片面的共犯(片面的共同正犯・片面的幇助)へんめんてききょうはん
片面的共犯とは、関与者の一方だけが共同して実行する意思や手助けする意思を持ち、相手方はそのことを知らないまま犯罪が行われる場合をいいます。判例は、片面的共同正犯を否定し、片面的幇助を肯定しています。
二人で机を運ぶには、互いに声を掛け合って息を合わせる必要があります。一人が黙って後ろから押しただけでは、前の人は一緒に運んでいるとは思っていません。共同正犯は互いに相手の行為を利用し合う関係があって成り立つので、片方だけがその気でいても成立しません。これに対し、手助けは相手が気づいていなくてもできます。黙って後ろから押した人も、運ぶのを楽にしたことに変わりはないからです。

片面的共同正犯は、意思の連絡がないので否定されます
共同正犯が自分のしていない行為の結果まで責任を負うのは、互いに意思を通じ、相手の行為を利用し補い合って犯罪を実現したからです。相手が何も知らないのであれば、利用し合う関係はありません。大判大正11年2月25日は、共同正犯には行為者相互間の意思の連絡すなわち共同犯行の認識が必要であり、一人が他の者と共同する意思で犯罪に参加しても共同正犯にはならないとしました。BがVを殴ろうとしているときに、AがBに気付かれずにVの足を押さえ付けても、Aに傷害罪の共同正犯は成立しません。他人が窓ガラスを割っているのを見て、気付かれないように別の窓ガラスを割った場合も、器物損壊罪の共同正犯は成立しません。友人が車を壊しているのに加勢しようと物陰から石を投げ、その直後に友人が加勢に気づいたが、それ以降はどちらも損壊行為をしなかった場合も、石を投げた者に器物損壊罪の共同正犯は成立しません。意思の連絡ができた後に共同して実行した行為がないからです。
意思の連絡がなければ同時犯となり、各自が自分の行為から生じた結果だけに責任を負います
意思の連絡があるかどうかで結論が大きく変わることは、二人が同時に被害者を狙って発砲し、どちらの弾が命中して死亡したか分からないという事例で確かめられます。二人が共同して殺害する意思で発砲したのであれば、どちらの弾が命中したかにかかわらず、二人とも殺人既遂罪の共同正犯になります。二人に何の意思の連絡もなければ、それぞれの行為と死亡の結果との因果関係を証明できないので、それぞれに殺人未遂罪の単独犯が成立するにとどまります。片方だけが相手の発砲を知って共同する意思で発砲し、相手は何も知らなかった場合も、片面的共同正犯は否定されるので、知っていた側にだけ殺人罪の共同正犯が成立することはありません。意思の連絡がなくても、自分の行為だけで結果を生じさせたと証明できれば単独正犯になります。Bが致死量に満たない毒を入れたコーヒーに、AがBの知らない間に、合わせて致死量となる量の毒を入れ、Vがそれを飲んで死亡した場合には、Aに殺人既遂罪の単独正犯が成立します。なお、傷害の結果については、意思の連絡がない場合でも207条の同時傷害の特例が適用されることがあります。
片面的幇助は肯定され、正犯が幇助されていることを知らなくても幇助犯が成立します
幇助犯は、正犯の実行を容易にしたことを理由に処罰されます。実行は、正犯が気づかないところで容易にすることもできます。大判大正14年1月22日は、従犯が成立するための主観的要件としては、従犯者において正犯の行為を認識しこれを幇助する意思があれば足り、正犯者との間に相互の意思の連絡があることを必要としないとしました。「幇助者と正犯との間に意思の連絡がなく、正犯が幇助者の行為を認識していない場合であっても、正犯の実行行為を容易にさせる行為をしたときは、幇助犯が成立する」という肢(R5 問25 5)は正しいです。賭博場を開くことを知って、正犯に告げずに客を誘って案内した者には、賭博場開張図利罪の幇助犯が成立します。強盗の最中に現場へ近づいた住民を、正犯に気付かれないまま追い払った者にも、強盗罪の従犯が成立します。下級審には、兄らがテーブルの中に拳銃を隠して密輸入しようとしていると未必的に思い至りながら発送手続をした者について、意思を相通じたとは認められないとして共同正犯を否定し、幇助犯の成立を認めたものがあります(東京地判昭和63年7月27日)。

片面的に関与しても、正犯の実行を容易にしていなければ幇助犯は成立しません
片面的幇助が肯定されるといっても、手助けの意思があれば足りるわけではありません。正犯が幇助者の存在を知らない以上、正犯を安心させるという心理的な経路は働かないので、実行を物理的に容易にしたことが必要になります。Bが拳銃でVを狙っているのを見て、Bの弾が外れたら自分が射殺しようと考え、Bの知らない間に付近に待機していたが、Bの弾が命中してVが死亡した場合、Aに殺人既遂罪の幇助犯は成立しません。兄貴分の決意を察して何も告げずに先回りして隠れていた場合も、殺人罪の従犯は成立しません。どちらも、待機していただけで実行を何も容易にしていないからです。また、相手に気づかれないように犯罪のきっかけを与えた場合も、単独正犯にはなりません。Bに夫を殺害させようと考え、Bの知らない間に夫の不倫の写真と拳銃をBの居宅のテーブルに置き、それを見たBが殺意を抱いて夫を殺害した場合、Aに殺人既遂罪の単独正犯は成立しません。Bは自分の意思で殺意を抱いて実行しており、Aの道具ではないからです。この場合は、Aの行為によってBが殺意を抱いたといえるかを認定して、教唆犯の成否を検討することになります。
刑法 第60条(共同正犯)
二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
刑法 第62条第1項正犯を幇助した者は、従犯とする。
試験ではこう問われる
- 共同正犯には相互の意思の連絡が必要で、共謀者の知らないところで加勢しても共同正犯は成立しない(大判大正11年2月25日、R1 問24 エ ○・出題当時)
- 意思の連絡がない二人が同時に発砲し、どちらの弾で死亡したか分からなければ、それぞれに殺人未遂罪の単独犯が成立する
- 幇助犯には相互の意思の連絡は要らず、正犯が幇助者の行為を認識していなくても幇助犯が成立する(大判大正14年1月22日、R5 問25 5 ○)
- 片面的幇助でも、正犯の実行を物理的に容易にしていなければ幇助犯は成立しない
- 正犯者に気づかれないように犯罪のきっかけを与えても、単独正犯にはならない

