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取締役の善管注意義務・忠実義務と監視義務とりしまりやくのぜんかんちゅういぎむちゅうじつぎむとかんしぎむ

会社法・商法 第8章 取締役・取締役会・代表取締役 過去問で11肢

善管注意義務とは、会社と委任の関係に立つ取締役が、善良な管理者の注意をもって職務を行う義務のことで(会社法330条・民法644条)、忠実義務とは、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実にその職務を行う義務のことです(355条)。監視義務とは、取締役会を構成する各取締役が、代表取締役や他の取締役の職務の執行を監視し、必要があれば取締役会を通じて是正する義務のことで、善管注意義務の一内容として判例が認めたものです。

取締役は株主から会社の経営を任された受任者です。任された以上、専門家として注意深く仕事をし(善管注意義務)、法令や定款、株主総会の決議を守って会社のために誠実に働かなければなりません(忠実義務)。取締役会のメンバーは、社長や他の取締役の仕事ぶりにも目を配り、おかしければ取締役会を開かせて正す義務(監視義務)を負います。一方で経営には必ずリスクがあり、結果が悪かったから責任を問われるのでは誰も思い切った判断ができません。そこで判断の過程と内容に著しく不合理な点がなければ義務違反にならないという考え方が取られています。

取締役会の会議室の場面。長い机の上座に男性社長(札「代表取締役」)が座り、手元の書類を体で隠している。机の端に先生が平取締役役(札「取締役(社外)」)で座り、身を乗り出して手を挙げ、手に紙「取締役会の招集を請求します(366条2項)」。壁の

取締役と執行役は善管注意義務と忠実義務を負い、忠実義務は会社との取引で負った債務の履行にも及びます

株式会社と役員及び会計監査人との関係は委任に関する規定に従うので(330条)、取締役は受任者として善良な管理者の注意をもって職務を行う義務を負います(民法644条)。さらに取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実にその職務を行わなければなりません(355条)。この規定は執行役に準用されます(419条2項)。忠実義務と善管注意義務の関係について、判例(最大判昭和45年6月24日。八幡製鉄政治献金事件)は、355条の忠実義務は善管注意義務を敷衍し一層明確にしたにとどまり、通常の委任関係に伴う善管注意義務とは別個の高度な義務を規定したものではないとしています。判例(最判平成21年3月10日)は、取締役が会社との取引によって負担した債務についての責任も株主代表訴訟(847条1項)の対象になるとし、その理由として、取締役は会社に対して忠実義務を負う以上、会社との取引によって負担した債務についても会社に対して忠実に履行すべき義務を負うことを挙げました。「取締役は会社に対して忠実義務を負っており,取締役は,会社との取引によって負担することになった債務についても,会社に対して忠実に履行すべき義務を負う」という記述は、この判例の立場と整合します。

取締役会を構成する取締役は、社外取締役でも業務執行取締役でも、上程された事項に限らず代表取締役の業務執行一般を監視する職務を負います

取締役会は取締役の職務の執行を監督する機関なので(362条2項2号)、その構成員である各取締役は、善管注意義務の一内容として他の取締役の職務執行を監視する義務を負います。判例(最判昭和48年5月22日)は、株式会社の取締役会は会社の業務執行につき監査する地位にあるから、取締役会を構成する取締役は、会社に対し、取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず、代表取締役の業務執行一般につきこれを監視し、必要があれば取締役会を自ら招集し、あるいは招集することを求め(366条1項・2項)、取締役会を通じて業務執行が適正に行われるようにする職務を有するとしました。取締役会に上がってきた議題だけ見ていればよいとすると、代表取締役が情報を隠した場合に監督が空洞化するからです。この判例は代表取締役でも業務執行取締役でもない平取締役の監視義務を認めたものですが、「取締役会を構成する取締役」である以上、社外取締役にも業務執行取締役にも同じ職務が及びます。「取締役会を構成する取締役は,社外取締役であっても,取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず,代表取締役による会社の業務執行一般につき,これを監視する職務を有する」という記述と、「判例の趣旨によれば、取締役会を構成する取締役は、取締役会に上程された事柄について監視するにとどまらず、代表取締役による会社の業務執行一般につき、これを監視する職務を有する」という記述は正しく、監視義務に違反して会社や第三者に損害を与えた取締役は、任務懈怠責任(423条1項)や対第三者責任(429条1項)を負います。もっとも、大きな会社では個々の取締役が全部を見ることはできないので、判例(最判平成21年7月9日)は、通常想定される不正行為を防止しうる程度の管理体制(内部統制システム)を整えていれば、それを潜脱する巧妙な不正を見抜けなかったことについて代表取締役に過失はないとしています。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座る。原告席に男性株主(札「株主」)が立ち、吹き出し「子会社の株を高く買って会社に損をさせた。善管注意義務違反だ」。被告席に男性取締役(札「取締役」)が書類「取締役会で審議・弁護士の意見を聴

経営判断については、意思決定の過程と内容に著しく不合理な点がなければ善管注意義務違反にならないという見解が取られています

取締役の経営判断が失敗して会社に損害が出たとき、結果だけから善管注意義務違反を認めるべきではないという考え方があります。判例(最判平成22年7月15日。アパマンショップ事件)は、子会社の株式を取得価格の5倍の価格で買い取った事業再編の事案で、事業再編計画の策定は将来予測にわたる経営上の専門的判断に委ねられているとし、株式取得の方法や価格についても、株式の評価額のほか取得の必要性、会社の財務上の負担、取得を円滑に進める必要性の程度等を総合考慮して決定でき、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り善管注意義務違反にはならないとしました。弁護士の意見を聴くなどの手続を踏んでいたことも、過程の合理性を支える事情として考慮されています。この見解(経営判断の原則)の根拠は、企業経営には一定のリスクが伴うので取締役の経営判断に対して事後的・結果論的な評価をして取締役を萎縮させるべきではないこと、取締役の経営判断は経営の専門家によるものなので尊重されるべきこと、善管注意義務違反の責任を余りに広く課すと取締役になろうとする者がいなくなるという懸念があることにあります。したがって、この見解の下では、取締役が経営判断を行うに当たり弁護士の意見を聴取することは、意思決定の過程の合理性を裏づける一要素になります。これに対し、株主は株主総会で選任した取締役に会社の経営を委ね取締役はこれを引き受けたのだから経営判断の失敗については取締役が責任を負うべきである、という考え方は、結果から責任を導くものなので、この見解とは整合しません。

会社法 第330条

(株式会社と役員等との関係)
株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。

会社法 第355条

(忠実義務)
取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。

試験ではこう問われる

  1. 取締役・執行役は法令・定款・株主総会決議を遵守し忠実に職務を行う義務を負う(355条・419条2項)
  2. 忠実義務は善管注意義務を敷衍したもので別個の高度な義務ではない(最大判昭45.6.24)。会社との取引で負った債務の履行にも及ぶ(最判平21.3.10)
  3. 取締役会を構成する取締役は、上程された事項に限らず代表取締役の業務執行一般を監視する職務を負う(最判昭48.5.22)。社外取締役・業務執行取締役も同じ
  4. 通常想定される不正を防ぎうる内部統制システムを整えていれば、巧妙な不正を見抜けなくても過失はない(最判平21.7.9)
  5. 経営判断は決定の過程・内容に著しく不合理な点がない限り善管注意義務違反にならない(最判平22.7.15)。弁護士の意見聴取は過程の合理性の一要素
  6. 経営判断の失敗について結果から取締役の責任を認める考え方は、この見解と整合しない

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