早すぎた構成要件の実現はやすぎたこうせいようけんのじつげん
早すぎた構成要件の実現とは、行為者が第1行為の後に行う第2行為によって結果を発生させる計画であったのに、第1行為から結果が発生してしまった場合をいいます。第1行為の時点で実行の着手が認められるか、計画と異なる経過で結果が発生したことが故意を阻却するかが問題になります。
薬で眠らせてから車ごと海に落として溺死させる計画を立て、薬を吸わせたところ、その段階で相手が死亡してしまったとします。行為者は「眠らせるだけのつもりだった」と言うかもしれません。しかし、眠らせる行為は殺害の計画の最初の一歩であり、そこからすでに命の危険は始まっています。計画より早く結果が発生した場合に、殺人既遂の責任を問えるかがここでの問題です。

早すぎた構成要件の実現では、計画していた第2行為より前の第1行為から結果が発生します
行為者が、第1行為の後に第2行為をして結果を発生させる計画であったのに、第1行為によって結果が発生した場合を、早すぎた構成要件の実現といいます。最決平成16年3月22日(クロロホルム事件)は、クロロホルムを吸引させて失神させ(第1行為)、約2キロメートル離れた港まで運んで自動車ごと海中に転落させて溺死させる(第2行為)計画であったところ、被害者が第2行為の前に第1行為により死亡していた可能性があった事案です。行為者は、第1行為で死亡する可能性を認識していませんでした。問題は二つあります。一つは、行為者が結果を発生させるつもりで行ったのは第2行為なのに、第1行為の時点で殺人罪の実行の着手が認められるかです。もう一つは、認識していた経過と異なる経過で死亡したことが、殺人の故意を阻却しないかです。第1行為で死亡したと誤信して第2行為に及び、第2行為で死亡した場合は遅すぎた構成要件の実現と呼ばれ、因果関係の錯誤の語で扱います。
第1行為が第2行為に密接な行為で、客観的な危険性が認められれば、第1行為の時点で着手が認められます
最高裁は、三つの事情を挙げて、第1行為を開始した時点で殺人罪の実行の着手を認めました。第1行為が第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったこと、第1行為に成功した場合、それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったこと、第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性です。これらに照らすと、第1行為は第2行為に密接な行為であり、第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるとしました。判旨は、クロロホルムを吸引させた場所と殺害計画を実行しようとしていた港との距離が約2キロメートルであったことを、実行の着手時期を決するうえで考慮しています。時間的場所的近接性の判断に用いられているからです。行為者の計画を踏まえて密接性と危険性を判断する点で、ダンプカーに引きずり込もうとした時点で着手を認めた判例と同じ考え方に立っています。
着手を認めた三つの事情
- 必要不可欠性第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであった
- 特段の事情の不存在第1行為に成功した場合、それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかった
- 時間的場所的近接性第1行為と第2行為との間が時間的・場所的に近接していた

一連の殺人行為に着手して目的を遂げた以上、認識と異なる経過で死亡しても故意は阻却されません
最高裁は、実行犯は一連の殺人行為に着手して、その目的を遂げたのであるから、認識と異なり第2行為の前に第1行為により死亡していたとしても、殺人の故意に欠けるところはないとしました。行為者は第1行為で死亡するとは思っていなかったのですが、第1行為と第2行為を一連の殺人行為と捉え、その全体について殺意が認められれば足りるという考え方です。死亡に至る経過のずれは因果関係の錯誤にすぎず、故意を阻却しません。「Aは,Bをクロロホルムにより失神させてから海中に転落させて溺死させようと考え,Bにクロロホルムを吸引させたところ,Bは,クロロホルム摂取に基づく呼吸停止により死亡した。この場合,Aには,殺人罪の故意は認められない」という肢(R3 問24 オ)は誤りです。判旨は、第1行為自体で死亡することの認識・認容を前提とせず、第2行為によって死亡させるという計画を前提としています。着手の後に結果が発生している以上、第2行為を実際に行ったかどうかも結論を左右しません。第1行為で被害者が死亡していることに気付き、海中に転落させる行為に及ばなかった場合でも、殺人既遂罪が成立します。

第1行為の時点で着手が認められなければ、殺人既遂罪も殺人未遂罪も成立しません
判旨が殺人既遂罪を認めたのは、第1行為の時点で実行の着手が認められたからです。第1行為を行ってもそれ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存在していた場合には、第1行為は第2行為に密接な行為とはいえず、第1行為の時点で殺人罪の実行の着手は認められません。着手がない以上、殺人未遂罪も成立しません。この場合に、殺人未遂罪と重過失致死罪が成立するわけではありません。この場合、第1行為の段階は殺人の予備にとどまります。第1行為については、失神させるという傷害の故意で死亡させたものとして、傷害致死罪が成立するにとどまると説明されます。
最決平成16年3月22日第1行為は第2行為に密接な行為であり、実行犯3名が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められる
試験ではこう問われる
- クロロホルムで失神させて海中に転落させる計画で、吸引により死亡させた場合も、殺人罪の故意が認められる(最決平成16年3月22日、R3 問24 オ ×)
- 第1行為が第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠であること、障害となる特段の事情がないこと、時間的場所的近接性から、第1行為の時点で着手が認められる
- 第1行為で死亡していることに気付き第2行為に及ばなかった場合でも、殺人既遂罪が成立する
- 障害となる特段の事情があれば第1行為の時点で着手は認められず、殺人未遂罪も成立しない
- 第1行為で死亡したと誤信して第2行為で死亡させた場合は、遅すぎた構成要件の実現として扱う

