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免責的債務引受(472条〜472条の4)めんせきてきさいむひきうけ

民法 第10章 多数当事者の債権債務・保証・債権譲渡・債務引受

免責的債務引受とは、引受人が債務者の債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる債務の引受けです(472条1項)。債権者と引受人となる者の契約なら債権者が債務者に通知した時に、債務者と引受人となる者の契約なら債権者の承諾によって効力を生じます。

会社の事業を引き継ぐ新会社が、旧会社の借入金を代わりに返すことにし、旧会社は借金から完全に抜けたい、という場面があります。これが免責的債務引受で、債務者が入れ替わります。債権者からすれば、払ってくれる人が別人に変わるのですから、債権者の関与は欠かせません。元の債務者は債務を免れるだけなので、元の債務者の同意は要りません。元の債務についていた担保は、担保を出した人の承諾がなければ新しい債務には移りません。

銀行の融資窓口の場面。カウンターの向こうに男性(札「債権者A」)。手前に新会社の女性社長(札「引受人C」)が「免責的債務引受契約書」に署名している。窓口の脇で男性(札「債務者B」)が「通知書」を受け取って肩の荷を下ろしている。先生が説明役(

債権者と引受人となる者の契約なら債権者が債務者に通知した時に効力を生じ、債務者と引受人となる者の契約なら債権者の承諾が要ります

免責的債務引受の引受人は、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れます(472条1項)。免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができ、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に効力を生じます(同条2項)。債務者の意思に反するかどうかは問いません。債権者・債務者・引受人の三者の合意は要りません。改正前の判例は、債権者と引受人の契約による免責的債務引受を債務者の意思に反しない限り認めていましたが、現在は債務者の意思に反するかどうかを問いません。免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもできます(同条3項)。この承諾は効力の要件で、債権者に通知しただけでは効力を生じません。

引受人は効力発生時に債務者が主張できた抗弁を対抗でき、取消権・解除権の限度で履行を拒めますが、債務者の相殺権を理由に拒むことはできません

引受人は、免責的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗できます(472条の2第1項)。債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、引受人は、免責的債務引受がなければこれらの権利の行使によって債務者がその債務を免れることができた限度で、債権者に対して債務の履行を拒むことができます(同条2項)。債務者が詐欺を理由に取り消せる場合も、引受人はその限度で履行を拒めます。取消権や解除権そのものは契約の当事者である債務者に残るので、売買の買主の代金債務を引き受けた者が売買契約を解除することはできません。472条の2第2項は相殺権を挙げておらず、債務を免れた債務者の反対債権を引受人のために使わせる理由はないので、引受人は債務者の相殺権を理由に履行を拒めません。併存的債務引受では連帯債務の439条2項で負担部分の限度で拒めることと対照的です。

土地の前の場面。土地に「抵当権設定済み」の立札。立札の横に年配の男性(札「物上保証人D」)が腕を組み「新しい債務者の分まで担保する承諾はしていません」と言っている。手前に男性(札「債権者A」)と女性(札「引受人C」)。先生が説明役(札「先生

引受人は債務者に求償権を取得しません

免責的債務引受の引受人は、債務者に対して求償権を取得しません(472条の3)。引受人が払うのは引き受けて自分のものになった債務であって、他人の債務ではないからです。引受人が負担を引き受けた見返りは、引受人と債務者の間の合意で決めることになり、別段の合意をすれば求償権を持たせることもできます。

債権者は担保権を引受人の債務に移せますが、引受人以外の者が設定した担保権には設定者の承諾が要り、保証の移転には保証人の書面による承諾が要ります

債権者は、債務者が免れる債務の担保として設定された担保権を、引受人が負担する債務に移すことができます(472条の4第1項本文)。ただし、引受人以外の者が設定した担保権の場合は、その承諾を得なければなりません(同項ただし書)。担保権の移転は、あらかじめ又は同時に引受人に対してする意思表示によってしなければなりません(同条2項)。引受人C自身が設定した抵当権なら承諾は要りません。第三者Dが設定した抵当権は、Dの承諾がなければ移らず、被担保債権の消滅とともに付従性で消滅します。保証についても同じ規律が準用され、保証人の承諾は書面又は電磁的記録でしなければ効力を生じません(同条3項〜5項)。改正前の判例も、保証人が引受けに同意しない限り保証債務は免責的債務引受で消滅するとしていました(大判大正11年3月1日)。

  • 成立(472条2項・3項)債権者と引受人となる者の契約+債権者から債務者への通知、又は債務者と引受人となる者の契約+債権者の承諾
  • 引受人の抗弁(472条の2)効力発生時の債務者の抗弁を対抗できる。取消権・解除権の限度で拒める。相殺権では拒めない
  • 求償(472条の3)引受人は債務者に求償権を取得しない
  • 担保の移転(472条の4)引受人以外の設定者の承諾が要る。保証人の承諾は書面
民法 第472条第2項

免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。

民法 第472条の3

(免責的債務引受における引受人の求償権)
免責的債務引受の引受人は、債務者に対して求償権を取得しない。

民法 第472条の4第1項

債権者は、第四百七十二条第一項の規定により債務者が免れる債務の担保として設定された担保権を引受人が負担する債務に移すことができる。ただし、引受人以外の者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない。

試験ではこう問われる

  1. 質権の被担保債務を免責的に引き受けたことによる質権の債務者の変更の登記では、設定者Aの印鑑に関する証明書を添付することを要しない(R6 午後 問17 イ ○)
  2. 債権者と引受人となる者の契約ででき、債権者が債務者に通知した時に効力を生じる。三者の合意は要らない(472条2項)
  3. 債務者と引受人となる者の契約では、債権者の承諾が効力の要件で、通知だけでは足りない(472条3項)
  4. 引受人は効力発生時の抗弁を対抗でき、債務者の取消権・解除権の限度で履行を拒めるが、相殺権を理由に拒むことはできない(472条の2)
  5. 引受人は債務者に求償権を取得しない(472条の3)
  6. 担保権は引受人の債務に移せるが、引受人以外の設定者の承諾が要り、承諾がなければ消滅する。保証の移転には保証人の書面による承諾が要る(472条の4)
  7. 元本確定前に免責的債務引受があっても、根抵当権を引受人の債務に移すことはできない(398条の7第3項)

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