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登記書類の返還を拒む義務(双方から委託を受けた司法書士)とうきしょるいのへんかんをこばむぎむ

司法書士法 第2章 司法書士の義務と懲戒

登記書類の返還を拒む義務とは、登記権利者と登記義務者の双方から登記手続の委託を受けて必要書類を受け取った司法書士が、登記義務者から書類の返還を求められても、登記権利者の同意があるなど特段の事情のない限り、その返還を拒むべき委任契約上の義務を登記権利者に対して負うことです(最判昭和53年7月10日)。試験では、委任はいつでも解除できるという民法651条1項の原則がこの場面では働かない点が問われています。

不動産の売買では、売主(登記義務者)と買主(登記権利者)が同じ司法書士に所有権の移転の登記の申請を依頼することがあります。この場面で売主が気を変え、申請前に「預けた書類を返してほしい」と求めたときに、司法書士がどうすべきかが問題になります。登記書類の返還を拒む義務は、この問題についての最高裁の判断です。

司法書士役の先生が登記書類の束を押さえ、売主が返還を迫り、買主が心配そうに見守る
双方から委託を受けた司法書士は、登記義務者から書類の返還を求められても、登記権利者の同意などの特段の事情がない限り返還を拒むべき義務を負います
登記権利者に対する義務特段の事情がなければ拒む権利者の同意があれば返せる義務者だけでは解除できない
最判昭和53年7月10日(要旨)

登記権利者及び登記義務者双方から登記手続の委託を受け、手続に必要な書類の交付を受けた司法書士は、手続の完了前に登記義務者から書類の返還を求められても、登記権利者に対する関係では、同人の同意があるなど特段の事情のない限り、その返還を拒むべき委任契約上の義務を負う。

同じ司法書士が双方から登記の申請の代理を受けることは、双方代理の禁止に反しません

民法108条1項本文は、同一の法律行為について当事者双方の代理人としてした行為を無権代理とみなし、ただし書で債務の履行と本人があらかじめ許諾した行為を除いています。最高裁は、登記申請は登記所に対して登記を求める公法上の行為で、民法上の法律行為ではなく、すでに生じた権利変動の公示を申請するものであり、登記義務者にとっては義務の履行であるから、同一人が登記権利者と登記義務者の双方の代理人となっても、民法108条本文とその法意に反せず無効にならないとしました(最判昭和43年3月8日)。昭和53年の判例は、この双方からの委任を前提に、司法書士の義務を判断したものです。

司法書士役の先生が売主と買主の双方から委任状を受け取る事務所
同じ司法書士が登記権利者と登記義務者の双方から登記の申請の代理を受けても、双方代理の禁止に反しません
双方代理でも有効登記申請は義務の履行最判昭和43年3月8日
民法 第108条第1項

同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

返還を拒む義務は、登記権利者に対する委任契約上の義務として生じます

判旨は、司法書士が返還を拒むべき義務を「登記権利者に対する関係では」負うとしています。双方から委任を受けた司法書士は、登記義務者から預かった書類を、登記権利者のためにも保管していることになります。登記権利者の同意などの特段の事情がないのに、登記義務者の求めに応じて書類を返すことは、登記権利者に対するこの義務に反します。受任者は委任の本旨に従い善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負います(民法644条)。

民法 第644条第1項

受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

双方からの委任は登記権利者の利益も目的とするので、登記義務者だけでは解除できません

民法651条1項は、委任は各当事者がいつでも解除できると定めています。しかし、判例は、双方から登記手続を委託された場合の登記義務者と司法書士との委任契約は、登記権利者の利益をも目的とするものであり、契約の性質上、登記権利者の同意などの特段の事情のない限り解除できないとしました。そのため、司法書士は登記権利者に対する関係で、書類の返還を拒むべき義務を負います。

民法 第651条第1項

委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。

特段の事情があるときは、返還に応じることになります

判例が例外として挙げるのは、登記権利者の同意がある場合などの特段の事情です。登記権利者が同意すれば、司法書士は登記義務者に書類を返還できます。

民法651条2項の「受任者の利益」の場面とは、保護される者が違います

民法651条2項は、委任を解除した者が相手方に損害を賠償しなければならない場合として、相手方に不利な時期に解除したとき(1号)と、委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任を解除したとき(2号)を挙げています。2号は解除そのものは認めたうえで、受任者の損害を賠償させる規定です。これに対し昭和53年の判例が問題にしたのは、受任者である司法書士ではなく、登記義務者と司法書士の間の委任契約では当事者でない登記権利者の利益です。判例は、その利益を理由に、登記義務者からの解除そのものを特段の事情のない限り認めませんでした。

民法 第651条第2項

前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。
二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。

試験ではこう問われる

  1. 双方から登記申請の代理の依頼を受けて書類を受領した司法書士は、申請前に登記義務者から返還を求められても、登記権利者に対する関係では、特段の事情のない限り返還を拒むべき義務を負う(最判昭和53年7月10日。H26 午後 問8 オ ○・出題当時)
  2. 同一の司法書士が登記権利者と登記義務者の双方から登記申請の代理を受けても、民法108条に反しない(最判昭和43年3月8日)
  3. 返還を拒むべき義務は、登記権利者に対する委任契約上の義務として生じる(最判昭和53年7月10日)
  4. 登記権利者が同意したときなど特段の事情があれば、登記義務者に書類を返還できる(最判昭和53年7月10日)
  5. この場面の登記義務者と司法書士の委任契約は、登記権利者の同意などの特段の事情のない限り、民法651条1項にかかわらず解除できない(最判昭和53年7月10日)

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