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間接正犯・離隔犯の着手時期かんせつせいはんりかくはんのちゃくしゅじき

刑法 第6章 未遂・中止犯・不能犯 過去問で29肢

離隔犯とは、毒入りの飲食物を発送する場合のように、行為者の行為と結果の発生との間に時間的・場所的な隔たりがある犯罪です。他人を道具として利用する間接正犯とともに、行為者の行為の時と、被利用者の行為や到達の時のどちらに実行の着手を認めるかが問題になります。

毒を入れたワインを宅配便で相手に送った場合、行為者がすることは窓口で配達を申し込んだ時点で終わっています。しかし、相手の命に危険が迫るのは、ワインが届いて相手が飲める状態になってからです。配達の途中で瓶が割れて廃棄された場合に殺人未遂になるかが問題になります。行為者がなすべきことを終えた時と、危険が差し迫った時のどちらを実行の着手とみるかで、結論が分かれます。

宅配業者の事務所と民家を一枚に描いた場面。左に事務所の窓口があり、男性(札「行為者」)がワインの箱を差し出している。箱の札「毒入りワイン」。右に民家の玄関があり、表札の下に「相手方宅」の札。左から右へ道が延び、道の途中に時計の絵と札「時間的

離隔犯と間接正犯では、行為者の行為と結果発生の危険との間に隔たりがあります

通常の犯罪では、行為者が実行行為を始めた時に結果発生の危険も差し迫るので、着手時期は一つに決まります。ところが、毒入りの飲食物を発送する離隔犯では、発送の時から到達の時までに時間的・場所的な隔たりがあります。事情を知らない他人や責任無能力者を道具として利用する間接正犯でも、利用者が働きかけた時と、被利用者が実際に行為をする時との間に隔たりがあります。そこで、利用者の行為の時に着手を認める見解(利用者標準説。離隔犯では発送時説)と、被利用者の行為の時に着手を認める見解(被利用者標準説。離隔犯では到達時説)が対立します。自ら飲酒して責任能力のない自分を利用する原因において自由な行為でも、同じ構造の問題が生じます。

利用者の行為の時に着手を認める見解は、行為者がなすべきことを終えた点を重視します

利用者の行為の時に着手を認める見解は、実行行為をするのは利用者であり、被利用者は道具にすぎないことを理由にします。毒入りワインの配達を申し込んだが、配達前に瓶が破損して廃棄された事例では、この見解から殺人未遂罪が成立するという結論になります。その論拠として、実行の着手は、行為者が、その犯行計画上、構成要件実現のためになすべきことを行った時点で認めることができるという考え方が挙げられます。結果発生の一定の蓋然性が生じれば未遂犯の成立を認めることができ、一般的な宅配業務の実情を前提とすれば、配達を申し込んだ時点で相手方に到着することはほぼ確実といえるという考え方も、殺人未遂罪を認める論拠になります。この見解に対しては、責任無能力者を利用する場合には、責任無能力者に規範意識の障害がないというだけで、直ちに結果発生の切迫した危険があるとはいえないという批判が向けられます。この批判は利用者の行為の時に着手を認める見解に向けられるものであり、被利用者の行為時に着手を認める見解に対する批判にはなりません。

被利用者の行為の時や到達の時に着手を認める見解は、結果発生の切迫した危険を重視します

被利用者の行為時に実行の着手を認める見解は、未遂犯が処罰されるのは結果発生の危険が差し迫ったからであると考えます。自然的に観察して結果発生に向けた直接の原因となる行為、つまり被利用者の行為を重視する考え方と矛盾しません。離隔犯において到達時に実行の着手を認める考え方とも矛盾しません。この見解では、利用者の実行行為の時と着手の時がずれるので、実行行為時と実行の着手時期が一致することを要しないとする考え方と結びつきます。着手時期を遅らせる一方で実行行為との一致を保つために、発送という先行行為に基づいて結果を防止しない不作為を実行行為と構成する見解もあります。配達前に廃棄された事例では、この見解から殺人未遂罪は成立しないという結論になります。間接正犯について被利用者の行為を基準とする考え方を同様に及ぼすこと、自ら相手方宅に届けようとした場合には届けるまで殺人未遂罪が成立しないこととの均衡を考慮すること、既遂結果発生の時間的に切迫した危険を内容とする未遂結果を43条の書かれざる構成要件要素とみることは、いずれも殺人未遂罪を否定する方向の論拠です。この見解に対しては、被利用者がいつ行為をするか、荷物がいつ届くかという、利用者にとって偶然の事情で実行の着手時期を決することになり不合理であるという批判が向けられます。

配達前に廃棄された事例の結論

  • 利用者の行為の時に着手を認める見解発送・配達の申込みの時に着手。配達前に廃棄されても殺人未遂罪が成立する。論拠は、犯行計画上なすべきことを行ったこと、到着がほぼ確実で結果発生の蓋然性があること
  • 被利用者の行為の時・到達の時に着手を認める見解相手方に到達して飲食し得る状態になった時に着手。配達前に廃棄されれば殺人未遂罪は成立しない。論拠は、結果発生の切迫した危険が必要であること、自ら届ける場合との均衡
教室の場面。先生が教師役(札「先生」)で黒板の前に立つ。黒板には左から右へ一本の道の図が描かれ、左端に「発送」、右端に「到達」、道の途中に割れた瓶の絵と札「配達前に廃棄」。左端の上に旗「利用者の行為の時に着手 → 殺人未遂罪が成立する」、右

判例は、毒物が相手方に到達して飲食し得る状態に置かれた時に着手を認めています

大判大正7年11月16日(毒物郵送事件)は、殺害の目的で毒物を混入した砂糖を郵送した事案で、相手方がこれを受領し、飲食することができる状態に置かれた時に殺人罪の実行の着手があるとしました。発送しただけでは着手はなく、毒物が相手方の手元に届いて初めて、生命に対する現実的な危険が生じるとみるものです。この立場によれば、荷物が届かなかった場合には殺人未遂罪は成立しません。「Aは,Bを殺害しようと考え,コンビニエンスストアに行き,致死性の毒物を混入した砂糖を梱包した小包を宅配便でB方に発送するための手続をし,店員にその小包を手渡した。この時点において,Aには殺人罪の実行の着手が認められ,殺人未遂罪が成立する」という肢(R2 問25 イ)は誤りです。発送の段階は殺人の予備にとどまり、殺人予備罪が成立し得ます。

民家の玄関先の場面。郵便配達員の男性(札「配達員」)が小包を差し出し、家の男性(札「相手方」)が受け取っている。小包の札「毒物を混入した砂糖」。玄関の脇に先生が裁判官役(札「裁判所」)で立ち、小包を指している。先生の吹き出し「発送しただけで
刑法 第43条

(未遂減免)
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。

試験ではこう問われる

  1. 毒物入りの小包を宅配便で発送する手続をし、店員に手渡しただけでは、殺人罪の実行の着手は認められない(R2 問25 イ ×)
  2. 判例は、毒物が相手方に到達して飲食し得る状態に置かれた時に着手を認める(大判大正7年11月16日)
  3. 情を知らない者に毒入りの菓子折を届けるよう頼んだが、途中で捨てられた場合は、殺人未遂罪の間接正犯は成立しない(H28 問24 ウ ○・出題当時)
  4. 利用者の行為の時に着手を認める見解(発送時説)は、行為者がなすべきことを終えた点を重視する
  5. 被利用者の行為の時や到達の時に着手を認める見解は、結果発生の切迫した危険を重視する
  6. 発送の段階は殺人の予備にとどまり、殺人予備罪が成立し得る

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