業務上横領罪と共犯(65条の適用)ぎょうむじょうおうりょうざいときょうはん
業務上横領罪と共犯とは、業務上他人の物を占有する者の横領行為に、占有者でも業務者でもない者が加わった場合に、その者にどの罪の共犯が成立し、どの刑が科されるかという問題です。判例は、刑法65条1項により業務上横領罪の共犯が成立し、同条2項により単純横領罪の刑を科すとしています。
保険会社の集金担当の社員が、社外の友人と相談して、集めた保険料を二人で使い込んだ場面を考えます。社員は仕事として保険料を預かっているので、業務上横領罪になります。問題は、保険料を預かる立場にない友人がどの罪で処罰されるかです。横領罪は「他人の物を占有する者」しか犯せず、業務上横領罪はさらに「業務として」占有する者に重い刑を科しています。立場が二重に重なっているため、立場を持たない共犯者の扱いが問題になります。

業務上横領罪は、占有者という身分と業務者という身分が重なった罪です
横領罪(252条)は、他人の物の占有者という身分がなければ成立しない罪です。占有者の身分があることで初めて犯罪になるので、この身分は構成的身分に当たります。業務上横領罪(253条)は、占有者の中でも業務として占有する者に、5年以下から10年以下へと刑を加重しています。業務者の身分は、あることで刑が重くなる加減的身分に当たります。つまり、業務上横領罪は、占有者でない者との関係では身分によって構成される罪であり、単純な占有者との関係では身分によって刑が加重される罪です。65条1項は「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為」への加功を、2項は「身分によって特に刑の軽重があるとき」を定めているので、どちらの項をどう適用するかが問題になります。
判例は、65条1項で業務上横領罪の共犯を成立させ、2項で単純横領罪の刑を科します
最判昭和32年11月19日は、村の収入役が業務上保管していた寄附金を、その業務に従事していない村長と助役が収入役と共謀して費消した事案で、村長と助役について、65条1項により253条に該当する業務上横領罪の共同正犯として論ずべきものとしました。そのうえで、253条は業務上物を占有する場合に特に重い刑を科する規定であるから、業務上の占有者の身分のない者には、65条2項により252条1項の通常の横領罪の刑を科すべきであるとしています。この処理は、成立する罪名は業務上横領罪、科される刑は単純横領罪の刑という形になります。なお、65条1項の「共犯」には、教唆犯・幇助犯だけでなく共同正犯も含まれます。

65条の読み方によって、非占有者に成立する罪名が変わります
65条1項と2項の関係については、見解が分かれます。1項は真正身分犯について共犯の成立と科刑を定め、2項は不真正身分犯について共犯の成立と科刑を定めているとする見解からは、占有者という構成的身分については1項で連帯し、業務者という加減的身分については2項で個別に扱うことになります。この見解からは、甲と乙は1項により単純横領罪の共犯となり、業務者である甲についてだけ2項により業務上横領罪が成立するという結論になります。1項は真正身分犯と不真正身分犯を通じて共犯の成立を定め、2項は不真正身分犯の科刑を定めているとする見解からは、非占有者の乙には業務上横領罪の共犯が成立し、単純横領罪の刑が科されるという結論になります。この見解からは、非占有者が業務上占有者を教唆して横領させた場合、業務上横領罪の教唆犯が成立し、単純横領罪の刑が科されることになります。この見解と判例の処理に対しては、成立する罪名と科される刑が分かれてしまうという批判が向けられます。1項は違法身分の連帯を、2項は責任身分の個別化を定めているとする見解からは、占有の受託者たる身分は違法身分、業務者たる身分は責任身分と整理され、乙には単純横領罪の共犯が成立するという結論になります。
- 判例1項で業務上横領罪の共犯が成立し、2項で単純横領罪の刑を科す
- 1項=真正身分犯の成立と科刑、2項=不真正身分犯の成立と科刑とする見解1項で甲・乙は単純横領罪の共犯となり、2項で甲に業務上横領罪が成立する
- 1項=共犯の成立、2項=不真正身分犯の科刑とする見解乙に業務上横領罪の共犯が成立し、単純横領罪の刑が科される
- 1項=違法身分の連帯、2項=責任身分の個別化とする見解占有の受託者たる身分は違法身分、業務者たる身分は責任身分。乙には単純横領罪の共犯が成立する
占有者ではあるが業務者でない者が加わった場合は、65条2項だけの問題になります
加わった者が、業務者ではないものの、同じ物を占有する者であった場合は、構成的身分である占有者の身分を備えているので、65条1項を使う必要がありません。業務者の身分があるかないかだけが違うので、65条2項により、業務者には業務上横領罪、業務者でない占有者には単純横領罪が成立します。非占有者が加わった場合とは処理が異なるので、事例を読むときは、加わった者がその物を占有しているか、占有が業務に基づくかを順に確認することになります。背任罪や収賄罪に身分のない者が加わった場合も、身分が犯罪を構成するものか刑を加減するものかを同じ手順で確認します。
刑法 第65条第1項犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。
刑法 第65条第2項身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。
刑法 第253条(業務上横領)
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の拘禁刑に処する。
試験ではこう問われる
- 非占有者が業務上の占有者の横領行為に加功した場合、65条1項により業務上横領罪の共犯が成立し、65条2項により単純横領罪の刑が科される(最判昭和32年11月19日)
- 占有者という身分は構成的身分、業務者という身分は加減的身分に当たる
- 1項を共犯の成立、2項を不真正身分犯の科刑の規定とする見解からは、非占有者に業務上横領罪の教唆犯が成立し、単純横領罪の刑が科される
- 1項を真正身分犯、2項を不真正身分犯の規定とする見解からは、1項で単純横領罪の共犯となり、2項で業務者にだけ業務上横領罪が成立する
- 違法身分・責任身分で分ける見解からは、占有の受託者たる身分は違法身分、業務者たる身分は責任身分と整理される
- 65条1項の「共犯」には共同正犯が含まれる

