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自己決定権じこけっていけん

憲法 第3章 包括的基本権・平等 過去問で24肢

自己決定権とは、個人が一定の私的事項について、公権力の介入を受けずに自ら決定する権利をいい、13条の幸福追求権から導かれるとされます。判例は自己決定権という語を用いず、人格権や個別の利益として処理してきました。

髪型をどうするか、バイクに乗るか、宗教上の理由で輸血を断るかは、本人が自分で決めることのように思えます。憲法13条は個人の尊重と幸福追求権を定めていますから、こうした私的な事柄を自分で決める自由もここから導かれると説明されます。ただし最高裁は自己決定権という言葉を正面から使わず、輸血拒否の事件でも人格権の一内容として意思決定を尊重すると述べるにとどめました。憲法上の権利として立てるほど審査は厳しくなるため、どの決定がどれほど人格的な生存に関わるかを事柄ごとに見る必要があるからです。

病院の診察室の場面。先生が医師役(札「医師」)で白衣を着て机に座り、向かいに患者の男性(札「患者」)が「宗教上の信念でいかなる場合も輸血を受けない」と書いた紙を持って座っている。患者の吹き出し「輸血を受けるかどうかは私が自分で決めることだ」

髪型の自由が13条上の権利かどうかは、決着していません

学説における人格的利益説の場合、どのような権利・自由が人格的生存にとって不可欠な利益であるかは必ずしも明らかでなく、自己決定権としての髪型の自由について、人格的利益説を採る論者の間でも見解が分かれます。判例も髪型の自由を13条上の権利と正面から認めてはいません。熊本地判昭和60年11月13日(公立中学校における髪形の規制)は、校則による丸刈りの定めについて、社会通念上不合理とはいえないとして違法性を否定しました。判断の枠組みは、憲法上の権利の制約としてではなく、学校の裁量の逸脱があるかどうかです。

  • 生命・身体の処分輸血拒否の意思決定は人格権の一内容として尊重される
  • 家族の形成氏の変更は法制度を離れて違憲かどうかを論じない
  • ライフスタイル髪型・バイク・喫煙。権利性に争いがあり、審査は緩やか

校則の合理性の審査は、緩やかです

最判平成8年7月18日(修徳高校パーマ事件)は、憲法の自由権的基本権の保障規定は私人相互の関係に当然に適用ないし類推適用されるものではないから、私立学校の校則が直接憲法に違反するかどうかを論ずる余地はないとしたうえで、パーマ禁止の校則は高校生にふさわしい髪型を維持し非行を防止するためのもので社会通念上不合理とはいえず、民法1条、90条に違反せず、これに反した生徒への自主退学勧告も違法ではないとしました。判例は、私立学校が独自の教育方針に基づいて校則を定めることを広く認め、その適用としての処分についても、社会通念上著しく妥当を欠くといえるかどうかで審査します。最判平成3年9月3日(校則によるバイク制限)も、バイクの免許取得や乗車を禁止する校則と、これに違反した生徒に対する自主退学の勧告を、違法ではないとしました。

私立高校の校長室の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で脇に立ち、校長の男性(札「私立高校」)が「パーマ禁止」と書かれた校則の掲示を指し、手前にパーマをかけた生徒の男性(札「生徒」)が「髪型は13条の自己決定権だ」と書いた紙を持っている。先

輸血拒否の意思決定は、人格権の一内容として尊重されます

最判平成12年2月29日(エホバの証人輸血拒否事件)は、患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合には、このような意思決定をする権利は人格権の一内容として尊重されなければならないとしました。そして、医師としては、手術の際に輸血以外には救命手段がない事態が生ずる可能性を否定し難いと判断したときは輸血するとの方針を採っていることを患者に説明し、手術を受けるか否かを患者自身の意思決定に委ねるべきであったとしました。判決が認めたのは、輸血をしない方針を説明しないまま手術をしたことが説明義務違反に当たり、手術を受けるか否かの意思決定をする権利を奪って人格権を侵害したという点であり、輸血をしたこと自体を違法としたわけではありません。ここでも判例は人格権の一内容として述べたにとどまり、自己決定権という語を用いていません。憲法上の権利として構成すると制約の正当化のために厳格な審査が必要になるため、私法上の人格的利益として処理して比較衡量の幅を保つ狙いがあると説明されます。

講義室の黒板の前の場面。黒板に二つの箱。左の箱の看板「憲法上の自己決定権として構成」の下に注記「制約の正当化に厳格な審査が要る」、右の箱の看板「私法上の人格権の一内容として構成(判例)」の下に注記「比較衡量の幅を保てる」で、右の箱の枠が深紅

本人保護を理由とする制約は、別の枠で考えます

自己決定権の制約には、他人の権利を守るためのものと、本人自身を守るためのものがあります。後者をパターナリスティックな制約といい、公共の福祉による調整では説明できません。未成年者については、判断能力が未熟であること、制約が成長に伴って解除される限時的なものであることを理由に、限定的に許容されると説明されます。成人については、本人の判断を尊重するのが原則で、制約には慎重な検討が必要です。輸血拒否の事案で本人の意思が尊重されたのも、この考え方に沿います。

氏の変更を強制されない自由も、この枠で論じられます

婚姻の際に夫婦の一方が氏を改めることを求める民法の規定について、氏の変更を強制されない自由が憲法上の権利として保障されるかが争われました。最大判平成27年12月16日は、氏名は個人の人格の象徴であって人格権の一内容を構成するとしつつ、氏は婚姻及び家族に関する法制度の一部として法律がその具体的な内容を規律しているから、具体的な法制度を離れて氏が変更されること自体を捉えて直ちに人格権を侵害し違憲であるか否かを論ずるのは相当ではないとしました。婚姻や家族に関する事項は、その具体的な内容が法律によって初めて形作られるため、制度の設計として合理性を欠くかどうかという形で審査されます。自己決定権の主張が制度依存的な場面でどう扱われるかを示す例です。

在監関係では、生活全般の自由が制約されます

最大判昭和45年9月16日(未決拘禁者喫煙禁止事件)は、喫煙の自由が13条の保障する基本的人権に含まれるとしても、あらゆる時、所において保障されなければならないものではないとしました。逃走や罪証隠滅の防止という拘禁の目的から、生活全般にわたる自由が制約されます。ライフスタイルに関わる決定の制約は、それが本人の置かれた特別な法律関係から生じている場合には、その関係の目的から必要な限度で許されるという形で正当化されます。

日本国憲法 第13条

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

試験ではこう問われる

  1. 輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重される(最判平成12年2月29日)
  2. 同判決で違法とされたのは、輸血の方針を説明しないまま手術をして意思決定の機会を奪った点である(最判平成12年2月29日)
  3. 私立学校の校則が直接憲法に違反するかを論ずる余地はなく、パーマ禁止の校則に反した生徒への自主退学勧告も違法ではない(最判平成8年7月18日)
  4. 氏名は人格権の一内容だが、具体的な法制度を離れて氏の変更自体を直ちに違憲かどうか論ずるのは相当でない(最大判平成27年12月16日)
  5. 喫煙の自由が13条の保障に含まれるとしても、あらゆる時、所において保障されるものではない(最大判昭和45年9月16日)

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