています(最判昭和53年9月14日)。

裁判で賠償を命じられた会社が、支払を逃れるために別会社を作り、財産と従業員を丸ごと移してしまうことがあります。実態は同じ会社なのに、別会社だからと判決が使えないのは不当に思えます。法人格否認の法理は、こうした場合に会社が別人格であることを主張させないための判例法理です。ただ、実体法上の責任を認めることと、判決書に名前のない会社に対していきなり強制執行することは別の問題で、判例は後者を認めていません。

養豚場の場面。門の看板が「A会社」から「Y会社」に掛け替えられている途中で、トラックに設備と豚が積まれ、作業員も同じ顔ぶれ。門の前に判決書(札「A会社に対する確定判決」)を持った男性(札「債権者X」)と、執行官の帽子をかぶった先生(札「先生

債務を免れるための新会社の設立が法人格の濫用に当たれば、実体法上は新会社にも旧会社の債務の履行を求めることができます

判例は、交通事故の損害賠償を命じる判決を受けた会社の役員らが、支払を免れる意図で第一審判決の直後に新会社を設立し、営業設備と従業員を移して同じ事業を続けた事案で、新会社の設立が旧会社の債務を免れる意図のもとにされ法人格の濫用と認められるときは、法人格否認の法理により、債権者は確定判決の内容である損害賠償請求を新会社に対しても主張できるとしました(最判昭和53年9月14日)。ただし、新会社が設立手続と設立登記を経ている以上、両社が全く同一の法人格だとすることは、会社の設立の無効を特別の訴え(会社法828条1項1号)によらせている法の建前から認められないとしています。前半の「当事者の確定」で扱う判例(最判昭和48年10月26日)も、新会社が別人格であることを信義則上主張できないとして、新会社の責任を認めたものです。

しかし訴訟手続と強制執行手続では手続の明確・安定が重んじられるので、旧会社の受けた判決の既判力と執行力は新会社に拡張されません

同じ判例は、法人格否認の法理は実体法上の関係を規律するにとどまり、権利関係の公権的な確定とその迅速確実な実現を図るために手続の明確・安定を重んじる訴訟手続と強制執行手続では、その手続の性格上、旧会社に対する判決の既判力と執行力の範囲を新会社にまで拡張することは許されないとしました(最判昭和53年9月14日)。判決効の及ぶ者は115条1項と民事執行法23条が形式的・画一的に定めており、法人格の濫用があるかという実質的な判断を執行の段階に持ち込むと、執行の手続が不安定になるからです。債務を免れるために新会社が設立され法人格の濫用に当たる場合でも、旧会社の受けた判決の既判力と執行力は新会社に及びません。

裁判所書記官室の受付の場面。カウンターに男性(札「債権者X」)が新しい訴状(表題「Y会社に対する損害賠償請求(法人格否認)」)を提出している。カウンターの横には「承継執行文の付与申請」と書かれた書類が×印付きで置かれている。カウンターの奥の

債権者が新会社から回収するには、法人格否認の法理を主張して新会社に対する新たな訴えを起こし、債務名義を得る必要があります

判決効が新会社に及ばない以上、旧会社に対する判決に新会社を債務者とする承継執行文を付けることはできず、執行文付与の訴え(民事執行法33条1項)でも認められません。債権者は、新会社を被告として、法人格否認の法理により新会社も旧会社の債務を負うと主張する新たな給付の訴えを起こし、新会社に対する債務名義を得なければなりません。前訴で新会社は当事者でなく、攻撃防御の機会がなかったので、新会社に自分の言い分を述べる機会を与えるという点でも、この結論は手続保障の考え方に合います。

  • 実体法上の責任法人格の濫用に当たれば、新会社にも旧会社の債務の履行を求められます(最判昭和53年9月14日)
  • 既判力・執行力の拡張訴訟手続・強制執行手続では許されません(最判昭和53年9月14日)
  • 回収の方法新会社を被告とする新たな訴えで債務名義を得ます
  • 両社の同一性設立手続と登記を経た新会社を全く同一の法人格とは認めません
民事訴訟法 第115条第1項

確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。
一 当事者
二 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人
三 前二号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人
四 前三号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者

試験ではこう問われる

  1. 債務を免れるための新会社の設立が法人格の濫用に当たれば、実体法上は新会社にも旧会社の債務を請求できる
  2. 法人格否認の法理によっても、旧会社が受けた判決の既判力・執行力は新会社に及ばない(最判昭和53年9月14日)
  3. 新会社からの回収には、新会社を被告とする新たな訴えで債務名義を得る必要がある
  4. これに対し、事実審の口頭弁論終結後に土地を譲り受けた者は、承継執行文の付与を受けて確定判決で強制執行を申し立てられる(民事執行法23条1項3号。R4 午後 問7 エ ○)

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