保全命令の担保ほぜんめいれいのたんぽ
保全命令の担保とは、違法・不当な保全命令によって債務者が受ける損害の賠償を確保するために債権者に立てさせる担保で、保全命令は、担保を立てさせて、担保を立てることを保全執行の実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができます(14条1項)。
保全命令の担保は、疎明だけで発せられる保全命令が後で誤りとわかったときに、債務者が受けた損害を償えるようにするためのものです。実務では、裁判所が担保の額を決め、債権者が供託書などを提出してから保全命令が発せられます。

民事保全法 第14条第1項保全命令は、担保を立てさせて、若しくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができる。
担保を立てさせるかどうかは裁判所が決め、担保を立てさせないで保全命令を発することもできます
14条1項は、保全命令の発し方として、担保を立てさせて発する方法、相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として発する方法、担保を立てさせないで発する方法の三つを定めています。担保を立てさせることは義務ではないので、「保全命令を発する場合には,あらかじめ担保を立てさせなければならない」という肢(R2 午後 問6 ウ)は誤りです。
担保は、供託所への供託か、裁判所の許可を得た支払保証委託契約などの方法で立てます
担保を立てるには、担保を立てるべきことを命じた裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に、金銭又は裁判所が相当と認める有価証券を供託する方法その他最高裁判所規則で定める方法によります(4条1項本文)。最高裁判所規則で定める方法として、裁判所の許可を得て銀行等と支払保証委託契約を締結する方法があります(民事保全規則2条)。遅滞なくこの供託所に供託することが困難な事由があるときは、裁判所の許可を得て、債権者の住所地などを管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に供託できます(14条2項)。当事者が特別の契約をしたときは、その契約によります(4条1項ただし書)。

民事保全法 第4条第1項この法律の規定により担保を立てるには、担保を立てるべきことを命じた裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に金銭又は担保を立てるべきことを命じた裁判所が相当と認める有価証券(社債、株式等の振替に関する法律(平成十三年法律第七十五号)第二百七十八条第一項に規定する振替債を含む。)を供託する方法その他最高裁判所規則で定める方法によらなければならない。ただし、当事者が特別の契約をしたときは、その契約による。
債務者は担保について優先して弁済を受けることができ、担保の事由が消滅すれば担保は取り消されます
4条2項は、民事訴訟法77条・79条・80条を準用しています。債務者は、供託された金銭又は有価証券について、他の債権者に先立ち弁済を受ける権利を有します(民事訴訟法77条)。債権者が本案で勝訴するなどして担保の事由が消滅したことを証明したとき、又は債務者の同意を得たことを証明したときは、裁判所は担保の取消しの決定をします(民事訴訟法79条1項・2項)。保全命令を発するために担保を立てさせる決定は、債務者に告知することを要しません(民事保全規則16条2項)。
保全執行ができなかった場合などには、裁判所の許可を得て担保を取り戻せます
保全執行としてする登記や第三債務者への保全命令の送達ができなかった場合など、保全命令によって債務者に損害が生じないことが明らかな場合に、執行期間(43条2項の2週間)が経過し又は保全命令の申立てが取り下げられたときは、債権者は、保全命令を発した裁判所の許可を得て担保を取り戻すことができます(民事保全規則17条1項)。担保の取消しの決定(民事訴訟法79条)を経るより簡単な手続で、担保権利者である債務者の同意も要りません。
保全異議などで担保の額を増やすことを執行の続行の条件にでき、追加の担保を立てなければ執行処分が取り消されます
裁判所は、保全異議の申立てについての決定において、担保の額を増加した上、一定の期間内に債権者がその増加額につき担保を立てることを保全執行の実施又は続行の条件とする旨を定めることができます(32条2項)。この定めがあったときは、債権者は、期間内に担保を立てたことを証する書面をその期間の末日から1週間以内に保全執行裁判所又は執行官に提出しなければならず(44条1項)、提出しない場合に債務者が裁判の正本を提出したときは、保全執行裁判所又は執行官は既にした執行処分を取り消さなければなりません(44条2項)。
試験ではこう問われる
- 保全命令は、担保を立てさせないで発することもできる(14条1項。R2 午後 問6 ウ ×)
- 担保を立てることを保全執行の実施の条件として保全命令を発することもできる(14条1項)
- 担保は、命じた裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に供託して立てる(4条1項)
- 遅滞なく供託することが困難な事由があれば、裁判所の許可を得て債権者の住所地などの供託所に供託できる(14条2項)
- 担保の事由が消滅したことを証明すれば、担保の取消しの決定がされる(4条2項、民事訴訟法79条1項)
この用語が問われた肢
保全命令を発する場合には,あらかじめ担保を立てさせなければならない。
解説と関連先例は肢別演習で読めます。

