役員の解任の訴えやくいんのかいにんのうったえ
役員の解任の訴えとは、役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、その役員を解任する旨の議案が株主総会で否決されたときに、総株主の議決権又は発行済株式の100分の3以上を6か月前から引き続き有する株主(公開会社でない会社では保有期間は不要)が、株主総会の日から30日以内に、会社と当該役員の双方を被告として、訴えをもって解任を請求する制度のことです(会社法854条・855条)。
取締役が会社の金を使い込んでいるのに、その取締役が多数派の株主と結びついていて、株主総会で解任の議案を出しても否決されてしまうことがあります。多数決で守られた不正な役員を放置すると会社と少数派の株主が害されるので、会社法は、一定数の株式を持つ株主が裁判所に解任を求める道を開きました。ただし、株主総会で解任を試みて否決されたことが出発点で、いきなり裁判所に行くことはできません。訴えの期間は30日と短く、相手は会社と役員の両方です。判決で役員の地位を失わせる訴訟であって、裁判所が後見的に決める非訟事件ではありません。

解任議案が株主総会で否決されたことが要件で、否決の有無を問わず提起できるわけではありません
役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき(又は解任の決議が種類株主総会の決議を欠くため効力を生じないとき)は、所定の株主は、当該株主総会の日から30日以内に、訴えをもって当該役員の解任を請求することができます(854条1項)。役員の解任は本来株主総会の権限(339条1項)なので、まず株主総会で解任を諮り、多数派がそれを否決した場合に初めて裁判所が介入する建て付けです。したがって、不正の行為があっても、解任議案を株主総会に出していない段階で訴えを起こすことはできません。「会社法所定の要件を満たす株主は,代表取締役の職務の執行に関し法令に違反する重大な事実があった場合には,その代表取締役を取締役から解任することを議案とする株主総会が開催されたか否かを問わず,訴えをもってその解任を請求することができる」という記述と、少数株主は、株主総会の招集請求(297条1項)や議題提案権(303条)で解任を議題にすることができ、否決されればこの訴えに進みます。訴えを起こせるのは、総株主の議決権の100分の3以上の議決権又は発行済株式の100分の3以上の数の株式を6か月前から引き続き有する株主(いずれも定款で引き下げられる)で、公開会社でない株式会社では6か月の保有期間は要りません(854条1項・2項)。解任の対象となる役員が株主であっても、その役員の議決権・株式は分母からも分子からも除かれます。
提訴期間は株主総会の日から30日以内で、被告は会社と当該役員の双方です
訴えは、解任議案が否決された株主総会の日から30日以内に提起しなければなりません(854条1項)。役員の地位を長く不安定にしないための短い期間です。被告は、当該株式会社及び当該役員の双方です(855条)。判決が確定すると役員は地位を失い、その効力は会社にも役員本人にも及ぶ必要があるので、両方を共同被告にしなければならない固有必要的共同訴訟と解されています。「株式会社の取締役の解任の訴えについては,当該株式会社及び当該取締役の双方を被告としなければならない」という記述は正しく、管轄は会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の専属管轄です(856条)。

判例は、任期満了後もなお取締役の権利義務を有する者に対しては解任の訴えを認めません
任期の満了又は辞任により退任した役員は、後任が就任するまでなお役員としての権利義務を有します(346条1項。権利義務取締役)。判例(最判平成20年2月26日)は、同族会社で発行済株式の半数を持つ株主が、取締役の選任議案が否決された後も権利義務取締役として職務を行っている相手方について、854条に基づく解任の訴えを起こした事案で、346条1項により退任後もなお役員としての権利義務を有する者については、その職務の執行に関し不正の行為又は法令・定款違反の重大な事実があったとしても、854条を適用又は類推適用して株主が訴えをもって解任を請求することは許されないとしました。理由は二つで、854条が解任請求の対象を「役員」と規定し権利義務者を含む旨の規定を置いていないことと、株主は346条2項により裁判所に一時役員の職務を行うべき者の選任を申し立てることができ、一時役員が選任されれば権利義務者はその地位を失うので救済手段として十分であることです。権利義務取締役を排除したい株主は、解任の訴えではなく一時役員の選任の申立てによることになります。
解任の訴えは判決で役員の地位を失わせる訴訟手続であって、非訟事件ではありません
会社法には、裁判所が後見的に判断する非訟事件の手続によるものが多くあります。反対株主の株式買取請求における買取価格の決定、株主総会の招集手続等に関する検査役の選任(306条)、一時役員の選任(346条2項)などがそれで、これらは訴えではなく申立てによります。これに対し、役員の解任の訴えは、要件を満たすかを当事者が対立して争い、判決の確定によって役員の地位を失わせる形成の訴えで、会社と役員を被告とする訴訟手続です(854条・855条)。したがって、訴訟手続ではなく会社法上の非訟事件の手続によるものを選ぶ問題では、「株式会社の取締役の解任」は非訟事件には当たりません。また、ある議案を否決する株主総会の決議の取消しを請求する訴えは不適法であるとした判例(最判平成28年3月4日)の論拠を問う問題では、「会社法は,…当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたときは,会社法所定の株主は,訴えをもって当該役員の解任を請求することができる旨を定めている」という記述は、否決に法的な意味を認める規定であって、否決決議の取消しの訴えを不適法とする論拠にはなりません。
役員の解任の訴えの要件
- 対象: 役員(取締役・会計参与・監査役)の職務の執行に関し不正の行為又は法令・定款に違反する重大な事実があったこと(854条1項)。権利義務役員は対象外(最判平20.2.26)
- 前提: 当該役員を解任する旨の議案が株主総会で否決されたこと(又は種類株主総会の決議を欠いて解任決議が効力を生じないこと)
- 原告: 総株主の議決権の100分の3以上又は発行済株式の100分の3以上を6か月前から引き続き有する株主。公開会社でない会社は保有期間不要(854条2項)。対象役員の持分は除く
- 期間: 株主総会の日から30日以内
- 被告: 会社と当該役員の双方(855条)。管轄は本店所在地の地方裁判所の専属(856条)
- 手続: 訴訟(形成の訴え)。非訟事件ではない
会社法 第854条第1項役員(第三百二十九条第一項に規定する役員をいう。以下この節において同じ。)の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき又は当該役員を解任する旨の株主総会の決議が第三百二十三条の規定によりその効力を生じないときは、次に掲げる株主は、当該株主総会の日から三十日以内に、訴えをもって当該役員の解任を請求することができる。
一 総株主(次に掲げる株主を除く。)の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主(次に掲げる株主を除く。)
イ 当該役員を解任する旨の議案について議決権を行使することができない株主
ロ 当該請求に係る役員である株主
二 発行済株式(次に掲げる株主の有する株式を除く。)の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主(次に掲げる株主を除く。)
イ 当該株式会社である株主
ロ 当該請求に係る役員である株主
会社法 第855条(被告)
前条第一項の訴え(次条及び第九百三十七条第一項第一号ヌにおいて「株式会社の役員の解任の訴え」という。)については、当該株式会社及び前条第一項の役員を被告とする。
試験ではこう問われる
- 解任議案が株主総会で否決されたことが要件(854条1項)。否決の有無・株主総会の開催の有無を問わず提起できるとする肢は誤り
- 提訴期間は株主総会の日から30日以内(854条1項)
- 原告は議決権又は発行済株式の100分の3以上を6か月前から有する株主。公開会社でない会社は保有期間不要(854条2項)
- 被告は会社と当該役員の双方(855条)。会社のみを被告とするのは誤り
- 任期満了後の権利義務取締役に対する解任の訴えは認められない(最判平20.2.26)。一時役員の選任の申立て(346条2項)による
- 解任の訴えは訴訟手続で、非訟事件ではない

