賄賂の没収・追徴わいろのぼっしゅうついちょう
賄賂の没収・追徴とは、犯人又は情を知った第三者が収受した賄賂を没収し、その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する制度です(197条の5)。裁判所の裁量による総則の没収・追徴(19条・19条の2)の特則に当たります。
公務員が賄賂として受け取った現金や高級な腕時計を、刑を受けた後も手元に残せるとしたら、賄賂は割に合うものになってしまいます。そこで刑法は、収受した賄賂を例外なく取り上げることにしています。使ってしまった場合や、接待のように形に残らない利益だった場合には、その価額に当たる金銭を追徴して納めさせます。通常の没収は取り上げるかどうかを裁判所が決められますが、賄賂については裁量の余地がありません。

収受した賄賂は没収しなければならず、没収できないときは価額を追徴しなければなりません
197条の5は、犯人又は情を知った第三者が収受した賄賂は「没収する」と定め、その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を「追徴する」と定めています。総則の没収(19条)と追徴(19条の2)は「することができる」と定める任意的なものですが、賄賂についてはその特則として、必要的な没収・追徴とされています。収賄者に不正な利益の保有を許さず、これを剥奪するためです。対象は「収受した賄賂」です。申込みや約束にとどまり、収受されなかった賄賂は197条の5の対象ではなく、19条による任意的没収の対象になるにとどまります。
- 総則の没収(19条)・追徴(19条の2)任意的(「没収することができる」「追徴することができる」)。追徴できるのは19条1項3号・4号の物を没収できないときに限られる
- 賄賂の没収・追徴(197条の5)必要的(「没収する」「追徴する」)。対象は、犯人又は情を知った第三者が収受した賄賂
無形の利益は没収できないので、その価額を追徴します
没収できるのは有体物だけです。「没収することができないとき」には、収受した金銭を費消した場合や物品を譲渡した場合のように後から没収できなくなった場合のほか、饗応接待や債務の弁済のように、賄賂の性質上はじめから没収できない場合も含まれます。どちらの場合も、その価額を追徴します。追徴は必要的なので、金銭に換算できる限り、裁判所は追徴を命じなければなりません。他方で、賄賂の価額を超えて追徴することは許されないので、価額を算定することができない利益については、197条の5による追徴はできません。

借金の形をとった場合は、金銭の贈与を受ける趣旨か、本当に借りただけかで扱いが分かれます
公務員が関係業者から借金の形で金銭を受け取った場合、何が賄賂であるかによって没収の対象が変わります。借金という形をとっていても、実際には金銭の贈与を受ける趣旨であれば、受け取った金銭そのものが「収受した賄賂」なので、197条の5によって没収されます。これに対し、本当に借りただけであれば、賄賂は金銭を借りられるという金融の利益であって、受け取った金銭そのものではありません。金融の利益が賄賂とされた事案で、判例は、借り受けた金銭を、犯罪行為によって得た物(19条1項3号)として、19条の2により追徴することを認めています(最決昭和33年2月27日)。この場合の追徴は総則の規定によるので、任意的です。
追徴する価額は、賄賂を収受した当時の価額によります
賄賂として収受した物が没収できなくなった場合に、いつの時点の価額を追徴するかが問題になります。判例は、収賄者は賄賂である物を収受することによって、その物のその当時の価額に相当する利益を得たのであり、その後の日時の経過等による価額の増減は、収受とは別個の原因に基づくものにすぎないとして、没収に代えて追徴すべき金額は、その物の授受当時の価額によるとしています(最大判昭和43年9月25日)。たとえば、収受した時に100万円であった株式が、没収できなくなった時点で60万円に値下がりしていても、追徴するのは100万円です。値上がりしていた場合も、追徴するのは収受した当時の価額です。

共同して収受した賄賂は、共犯者各自に価額全部の追徴を命じることができます
収賄の共同正犯者が共同して賄賂を収受した場合について、判例は、賄賂が現存していれば共犯者各自に対してそれぞれ全部の没収を言い渡すことができるのだから、没収が不能な場合の追徴も、共犯者各自に対し、それぞれ収受した賄賂の価額全部の追徴を命じることができるとしています(最決平成16年11月8日)。共同して収受した者の中に公務員の身分のない者が含まれていても、異なる扱いをする理由はありません。もっとも、必要的な没収・追徴の趣旨は、収賄犯人等に不正な利益の保有を許さず、これを剥奪して国庫に帰属させる点にあります。この趣旨が満たされる限り、裁判所は、相当と認められる場合には、裁量により、各自に一部の額の追徴を命じ、又は一部の者にのみ追徴を科すこともできます。
刑法 第197条の5(没収及び追徴)
犯人又は情を知った第三者が収受した賄賂は、没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。
刑法 第19条の2(追徴)
前条第一項第三号又は第四号に掲げる物の全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴することができる。
試験ではこう問われる
- 収受した賄賂は必要的没収で、没収できないときはその価額を追徴しなければならない(197条の5)。総則の没収・追徴(19条・19条の2)は任意的である
- 無形の利益(債務の弁済、饗応接待)は没収の対象にならないが、金銭に換算可能であれば価額を追徴しなければならない
- 借金の形でも金銭の贈与を受ける趣旨であれば、その金銭を没収する。本当に借りただけなら、197条の5によって金銭を没収することはできない
- 追徴する価額は、没収不能時の価額ではなく、賄賂を収受した当時の価額である(最大判昭和43年9月25日)
- 共同して収受した賄賂は、公務員の身分の有無にかかわらず、共犯者各自に価額全部の追徴を命じることができ、裁量で一部の額や一部の者にとどめることもできる(最決平成16年11月8日)
- 収受されなかった賄賂は197条の5の対象ではなく、19条による任意的没収の対象にとどまる

