証拠隠滅等罪(他人の刑事事件・偽造・証人等威迫)しょうこいんめつとうざい
証拠隠滅等罪とは、他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用する罪です(刑法104条)。刑事事件の証人らに面会を強請し、又は強談威迫の行為をする証人等威迫罪(105条の2)とあわせて、刑事司法作用を保護します。
友人が起こした事件の凶器を川に捨てたり、目撃者を遠くに連れ出して警察に会わせなかったり、ありもしない領収証を作って提出したりする人がいると、捜査機関や裁判所は正しい事実にたどり着けなくなります。証拠隠滅等罪は、刑事事件の証拠が正しい形で利用されることを守る罪です。ただし、自分の事件の証拠を自分で隠すことまでは処罰されないので、条文は客体を「他人の刑事事件に関する証拠」に限っています。

客体は「他人の刑事事件に関する証拠」で、罪の重さや捜査開始の前後を問いません
証拠隠滅等罪(104条)は、他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者を、3年以下の拘禁刑(拘禁刑は令和7年6月から。それ以前は懲役・禁錮)又は30万円以下の罰金に処する罪です。犯人蔵匿等罪と違い、事件の法定刑による限定はありません。刑事事件には、起訴後の被告事件や捜査中の被疑事件だけでなく、将来刑事事件になり得るものも含まれます。殺害の事実を捜査機関が知る前に被害者名義の遺書を作って遺族に送った場合のように、捜査が始まる前でも証拠偽造罪が成立します。他方、民事事件の証拠は客体になりません。貸金返還請求訴訟の被告が消費貸借契約書の原本を焼却しても、証拠隠滅罪は成立しません。「他人」は自己以外の者をいい、親族も他人です。配偶者の犯罪行為に関する証拠を隠滅した場合も証拠隠滅罪が成立し、親族であることは105条による刑の任意的免除の問題になります。
隠滅は証拠の価値を失わせる一切の行為で、証人や参考人を隠す行為も含みます
証拠とは、犯罪の成否や態様、刑の軽重に関係する一切の資料をいい、被告人に不利な証拠だけでなく有利な証拠も、罪体に関する証拠だけでなく情状に関する証拠も含みます。公判請求された者に有利な情状証拠を隠匿した場合も、証拠隠滅罪が成立します。隠滅とは、物理的に壊すことに限らず、証拠の顕出を妨げ、又は証拠としての価値を滅失・減少させる一切の行為をいいます。物だけでなく人も証拠になります。判例は、捜査段階における参考人にすぎない者も他人の刑事事件に関する証拠に当たり、これを隠匿すれば証拠隠滅罪が成立するとしています(最決昭和36年8月17日)。事情聴取の要請を受けた目撃者を自宅に監禁した場合も、証人予定者を別荘に監禁した場合も、取調べを受ける可能性のある参考人を知人宅にかくまった場合も、証拠隠滅罪が成立します。

参考人が虚偽の供述をしただけでは偽造に当たらず、虚偽の証拠を新たに作り出せば偽造に当たります
偽造とは、存在しない証拠を新たに作り出すことをいいます。判例は、参考人が捜査官に対して虚偽の供述をしても証拠偽造罪は成立せず、その虚偽の供述が供述調書に録取されたとしても、それだけでは同罪は成立しないとしています(最決平成28年3月31日)。虚偽の供述を処罰するのは宣誓した証人の偽証罪に限るのが刑法の建前だからです。参考人として虚偽の供述をし、それを信じた警察官に供述調書を作成させて署名押印しただけでは、証拠偽造罪は成立しません。もっとも、この決定は、令状請求のための証拠を作り出す意図で、警察官と相談しながら架空の事実に関する虚偽の供述内容を創作・具体化させ、それを供述調書の形式にした行為については、証拠偽造罪の成立を認めました。宣誓した証人の偽証は偽証罪で処罰され、証拠偽造罪にはなりません。法廷で偽りの証言をし、これに基づく証人尋問調書が作成されても、証拠偽造罪は成立しません。被告人の友人が証人に偽証を教唆し実行させた場合に成立するのも、偽証罪の教唆犯です。見解としては、参考人の虚偽供述も証拠に含まれるが文書化されたものに限るとする見解からは、虚偽の内容の上申書を作成させる行為が証拠偽造に当たります。これに対し、偽造を文書偽造罪と同じく作成名義を偽る場合に限るとする見解からは、作成者本人の名義で内容だけが虚偽の上申書を作っても証拠偽造には当たらないという結論になります。

証人等威迫罪は、自己の事件の証人に対しても、文書によっても成立します
証人等威迫罪(105条の2)は、自己若しくは他人の刑事事件の捜査若しくは審判に必要な知識を有すると認められる者又はその親族に対し、当該事件に関して、正当な理由がないのに面会を強請し、又は強談威迫の行為をした者を、2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処する罪です。条文が「自己若しくは他人の」としているので、103条や104条と違って自己の事件でも成立します。威迫について、判例は、不安、困惑の念を生じさせる文言を記載した文書を送付して相手にその内容を了知させる方法による場合が含まれ、直接相手と相対する場合に限られないとしています(最決平成19年11月13日)。この罪は証人らの平穏と刑事司法の適正な運用を守るものなので、事件が確定するまでの間の行為が処罰の対象になります。判決確定前であれば、証言を終えた者を威迫した場合でも、証人等威迫罪が成立します。故意としては、相手が必要な知識を有する者であることと、強談威迫などの行為をすることの認識があれば足ります。公判の結果に影響を及ぼそうとする意図は要りません。
刑法 第104条(証拠隠滅等)
他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。
刑法 第105条の2(証人等威迫)
自己若しくは他人の刑事事件の捜査若しくは審判に必要な知識を有すると認められる者又はその親族に対し、当該事件に関して、正当な理由がないのに面会を強請し、又は強談威迫の行為をした者は、二年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。
試験ではこう問われる
- 証拠隠滅等罪の「他人の刑事事件」は、罰金以上の刑に当たる罪に限られず、捜査開始前の事件も含む
- 自分が盗んだ絵画を処分しても、自己の刑事事件の証拠なので証拠隠滅罪は成立しない(H28 問26 ア ×・出題当時)
- 民事事件の証拠を隠滅しても成立しない。配偶者の事件の証拠を隠滅すれば成立する(105条は刑の任意的免除)
- 同居の長男の共犯者の逮捕を免れさせるためだけに証拠を隠滅した親には、105条による刑の免除はない(R5 問26 1 ×)
- 証人・参考人も証拠に当たり、かくまう・監禁する行為は隠滅に当たる(最決昭和36年8月17日)。目撃者に現金を与えて国外に渡航させれば証拠隠滅罪が成立する(H28 問26 オ ○・出題当時)
- 参考人の虚偽供述が供述調書に録取されただけでは証拠偽造罪は成立しない。捜査官と相談して架空の内容を創作し調書にすれば成立する(最決平成28年3月31日)
- 証人等威迫罪は、自己の事件の証人に対しても成立し(105条の2)、文書を送付して内容を了知させる方法による威迫でもよく(最決平成19年11月13日)、判決確定前であれば証言を終えた者に対しても成立する

