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自由委任の原則じゆういにんのげんそく

憲法 第9章 参政権と選挙 過去問で5肢

自由委任の原則とは、両議院の議員は全国民を代表する者であって(憲法43条1項)、選挙区や選出母体、所属政党の指示に法的に拘束されず、自らの判断で職務を行うという原則です。選挙人の指示に拘束され、違反すれば議席を失う命令委任は、この原則によって否定されます。

選挙区で選ばれた議員が、地元の支持団体から「約束と違う投票をしたら辞めさせる」と言われても、法律上その議員を辞めさせることはできません。議員は団体の使いではなく、国民全体のために自分の頭で判断する代表だからです。憲法43条1項が議員を「全国民を代表する」者と定めているのはこの意味です。ただ、いまの国会は政党を単位に動いているので、党を離れた議員や除名された議員の扱いが、この原則との折り合いとして問題になります。

国会議事堂の本会議場の場面。先生が国会議員役(札「国会議員」)で議席に立ち、手を挙げて表決している。傍聴席の側に地元の支持団体の男性(札「選出母体」)が指示書を掲げ、吹き出し「約束と違う投票をしたら辞めさせるぞ」。先生の吹き出し「私は選挙区

議員は全国民の代表であり、選出母体の指示に法的に拘束されません

憲法43条1項は、両議院は全国民を代表する選挙された議員で組織すると定めています。ここでいう全国民の代表とは、議員が選挙区や支持団体、所属政党といった特定の部分の利益の代弁者ではなく、国民全体の利益を考えて自ら判断する地位にあることを意味し、選出母体の指示に法的に拘束されない自由委任の原則を含みます。選挙人の意思に拘束され、違反すれば議席を失う命令委任は否定されます。比例代表選出議員であっても、この点は変わりません。比例代表選出議員が全国民の代表であることと、他の名簿届出政党に所属する者になったときに退職者となるという国会法109条の2の規定とは、両立すると整理されます。全国民の代表であることを重く見る立場からは、いったん選挙で議席を得た者はその後に党籍を失っても身分に変動はなく、除名で議席を失わせる制度は議員を政党の代表者にしてしまうものとして違憲と評価されます。

  • 自由委任議員は選出母体の指示に法的に拘束されず、任期中に解職されることもない
  • 命令委任議員は選挙人の意思に拘束され、違反すれば議席を失う。憲法43条1項が否定する
  • 社会学的代表議員の構成が国民の意思の分布を反映すべきだという要請。投票価値の平等の根拠にもなる
  • 政党国家的現象政党が政治的意思形成の中心となる現実。党議拘束はこの現れ

他の名簿届出政党に移ったときは退職者となります

比例代表選出議員であっても、その選挙で名簿を届け出ていた他の政党に所属することになった場合は議員の資格を失います。公職選挙法99条の2は、比例代表選出議員が当選人となった日以後に、その選挙で名簿を届け出ていた他の政党等に所属する者となったときはその職を失うと定め、国会法109条の2がこれに対応して退職者となると定めています。比例代表制では投票が候補者個人よりも政党の名簿に対して行われるので、自発的な移動により有権者の投票の意味が損なわれることを防ぐ趣旨です。その選挙時に名簿を届け出ていなかった政党への移動や、除名、単なる離党では退職になりません。この制度を支える考え方は分かれます。比例代表制によって選出された議員が政党の所属でなくなった場合には議席を喪失するという見解は、実際には有権者は選挙において政党を重視しており、全国民の代表であることも公的役割を担う政党への所属を前提としているという認識から導かれます。これに対して、自発的に政党の所属でなくなった場合に限り議席を失うという見解は、議席喪失説と議席保有説の間に立つ修正説です。比例代表選出の議員であっても政党から自由に意思を形成できる全国民の代表であるという理解は、党籍を失っても議席を失わないとする議席保有説を支えるもので、修正説の根拠にはなりません。

国会の議員会館の廊下の場面。左に「A党(名簿届出)」、右に「B党(同じ選挙で名簿届出)」の二つの扉。比例代表で当選した議員の男性(札「比例代表選出議員」)がA党の扉から出てB党の扉へ歩き、吹き出し「当選してからB党に移りたい」。先生が議院の

除名の場合に議席を失わせる制度は、自由委任と衝突します

除名は政党の側の一方的な意思で行われるため、これによって議席を失わせると、政党が議員の地位を左右できることになります。もっとも、どの立場に立つかで結論が変わります。政党中心の選挙であることを重視する立場からは、当選時の党籍を失った場合に議員資格を失わせる制度を設けても憲法違反にはなりません。有権者が選んでいるのは政党であり、当選時の党籍をもつことが全国民を代表する選挙された議員であるための前提になるので、党籍を失えば議席も失うという制度はむしろ整合的だからです。逆に、政党中心の選挙であることと全国民の代表という文言を共に重視する立場からは、除名しても議員資格を失わせない制度が憲法違反になることはありません。この立場は、議員が自ら離党したり他党に移ったりして投票の前提を覆した場合には失職の余地を認める一方、政党の一方的な除名で議席を失わせることは政党と議員の間に命令服従の関係を持ち込むとして否定するので、除名しても議席を失わせない現行の制度がちょうど折り合いのついた形になります。

政党の本部の会議室の場面。党の幹部の男性(札「政党」)が「除名」と書いた紙を突き出し、向かいに比例代表で当選した議員の男性(札「議員」)が立っている。先生が裁判官役(札「裁判所」)で二人の横に立ち、三つの札を並べて掲げる。札「政党中心を重視

小選挙区選出議員には、政党を理由とする議席喪失の制度がありません

小選挙区選出の衆議院議員について、政党の方針に反したことを理由に除名された場合に議員の身分を当然に失うという制度を設けることは、違憲と解されます。小選挙区は選挙人が候補者個人に投票する仕組みであり、議員の地位は選挙人の投票そのものに由来します。政党の方針に反したことを理由とする除名という政党内部の決定だけで当然に議席を失わせる制度は、選挙人の意思で与えられた全国民の代表としての地位を政党の一存で奪うことになり、憲法43条1項の趣旨と自由委任の原則に正面から衝突します。比例代表と小選挙区で投票の意味が違うことが、制度の違いを支えています。政党の内部の処分そのものは政党で扱います。

党議拘束と除名は、法的な拘束ではなく政党内部の問題として扱われます

党議拘束に反した表決をしても、議員としての地位に法律上の効果は及びません。ただし、政党が政治責任を問うことは別です。「両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について院外で責任を問われないため、議員が行ったこれらの行為を理由として、その所属政党が当該議員に対して除名その他の処分をすることは許されない」という肢(R7 問2 ア)は誤りです。憲法51条で免除される責任は、一般国民であれば負う民事上や刑事上の法的責任であって、政党による除名は政治的・団体内部の措置にすぎないので、免責特権は政党内部の処分まで封じるものではありません。最判昭和63年12月20日(共産党袴田事件)は、政党の内部処分について、一般市民法秩序と直接の関係がない限り司法審査は及ばないとしました。

繰上補充の場面でも、除名の当否は行政が審査しません

名簿登載者が除名されたために繰上補充の順位が動く場面があります。最判平成7年5月25日(日本新党繰上補充事件)は、政党は結社の自由に基づく団体であり、議会制民主主義を支える存在として高度の自主性と自律性を与えて自主的に組織運営をする自由を保障されなければならないとし、除名届が提出されている以上、選挙会は除名の有効性を審査せず形式的事項の審査にとどめるべきだとして、除名が無効であっても当選人の決定は違法にならないとしました。政党の自律を尊重する一方で、議員となるはずだった者の救済は難しくなるという批判があります。あわせて、議院が議員の地位を失わせる憲法上の仕組みが二つしかないことも押さえます。議院が議員の資格に関する争訟を裁判する場合(55条)と、院内の秩序を乱した議員を出席議員の3分の2以上の多数で除名する場合(58条2項ただし書)です。いずれも議院自身が行うもので、政党が行うものではありません。自由委任の原則は、この二つの例外を除いて議員の地位が任期中保障されることを支えています。議院の側の手続は議院の自律権で扱います。

選挙管理委員会の会議室の場面。机の上に「除名届」と「繰上補充」と書いた二枚の紙。政党の男性(札「名簿届出政党」)が除名届を差し出している。先生が選挙会の委員長役(札「選挙会」)で机に着き、除名届の「届出人の署名」「日付」の欄だけを指差して確
日本国憲法 第43条第1項

両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。

試験ではこう問われる

  1. 両議院の議員は全国民の代表(43条1項)で、選出母体の指示に法的に拘束されない。比例代表選出議員でも同じである
  2. 比例代表選出議員がその選挙で名簿を届け出ていた他の政党に所属したときは退職者となり(国会法109条の2)、除名や単なる離党では退職しない
  3. 政党の除名で議席を失わせる制度は、議員の地位を政党の意思にかからせることになり、自由委任の原則と衝突する
  4. 議員の免責特権(51条)は院外の法的責任を免除するもので、所属政党が議院での演説・討論・表決を理由に議員を処分することを妨げない(R7 問2 ア ×)
  5. 除名届が出ていれば、繰上補充での選挙会の審査は形式的事項にとどまる(最判平成7年5月25日・日本新党繰上補充事件)
  6. 議院が議員の議席を失わせるのは、資格争訟の裁判(55条)と出席議員の3分の2以上の多数による除名(58条2項ただし書)に限られる

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