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検閲の禁止と事前抑制の理論けんえつのきんしとじぜんよくせいのりろん

憲法 第5章 表現の自由 過去問で33肢

検閲の禁止と事前抑制の理論とは、憲法21条2項前段が行政権による検閲を絶対的に禁止し、それに当たらない表現の事前抑制も憲法21条1項のもとで原則として許されないとする考え方です。検閲には公共の福祉による例外もなく、事前抑制は厳格かつ明確な要件のもとでだけ例外的に認められます。

海外から取り寄せた写真集が税関で止められ、輸入できないと通知されたとします。国の役所が本の中身を見て入れるかどうかを決めているのですから、これは検閲ではないかという疑問がわきます。憲法21条2項前段は検閲を絶対的に禁止しているので、当たれば例外なく違憲です。そこで判例は検閲の意味を狭く限定し、そこに当たらない事前の抑制については、憲法21条1項の問題として原則禁止と厳格な例外という枠組みで処理します。ある規制が検閲に当たるかの判定と、当たらないとしても事前抑制として許されるかの判定は、二段構えで考えます。

空港の税関の検査台の場面。先生が税関職員役(札「税関(行政権)」)で検査台に立ち、開いた写真集を手にしている。向かいに旅行者の男性(札「輸入者」)が立ち、吹き出し「役所が本の中身を見て止めるなら検閲ではないのか」。先生の吹き出し「この本は国

検閲の主体は行政権に限られ、裁判所による差止めは検閲に含まれません

最大判昭和59年12月12日(税関検査事件)は、憲法21条2項にいう検閲を、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止することをその特質として備えるものと定義しました。主体は行政権に限定されています。主体を公権力と広げると、裁判所による事前差止めまで検閲に含まれてしまい、判例の定義より広くなります。最大判昭和61年6月11日(北方ジャーナル事件)は、仮処分による事前差止めについて、表現物の内容の網羅的一般的な審査に基づく事前規制が行政機関によりそれ自体を目的として行われる場合とは異なり、個別的な私人間の紛争について司法裁判所が当事者の申請に基づき差止請求権等の私法上の被保全権利の存否と保全の必要性の有無を審理判断して発するものだから、検閲には当たらないとしました。裁判所の事前差止めが検閲に当たらないのは、主体が行政権でなく、個別の紛争についての審理判断だからです。「一定の記事を掲載した雑誌その他の出版物の印刷,製本,販売,頒布等の仮処分による事前差止めは,憲法第21条第2項前段が絶対的に禁止する検閲に該当するものであり,許されない」という肢(R2 問1 オ)は誤りです。

  • 行政権が主体裁判所による差止めは含まれない
  • 思想内容等の表現物が対象対象が表現物の思想内容に向けられていること
  • 発表の禁止が目的発表そのものを禁ずる目的であること
  • 網羅的一般的な事前審査一定の表現物につきあらかじめ一般的に審査し不適当なものの発表を禁ずること

税関検査と教科書検定は、発表の機会が全面的に奪われないため検閲に当たりません

税関検査については、検査対象の表現物が国外で既に発表済みであり、輸入が禁止されるだけで発表の機会が全面的に奪われるわけではないこと、税関は関税の確定と徴収を本来の職務とする機関であって思想内容等を対象として規制することを独自の使命とするものではないこと、税関長の通知に対して司法審査の機会が与えられ行政権の判断が最終的なものとされないことから、検閲に当たらないとされました。教科書検定についても、最判平成5年3月16日(第一次家永教科書訴訟)は、不合格となった図書を一般図書として発行することを何ら妨げるものではなく、発表禁止目的や発表前の審査という特質がないため、検閲に当たらないとしました。判例は審査の内容によって検閲かどうかを決めるのではなく、発表を禁止する目的や発表前の審査といった特質の有無で決めています。

文部科学省の会議室の場面。先生が文部科学大臣役(札「文部科学大臣(行政権)」)で机に座り、「検定不合格」の印が押された原稿の束を持っている。向かいに執筆者の男性(札「執筆者」)が立ち、吹き出し「不合格にされたら、この本は世に出せないのか」。

既に国内で流通している表現物でも、輸入規制の対象にできます

税関検査が検閲に当たらないとされた理由の一つは発表済みであることですが、それは同じ表現物の輸入を規制できないという意味ではありません。最判平成20年2月19日(メイプルソープ写真集事件)は、既に国内で流通しているという事情があっても、そのことで当該表現物の輸入が適法になるわけではないとしました。わいせつ表現物の頒布や販売は刑法175条で禁止されているので、性的秩序を守り最小限度の性道徳を維持するという公共の福祉の要請に基づき、国外からの流入を未然に防ぐ規制には合理性があるからです。輸入禁制品の規定については、風俗を害すべき書籍等という文言がわいせつな書籍等を意味することが明らかであるとして、明確性の要請にも反しないとされました。もっとも、この結論は合憲限定解釈によって導かれたものであり、文言をそのまま読めば公安を害する書籍まで広く含み得る点で、過度の広汎性の問題と隣り合わせです。刑務所長が受刑者の発信しようとする信書を事前に検査する行為も、逃走防止等を目的とするもので思想内容の審査を独自の使命とするものではないため、検閲には当たりません。検閲該当性が否定されたあとには、憲法21条1項のもとで制約の必要性と合理性を審査する道が残ります。

事前差止めは原則として許されず、三つの要件がそろう場合に限られます

北方ジャーナル事件は、名誉が人格権の重要な内容をなすことから、人格権としての名誉権に基づいて侵害行為の差止めを求めることができるとしました。もっとも、表現行為に対する事前抑制は、表現物が思想の自由市場に出る前にこれを抑止して公の批判の機会を減少させるものであり、事後制裁に比べて広汎にわたりやすく、濫用のおそれがあるうえ、実際上の抑止的効果も大きいので、厳格かつ明確な要件のもとでのみ許容されます。とりわけ公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等の表現行為は、一般に公共の利害に関する事項であり、私人の名誉権に優先する社会的価値を含むので、事前差止めは原則として許されません。例外は、表現内容が真実でないか、専ら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるときに限られます。「公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等の表現行為について、その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがある場合には、当該表現行為の事前差止めを認めても憲法第21条第1項に違反するものではない」という肢(R6 問1 ア)は正しいです。差止めが検閲に当たるとしたうえで例外を認めるという考え方は、検閲が絶対的禁止であることと矛盾します。名誉を害する表現が公共の利害に関する事項についてのものでない場合には、そもそも原則禁止の枠組みが働かず、差止めはより緩やかに認められます。

裁判所の法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座り、目の前に雑誌(表紙に「北方ジャーナル」)が置かれている。左に候補者風の男性(札「公職選挙の候補者」)が吹き出し「名誉を傷つける記事だ。発売前に差し止めてほしい」。先生の吹き出し

差止めの仮処分では、原則として口頭弁論か債務者の審尋が必要です

同判決は、実体要件だけでなく手続面でも歯止めを置きました。仮処分は本来は口頭弁論を経ないで決定できる簡易迅速な手続ですが、公共の利害に関する事項についての表現行為の事前差止めは表現の自由に対する重大な制約なので、事前差止めを命ずる仮処分を発するには、口頭弁論又は債務者の審尋を行い、表現内容の真実性等について主張立証の機会を与えることが原則として必要だとしています。債権者の提出した資料によって真実性がないことなどが明らかであり、かつ重大で著しく回復困難な損害を避けるため緊急の必要があるときは、例外的に審尋を経ずに差止めを命じ得るとされています。なお、この実体三要件は名誉以外の人格的利益にも用いられます。プライバシー侵害を理由とする週刊誌の出版差止めの事案でも、東京地裁の保全異議決定と東京高裁の抗告審決定は、いずれも北方ジャーナル事件判決を参照しました。

裁判所の審尋室の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で机の中央に座り、右に出版社の男性(札「債務者(出版社)」)、左に申立人の男性(札「債権者」)が座る。債権者の吹き出し「仮処分なのだから、相手の話を聞かずにすぐ差し止めてほしい」。先生の吹
最大判昭和59年12月12日(税関検査事件)

憲法21条2項にいう「検閲」とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指す。

試験ではこう問われる

  1. 検閲とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、発表の禁止を目的として、網羅的一般的に発表前に内容を審査し、不適当なものの発表を禁止することをいう(最大判昭和59年12月12日)
  2. 裁判所の仮処分による出版物の事前差止めは検閲に当たらない(最大判昭和61年6月11日。R2 問1 オ ×)
  3. 公務員等に対する評価・批判の表現行為の事前差止めは、内容が真実でなく又は専ら公益目的でないことが明白で、重大かつ著しく回復困難な損害のおそれがあるときに限り許される(最大判昭和61年6月11日。R6 問1 ア ○)
  4. 税関検査と教科書検定は、発表の機会を全面的に奪うものではなく検閲に当たらない(最大判昭和59年12月12日、最判平成5年3月16日)
  5. 事前差止めを命ずる仮処分には、原則として口頭弁論又は債務者の審尋が必要である(最大判昭和61年6月11日)

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