会社分割(吸収分割・新設分割)かいしゃぶんかつ
会社分割とは、株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を、分割後に他の会社に承継させる吸収分割(会社法2条29号)又は分割により設立する会社に承継させる新設分割(2条30号)のことです。承継される権利義務は分割契約・分割計画の定めに従って効力発生日に包括的に移転し、分割会社は権利義務の全部を承継させても解散しません。
会社の事業の一部、たとえば複数ある部門のうち一つを切り出して別の会社に移すのが会社分割です。既にある会社に移すのが吸収分割、新しく作る会社に移すのが新設分割です。事業譲渡と似ていますが、事業譲渡が一つ一つの財産や契約を個別に移す取引であるのに対して、会社分割は分割契約や分割計画に書いた権利義務が効力発生日にまとめて移る組織法上の行為です。借金も債権者の同意なしに移せる分、債権者を守る手続が用意され、切り出す側の会社は元の会社として残り続けます。

分割会社になれるのは株式会社と合同会社で、承認は株主総会の特別決議によりますが、設立会社に創立総会はなく、権利義務の全部を承継させても分割会社は解散しません
吸収分割をすることができるのは株式会社又は合同会社で、承継会社との間で吸収分割契約を締結します(757条)。新設分割も株式会社又は合同会社ができ、新設分割計画を作成します(762条1項)。承継会社・設立会社は持分会社でもかまいません(760条・765条)。分割会社が株式会社であれば、吸収分割契約・新設分割計画について株主総会の承認を受けなければならず(783条1項・804条1項)、この決議は特別決議です(309条2項12号)。事業の全部の譲渡の承認も特別決議なので(467条1項1号・309条2項11号)、新設分割設立株式会社の設立には、株式会社の設立に関する第2編第1章の規定の大部分が適用されず、創立総会の規定(65条以下)も適用されません(814条1項)。設立会社の内容は新設分割計画で定まり、株式を引き受ける者を募集するわけではないからです。会社分割は株式会社の解散事由(471条)に掲げられていないので、吸収分割株式会社がその事業に関して有する権利義務の全部を承継させても、分割会社は解散せず、対価を保有する会社として存続します。
承継される権利義務は分割契約・分割計画の定めに従って効力発生日に包括的に移り、債務も個々の債権者の承諾なしに免責的に承継され、親会社株式も承継できます
吸収分割承継株式会社は、効力発生日に、吸収分割契約の定めに従い、分割会社の権利義務を承継し(759条1項)、新設分割設立株式会社は、その成立の日に、新設分割計画の定めに従い、分割会社の権利義務を承継します(764条1項)。何を承継させるかは分割契約・分割計画で定めますが(758条2号・763条1項5号)、定めた権利義務は効力発生日に法律上当然に移転する部分的な包括承継なので、債務についても個々の債権者の承諾を得ずに免責的に承継会社へ移すことができます。債権者は個別の承諾の代わりに債権者異議手続(789条・810条)で保護されます。これに対して事業譲渡で債務を免責的に移すには、民法の免責的債務引受として債権者の承諾が要ります。「甲社がその債務を乙社に免責的に承継させようとする場合に当該債務に係る債権者の個別の同意を得る必要があるのは、吸収分割の方法による場合のみである」という記述と承継会社が対価として自社の株式を交付する場合も、その内容は分割契約で定めれば足り、現物出資のような検査役の調査は要りません。事業譲渡の対価として譲受会社が株式を発行する場合は、事業を現物出資として受け入れる募集株式の発行になるので、原則として検査役の選任が要ります(207条)。子会社は親会社株式を取得できないのが原則ですが(135条1項)、吸収分割や新設分割により他の会社から親会社株式を承継する場合は例外として取得できます(135条2項3号・4号)。

分割会社の新株予約権者には承継会社の新株予約権を交付でき新株予約権買取請求が認められる場合があり、効力発生後は当事会社が共同で事後開示の書面を作りますが、分割会社に競業避止義務の規定はありません
吸収分割契約では、分割会社の新株予約権者に対し、その新株予約権に代わる承継会社の新株予約権を交付する旨とその内容を定めることができます(758条5号・6号)。合併と違って分割会社は存続するので、交付するかどうかは任意です。「乙社が、甲社との合意により、当該承継に際して甲社の新株予約権の新株予約権者に対して当該新株予約権に代わる乙社の新株予約権を交付することができるのは、吸収分割の方法による場合のみである」という記述は正しく、事業譲渡にはこのような規定がありません。新株予約権の内容として吸収分割の際に承継会社の新株予約権を交付する旨の定め(236条1項8号ロ)があるのに分割契約の定めがその条件に合致しない場合などには、新株予約権者は分割会社に対して新株予約権の買取りを請求することができます(787条1項2号)。事業譲渡では譲渡会社の新株予約権者に買取請求権はありません。吸収分割株式会社は、効力発生日後遅滞なく、承継会社と共同して、承継された権利義務その他の事項を記載した書面を作成し、6か月間本店に備え置きます(791条1項・2項)。新設分割も同じです(811条)。事業を譲渡した会社は、別段の意思表示がない限り20年間同一の事業を行ってはならないという競業避止義務を負いますが(21条1項)、会社分割の分割会社にこのような義務を定めた規定は会社法にありません。
会社分割と事業譲渡の違い
- 性質: 会社分割は組織法上の行為で部分的包括承継、事業譲渡は取引行為で個別の移転行為が要る
- 債務の免責的承継: 会社分割は債権者の個別の承諾不要(債権者異議手続で保護)、事業譲渡は承諾が要る
- 対価が株式の場合: 会社分割は分割契約で定めれば足りる、事業譲渡は現物出資として検査役の調査が原則要る(207条)
- 新株予約権者: 会社分割は承継会社の新株予約権を交付でき買取請求もある(758条5号・787条1項2号)、事業譲渡には無い
- 事後開示: 会社分割は当事会社が共同で作成し6か月備置き(791条・811条)、事業譲渡には無い
- 競業避止義務: 事業譲渡の譲渡会社にはある(21条1項)、分割会社には規定が無い
- 残存債権者の直接請求: 会社分割(759条4項・764条4項)にも事業譲渡(23条の2)にもある
- 商号続用の責任: 事業譲渡は22条1項、会社分割には判例が類推適用
残存債権者を害することを知ってした分割では承継会社に履行を請求でき、事業譲渡にも同じ規定があり、商号を続用した承継会社には22条1項が類推適用されます
分割会社が、承継会社に承継されない債務の債権者(残存債権者)を害することを知って吸収分割をした場合には、残存債権者は、承継会社に対して、承継した財産の価額を限度として、その債務の履行を請求することができます(759条4項)。承継会社が効力発生時に残存債権者を害することを知らなかったときは請求できません。新設分割にも同じ規定があります(764条4項)。優良な事業だけを新会社に移して債権者を置き去りにする会社分割に対して平成26年改正で設けられた規定で、同じ改正で事業譲渡についても、譲渡会社が残存債権者を害することを知って事業を譲渡した場合に譲受会社へ直接請求できる規定が置かれました(23条の2)。詳しくは詐害的な会社分割で扱います。また、事業を譲り受けた会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合に譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負うとする22条1項について、判例は、会社分割に伴ってゴルフ場の事業が承継され、承継会社が預託金会員制ゴルフクラブの名称を引き続き使用している場合にも類推適用されるとしています(最判平成20年6月10日)。会員から見れば事業の主体が変わったことが分からないという点で事業譲渡と変わらないからです。
会社法 第759条第1項吸収分割承継株式会社は、効力発生日に、吸収分割契約の定めに従い、吸収分割会社の権利義務を承継する。
会社法 第759条第4項第一項の規定にかかわらず、吸収分割会社が吸収分割承継株式会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って吸収分割をした場合には、残存債権者は、吸収分割承継株式会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、吸収分割承継株式会社が吸収分割の効力が生じた時において残存債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
会社法 第757条(吸収分割契約の締結)
会社(株式会社又は合同会社に限る。)は、吸収分割をすることができる。この場合においては、当該会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継する会社(以下この編において「吸収分割承継会社」という。)との間で、吸収分割契約を締結しなければならない。
試験ではこう問われる
- 新設分割計画の承認は株主総会の特別決議(804条1項・309条2項12号)。設立会社に創立総会はない(814条1項)
- 分割会社の債務は分割契約・計画の定めに従い、個々の債権者の承諾なしに免責的に承継される(759条1項・764条1項)
- 権利義務の全部を承継させても分割会社は解散しない(471条)
- 設立会社・承継会社は親会社株式を分割会社から承継できる(135条2項)
- 分割会社の新株予約権者に承継会社の新株予約権を交付でき(758条5号)、新株予約権買取請求が認められる場合がある(787条1項2号)。事業譲渡には無い
- 効力発生後に当事会社が共同で事後開示の書面を作り6か月備え置く(791条・811条)
- 会社法は分割会社に競業避止義務を定めていない。譲渡会社にはある(21条1項)
- 残存債権者を害することを知ってした分割では承継会社に直接請求できる(759条4項)。事業譲渡にも同じ規定がある(23条の2)
- 商号(ゴルフクラブの名称)を続用した承継会社には22条1項が類推適用される(最判平20.6.10)

