議院内閣制の本質ぎいんないかくせいのほんしつ
議院内閣制の本質とは、内閣が議会の信任に依拠して存立し議会に対して責任を負うという議院内閣制の核心を何に求めるかという問題です。議会に対する責任に求める責任本質説と、政府が議会の解散権をもち両者が均衡することにまで求める均衡本質説が対立します。
学校の生徒会長を全校投票で選ぶ学校もあれば、生徒会の委員の中から委員たちが選び、信頼を失えば辞めさせられる学校もあります。日本の内閣は後者に近く、国会が内閣総理大臣を指名し、内閣は国会に責任を負い、衆議院が不信任を決議すれば総辞職か解散を迫られます。この仕組みの核心が「国会への責任」にあるのか、それとも「内閣が国会を解散できる対抗関係」にまであるのかで、内閣が自由に解散できるかの答えが変わってきます。

議院内閣制は、内閣が議会の信任に依拠して存立する制度です
議院内閣制は、行政府の長が国民から直接選ばれる大統領制と対比されます。日本国憲法がこれを採用していることは、複数の条文の組合せから読み取られます。日本国憲法は、国会による内閣総理大臣の指名、内閣の国会に対する連帯責任、衆議院の内閣不信任決議権や衆議院の解散などを定めており、議院内閣制を採用していると解されます。「内閣は,行政権の行使について,国会に対し連帯して責任を負います」という肢(R3 問3 ア)は正しく、「内閣総理大臣が国務大臣を任命しますが,国務大臣の過半数は,国会議員の中から選ばれなければなりません」という肢(R3 問3 エ)も正しいです。衆議院で不信任決議案が可決されたときも、内閣は10日以内に衆議院が解散されない限り総辞職をしなければならないのであって(69条)、「衆議院で内閣不信任決議案が可決された場合には,内閣は,直ちに総辞職をしなければなりません」という肢(R3 問3 イ)は誤りです。憲法に「議院内閣制」という言葉があるわけではなく、指名・連帯責任・不信任決議・解散という制度の束からそう解されています。最大判平成11年11月10日(衆議院小選挙区比例代表並立制の合憲性)と最大判平成16年1月14日(参議院非拘束名簿式比例代表制の合憲性)は、いずれも、投票の結果すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点で候補者個人を直接選ぶ方式と異なるところはないとしました。国会議員がこうして国民に直接選ばれ、その国会が内閣を支えるという回路が、国会と内閣を厳格に分離せず協働させる議院内閣制の土台になります。
- 責任本質説議院内閣制の本質は、内閣が議会に対して連帯して責任を負う点にある。政府が議会の解散権をもつことは本質的要素ではなく、あってもなくてもよい
- 均衡本質説議院内閣制の本質は、内閣の議会に対する責任に加えて、政府と議会が抑制と均衡の関係に立つ点にもある。政府が議会の解散権をもつことが本質的要素になる
責任本質説は、内閣の国会に対する連帯責任を本質とみます
責任本質説は、内閣が議会に対して責任を負い、信任を失えば地位を去るという点にこそ議院内閣制の核心があるとします。したがって、この説からは、政府が議会の解散権をもつかどうかは制度の本質と無関係です。解散権を必須の要素に数えているのは均衡本質説であって、責任本質説ではありません。議会と政府の分立、政府の議会に対する連帯責任という二つの要素はどちらの説も認めており、争いは解散権を本質に含めるかにあります。

均衡本質説は、政府が議会の解散権をもつことまでを本質に含めます
均衡本質説は、議会が内閣を倒せる一方で内閣が議会を解散できるという、相互に対抗手段をもつ関係を議院内閣制の本質とみます。内閣の衆議院解散権の根拠を議院内閣制自体に求める見解は、この均衡本質説に基づいています。この説をとると、69条の場合に限らず内閣が自由に解散できるという結論を導きやすくなります。逆に責任本質説からは、解散権の根拠を議院内閣制そのものに求めることはできず、7条3号など別の条文に根拠を探すことになります。
議院内閣制から解散権を導く見解には、概念が一義的でないという批判があります
解散権の根拠を議院内閣制の本質に求める見解には、有力な批判があります。議院内閣制の本質から内閣の自由な解散権を導く説に対しては、議院内閣制の概念は一義的ではないという批判があります。議院内閣制の内容そのものが学説で分かれている以上、それを前提に解散権の範囲を決めるのは循環だ、という指摘です。実務が依拠しているのは7条3号を根拠とする見解です。天皇の国事行為は元来政治的なものであるが天皇は拒否権を持たないため、助言と承認を行う内閣に実質的決定権があるという見解によれば、7条により内閣の衆議院解散権が基礎付けられます。最高裁判所は、この7条説が妥当な解釈かについて判断を示していません。最大判昭和35年6月8日(苫米地事件)は、衆議院の解散が依拠する憲法の条章の適用を誤ったか、助言と承認に瑕疵があったかの判断は裁判所の審査権の外にあるとして本案判断を避けており、解散権の根拠そのものには踏み込んでいません。

内閣の法律案提出権は、国会と内閣の協働から説明されます
憲法には内閣に法律案の提出権を認める明文がありませんが、内閣法5条がこれを認めています。その合憲性を支えるのが、議院内閣制のもとでの国会と内閣の協働という理解です。議院内閣制が採用されていることや、提出権を認めても国会の議決権が拘束されるわけではないことが、法律で内閣に法律案の提出権を与えることが憲法上禁じられていないと解する根拠になります。提出された法律案を審議し可決するかどうかは国会が決めるのですから、国会の立法権を侵すことにはなりません。他方で、72条の「議案」に法律案も含まれるとして提出権を認める立場に立てば、憲法上当然に認められる権限だと解する以上、法律でこれを奪うことはできない、という帰結になります。
現代の議院内閣制では、対抗関係が与党と野党の間に移ります
制度の建前では議会と政府が対抗しますが、実際には議会の多数派が内閣を組織するため、両者は一体として動きます。そのため、政治部門における権力分立は、政府・与党と野党の対抗関係へと機能的に変化します。国政調査権や少数派の議院内での権利が重視されるのは、この現実を踏まえてのことです。権力分立の現代的変容の一つとして、行政国家化・政党国家化・司法国家化と並べて整理されます。議会と政府の対抗を前提にした制度が働きにくくなる分、野党や少数会派に調査と追及の手段を保障することが、権力分立の趣旨を実質的に支えることになります。
日本国憲法 第69条内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
試験ではこう問われる
- 内閣は行政権の行使について国会に対し連帯して責任を負う(66条3項。R3 問3 ア ○)
- 内閣総理大臣が国務大臣を任命し、その過半数は国会議員の中から選ばなければならない(68条1項。R3 問3 エ ○)
- 衆議院で不信任決議案が可決されても、10日以内に衆議院が解散されれば総辞職は要らない(69条。R3 問3 イ ×)
- 責任本質説は内閣の議会に対する連帯責任を本質とし、均衡本質説は政府の議会解散権まで本質に含める
- 実務は7条3号を解散権の根拠とするが、最高裁は解散の効力の審査を避けている(最大判昭和35年6月8日・苫米地事件)
- 議院内閣制のもとでは、権力分立の対抗軸が政府・与党と野党に移る

